好調のニトリHD、島忠買収で相乗効果

前回のコラムでは、今後親子上場の解消や資本関係の見直し・再編が進んでいく中で、消費者向けにブランド力のある会社であればいっそうそのような再編を行いやすいだろうという話をいたしました。

親子上場解消の見通しの背景は以下の記事をご参照ください。

●セコムなど相次ぐ子会社の公開買付(TOB)、今後注目の企業は?(2021/6/1)

その上で、前回のコラムでは主に小売業でブランド力がありそうな親子会社の例をご案内いたしました。直近では同様の事例としてニトリHD(9843)の決算が注目されています。同社はご存知のように2020年、他社との争奪戦の末、ホームセンターの島忠を買収しました。ニトリでは同社のプライベートブランドを島忠に導入することや、ニトリホームズという島忠の「ホームズ」ブランドを活かした店舗を展開、業績が好調のようです。決算発表は6月30日だったのですが、決算を好感し7月1日にニトリ株は値上がり、一時大きく買われる場面もありました。

これは元々ブランド力があり、かつ店舗網という販路もある会社による買収の好例だと思われます。また、業種が近いことでコスト削減などの相乗効果も出ているようでした。ニトリと島忠の場合は元々資本関係がなかったので、このような効果は大きいと思われますが、ブランド力のある子会社などの再編は相対的に選択しやすい動きといえるいい例だと思います。

ワコール、大塚製薬が親子関係を結ぶ企業とは?

さて、前回の小売業に続き、一定のブランド力がありそうな消費者向けのメーカーで、上場している親子関係にある企業を見ていきたいと思います。まず、美容品・化粧品を取り扱うハウスオブローゼ(7506)はその一例です。下着大手のワコール(3591)が同社に20%強出資しています。いずれも主に女性向けの美容を取り扱う企業で小売店の展開などでも相乗効果は大きいように思います。殺虫剤などで知られるアース製薬(4985)も大塚製薬が10%弱の株式を保有しており、グループで20%強の出資をしているようです。アース製薬は「アースノーマット」など虫対策の製品や「モンダミン」など個人向けのブランドを多数展開している企業です。大塚製薬はイメージほど「ポカリスエット」「オロナミンC」など消費者向けのビジネスの比重は高くなく、医療用の医薬品が中心なのですが、グループに「チオビタ」の大鵬薬品工業もあり、個人向けのビジネスにも積極的だと考えられます。大鵬薬品工業もアースの株主となっています。

食品業界で見られる多様な資本関係

次に、食品業界です。食品業界は特に個人向けのブランドが多く、また口に入れるものだけに特にブランド力が重要となる分野です。それもあって、ブランドの獲得を巡って食品業界は再編が続いており、以下の記事でもご紹介しています。

●カルピス、CoCo壱番屋、豆乳事業の買収など「食品業界の再編」を読み解く(2021/5/28)

それでは、食品業界ではどういう資本関係があるのでしょうか。食品業界では元々資本関係は少なくありません。たとえば、かつて経営不振に陥った不二家(2211)は山崎製パン(2212)が支援をし、過半数の株式を握っています。その不二家はアイスクリームのサーティワン(2268)に資本参加しています。山崎製パンは北海道主力の日糧製パン(2218)にも30%弱の出資を行っています。九州では有力な棒ラーメンメーカーマルタイ(2919)は九州地盤のガス会社西部ガス(9536)が33.3%を出資しています。スナック菓子の湖池屋(2226)には日清食品HD(2897)が45%強の出資を行っています。ジャムで有名なアヲハタ(2830)もキユーピー(2809)が45%弱の出資を行っています。日本製粉から社名を改めたニップン(2001)は油揚げのオーケー食品工業(2905)の株式の過半を握っています。変わったところだと、養命酒製造(2540)の筆頭株主は大正製薬HD(4581)です。大正製薬は直近で子会社だったビオフェルミン製薬を完全子会社化しています。上場企業関係でもこれだけ資本関係があるのです。

食品業界への出資に力を入れる総合商社とは?

食品企業への出資だと、総合商社の存在感も目立ちます。三菱商事(8058)はキャンディーのカンロ(2216)、チーズ製品の六甲バター(2266)、伊藤ハム米久HD(2296)、ごま油のかどや製油(2612)、永谷園(2899)など多様な食品企業の筆頭株主です。伊藤忠商事(8001)はグループも含め、プリマハム(2281)、飲料品のジャパンフーズ(2599)、不二製油(2607)の筆頭株主で、丸紅(8002)は日清オイリオ(2602)、豊田通商も第一屋製パン(2215)の筆頭株主となっています。商社がこれだけ投資しているのは、本業との関係が大きいと思います。また、総合商社の場合は前回のコラムで取り上げたように三菱商事であれば、ローソン(2651)、伊藤忠商事であればファミリーマートといった系列の小売店もあるので、そこでの販売品にも活用できるという目線もありそうです。

実際に今後買収や親子関係の解消に進むかどうかは、親会社のビジネス領域やM&Aへの積極性、マーケット環境など様々な観点があるように思います。一方で、上場している企業の資本関係の見直しは今後加速してくると考えています。これらの企業分析は良い投資機会の発見につながるように思います。