元手100万円で日本株への投資をはじめ、2023年末には通算獲得利益が85億円(含み益込み、税引き前)に達した井村俊哉さん。元お笑い芸人から投資家に転身し、「ニッポンの家計に貢献する」ことを目指して、将来的にはファンドを立ち上げたいと表明しています。そんな井村さんに、投資を始めたきっかけやマーケットへの視点、銘柄選びのポイントやファンダメンタルズ分析の極意などについて伺いました。

●井村俊哉さんプロフィール●
株式投資家(億り人)、中小企業診断士。元お笑い芸人。1984年生まれ。大学在学中に株式投資を始め、2011年に元手100万円で本格始動。2017年に通算運用益1億円、2023年には80億円を突破。「ニッポンの家計に貢献する」というミッションを掲げ、株式会社Kaihouを設立。

厳しいお笑いの世界で「先立つもの」を得るため、投資スタート

――井村さんが株式投資を始めたきっかけを教えてください。

株式投資を始めたのは2005年、大学3年生のときです。将来を考えるタイミングで「やりたいこと」を見つけたのですが、普通に就職する道ではなく、お笑い芸人という道でした。

お笑いに興味を持ったのは、大学に入って一人暮らしを始めてからです。父親が堅物でお笑い番組などはあまり見せてもらえない家庭でしたので、「こんなに面白い世界があるのか!話をするだけでお金をもらえるなんて最高じゃないか」と。

といっても、それが簡単な道ではないことは覚悟していたので、「先立つもの」を獲得する手段として日本株投資に目をつけました。

 
学生だった当時、インターネット上で「お笑い芸人は収入が不安定なうえ、急に仕事が入ることもあるのでアルバイトもやりにくい。そのため株式投資で生計を立てる人がいる」といった内容を目にしたのですが、そのページの下に「証券口座の開設はこちら」というバナーが掲載されていました。

私は子どもの頃からお金に関心があり、お年玉をしっかり貯めたり、ゲームはやらないけれどゲームを転売して利益を得たり…といったことをしていたので、いつかは投資をやるんだろうなとぼんやりとは考えてはいました。ですので、そのバナーを見た時は何の迷いもなくクリックしたように思います。

お笑いの世界には、10年程度は泥水をすする覚悟で飛び込みましたが、「投資で稼げれば、泥水じゃなくて、普通の水くらいは飲めるんじゃないか」と期待して投資を始めました。

デイトレードで数百万円の損失も経験

――投資は最初から成功されたのですか?

そんなことはありません。投資で利益を得る手法は、100人いれば100通りのやり方がありりますし、その懐の深さが投資の魅力の一つだとも思っています。ただし、自分の適性と手法がフィットしないと利益を上げることはできない。しかも、どのやり方が自分にあっているかは、やってみないと分からないことが多い。私もあらゆる方法を試して、向いていない手法をそぎ落とし、最終的に現在の手法にたどり着きました。

――投資をスタートしたころはどんな手法を取り入れていたのですか?

2011年から本格的に投資を始めたのですが、きっかけは妻と出会い、この人と結婚したいと考えたことでした。生活の助けにしていたアルバイトを辞めて、100万円を元手に投資をスタートしました。

当時は、ファンダメンタルズに注目する手法のほかに、デイトレードもやっていましたが、デイトレは本当に苦しかったです。毎日、魂を削る作業だと思いながらやっていました。でも、なかなか止めることができない。止められたのは2017年に資産が1億円を超えた頃だと思います。

2016年に1人目の子どもが生まれて、その1週間後くらいだったと思うのですが、妻に「そんな顔をして子どもを抱っこしないで」と言われたのです。その日はデイトレードで200万円か300万円ほど損をした日で、それが顔に出ていたのでしょうね。その言葉がグサッと刺さり、「もう、デイトレは止めよう」と決心したのですが…。翌日には「昨日の損を取り戻せるかも」とやってしまう。きっぱり止めるまでに数ヶ月かかりました。

だからと言って、デイトレがダメだというわけではありません。私には合っていなかったというだけの話です。

探すべきは「見切り品の納豆」のような銘柄

――100万円の元手から始めて、12年で通算獲得利益85億円を達成されています。井村さん投資手法について教えてください。

企業のファンダメンタルズに着目し、「アルファ(α)」のある銘柄に投資するという手法です。アルファとは超過収益のことです。ポイントをひとつ挙げるとすれば、「いい会社であっても株価が上がるわけではない」という矛盾に気づくことだと思います。

