先週の動き:ニューヨーク金先物は利下げ観測後退を織り込み反発、国内価格は再び最高値接近

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は週間ベースで反発となった。2月23日の終値は前週25.30ドル、1.25%高の2,049.40ドルで終了した。前日まで2023年11月下旬以来の水準に達した米長期金利の上昇が一服し、ドル指数(DXY)の上昇も一服したことで、ファンドの買戻しが入り反発につながった。

2月21日に発表された1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、多くのメンバーが早期の利下げに慎重な見解を示していた。加えて、その後も複数の連邦準備制度理事会(FRB)高官による同様の発言が続き、市場が織り込む今年の利下げ回数は3回に減少。利下げ開始は6月以降になる可能性も急速に織り込まれつつある。2月22日の米債市場では、中長期債の利回りは総じて数ヶ月ぶりの水準へ上昇。10年債(4.326%)はじめ約3ヶ月ぶりの高水準まで上昇していた。23日に上昇が一服状態になったのは、前のめりにFRBの早期利下げを前提に動いていた市場が、ここに来て急速にFRBの見通し(12月FOMC時の予想)に沿う形で利下げ観測の修正を進めたことが、米債売りの歯止めにつながったとみられる。

先週のNY金のレンジは、2,024.10~2,053.20ドルだったが、これは想定レンジとした2,020~2,050ドルにほぼ沿ったものだった。

一方、国内金価格は、米ドル円相場が150円台をやや上回った水準で滞留したことを受け、NY金の上昇をそのまま映す形で上昇した。国内金価格は週間ベースで124円、1.28%上昇の9,805円で終了。週足で反発となるとともに、終値ベースでは2023年12月4日に記録した過去最高値9,839円に接近している。当時の米ドル円相場が147円台であることから、足元の国内価格は円安による押し上げ効果が大きいと言える。先週の国内金価格のレンジは、9,657~9,807円だったが、こちらも9,620~9,820円としていた想定レンジにほぼ収まることになった。

株式市場最高値更新の中で安値更新の世界最大手金鉱株

先週末2月23日の米主要株価指数は、好決算発表の半導体エヌビディア[NVDA]にけん引され過去最高値更新が続いた。その中にあって世界最大手の金鉱山会社ニューモント[NEM]の終値は31.28ドルと、2019年5月22日に付けた安値31.32ドルを下回って終了した。2月23日までの52週でみて28.16%の下落で、この間のS&P500種平均株価の21.18%上昇とは対極の値動きといえる。収益基盤であるゴールドの価格は、同じく2月23日までの52週で12.5%上昇とした。NY金は2023年12月27日に終値ベースで2,093.10ドルの過去最高値を記録し、それ以降も2,000ドル超の高値圏で推移している。その中でのニューモント株のこれほどの下落の背景とは何か。

まず、NY金の価格が最高値圏で推移する中で、同社が発表した2023年10~12月期決算が31億3,900万ドルの赤字だったことが挙げられる。前年同期の赤字額14億7,700万ドルを上回った。

同社は2023年、オーストラリアの大手金鉱会社ニュークレストを買収し、バリック・ゴールド(カナダ)[GOLD]を抜いて最大手になった経緯がある。買収金額は150億ドルで金鉱山株のM&Aでは過去最高規模となった。ただし、今回の決算にはニュークレストとの統合に伴う4億2,700万ドルの費用が計上された。

こうした一時的費用もあるが、収益低下の大きな要因は、産金コストの上昇である。現在産金企業が直面しているのが、1トロイオンス(=31.1035グラム)当たりの総コストの急上昇だ。2023年7~9月期の世界の平均総コストは1,343ドル(調査会社メタルズ・フォーカス調べ)。2020年7~9月期は980ドルだった。鉱山は電力消費が多いことで知られるが、この間のインフレでエネルギーコストが上昇した。さらに労働集約型産業ゆえに、人件費の上昇もコストを大きく押し上げた。さらに北米地域は環境保護の規制の厳しさでも知られ、関連費用も上がっている。実際に産金コストには地域差があり、北米が1,470ドルと最も高くなっている。かつて最もコストの高いのは、南アフリカなどアフリカ地域だったが、現在は1,327ドルだ。いずれにしても総コスト上昇が、金価格上昇の中で金鉱山株の収益を圧迫し、株価低迷につながっている。

今週の見通し:NY金が2,025~2,055ドル、国内金価格9,750~9,900円

FRBによる3月利下げ観測が消え、5月の可能性も薄くなった先週、投資銀行大手ゴールドマン・サックスは1月のFOMC議事要旨やFRB高官の発言を踏まえ、最初の利下げ予想をこれまでの5月から6月に変更するレポートを発表。年内の利下げ回数は従来予想の5回から4回に引き下げた。こうした中でNY金は前述のように週足反発と底堅さが目立つ流れが続いた。

今週は2月29日に1月の米個人消費支出(PCE)価格指数(デフレーター)が発表される。食品とエネルギーを除いたコア指数(コアPCEデフレーター)が注目される。1月分の他のインフレ指標が軒並み上振れたものの、前年同月比の伸びは、市場予想で2.8%と、12月の2.9%から鈍化が予想されている(ダウ・ジョーンズ調べ)。ただし、前月比の伸びが加速するとみられており、この点を市場は警戒している。引き続きFRB高官の発言が予定されている。

想定レンジはNY金が2,025~2,055ドル、国内金価格は終値での高値更新を見込む9,750~9,900円を予想する。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券