 

個々の銘柄には、適正な価格(フェアバリュー)、本源的価値があり、今、市場で付いている価格と本源的価値の差分が利益の源泉になります。本源的な価値より割安なものが、適正な価格に戻る過程でキャピタルゲインを得るというのが、ファンダメンタルズに着目した投資の基本形です。どんなに良い会社であっても、本源的価値を超過するバリュエーションがマーケットでついていたなら、株価には下方に圧力がかかり、いずれあるべき位置に収斂していくと考えています。

アルファのある銘柄は「見切り品の納豆」に例えられます。納豆は栄養豊富な食品ですが、賞味期限が近づくと、もともとついていた値段の半値ぐらいで売られることがあります。でも、賞味期限が間近な納豆は、美味しく食べられるうえ、納豆菌が増殖しているため、むしろ本源的な価値が高まっているとも考えられます。本源的価値は変わらない、むしろ高まっているのにバリュエーションが半額になっているのですから、めちゃくちゃお得な状態と言えるでしょう。

しかし、見切り品がイチゴだったなら、物自体が劣化してしまうため、本源的価値自体が損なわれているということになります。私が探すのは、本源的価値は変わらない、あるいは高まっているのに割り引かれている「見切り品の納豆」のような銘柄です。それをマーケットでいち早く探し出すのが私の投資手法です。

“秘伝のタレ”とも言える銘柄リスト500は常時リフレッシュ

――アルファのある銘柄を見極めるにはどんなことが必要でしょうか?

アルファを見極めるには、①アルファがありそうな銘柄を発掘する作業②発掘した銘柄を深掘りし、アルファを精査する作業③アルファが解消される時期を想定する作業、という大きく3つの工程があります。ポイントは、本源的な価値より割安な銘柄を見つけるだけでは不十分であり、アルファが解消されると期待できるカタリストなどを想定しておくことです。

それまでは、見切り品だと思われていたものが、「特選品だった」とマーケットが気付くストーリーを考え投資アイデアに盛り込んでおきます。投資アイデアは、外部環境の変化などを起点とするトップダウンアプローチと、決算書を読み、企業取材をするなどで銘柄を見極めるボトムアップアプローチの両面から作っていきます。

銘柄を深掘りしていく工程では、財務モデリングを組むなどして本源的な価値を算出し、投資アイデアとしては、2~3年でアルファが解消され2倍の利益が見込める銘柄に投資します。

――銘柄の発掘では、どのような情報を確認するのでしょうか?

一番重要視しているのは企業の開示情報です。東証に上場している3900社の決算短信や決算説明資料など適時開示情報を全件チェックしています。すべてを開封して読み込むわけではありませんが、開示情報のヘッドラインや業績、業績の修正などを全件チェックし、変化を感じる銘柄の資料からその原因と結果を探し出し、ひたすらにメモを取ります。最近は、コーポレートガバナンス報告書に注目していて、資本コストと株価を意識した経営に関する記述を注意深く見ています。

――決算書で見るべきポイントを教えてください。

銘柄によって押さえるべきポイントが異なるので、これという正解はありませんが、目線として共通するのは、変化に着目するということ。変化の芽を感じた銘柄を、銘柄リストに追加していきます。

銘柄リストには、一定程度のアルファが含まれていると判断した銘柄を常時500くらい登録してあり、決算や値動きなどを見ながら他の銘柄と入れ替え日々リフレッシュしています。リストは何度も継ぎ足しながら使い続ける“秘伝のタレ”のようなものですね。

決算はこのリストを磨く機会と捉えています。アルファが解消されるかもしれない変化の兆しを察知したら、監視レベルを引き上げ調査を開始するなどしています。

「マーケットは頻繁に間違えている」と考える理由

 

――企業分析にどの位時間をかけていますか?

1日24時間のうち、睡眠時間を除くほとんどの時間を投資の研鑽にあてています。決算など開示資料の読み込み、企業取材、業界リサーチ、モデルの作成、アナリストレポート・Twitter・投資ブログに投資メディアの閲覧…やれることは膨大にあります。近頃は、作業の効率化にもチャレンジしていて、例えば、コーポレートガバナンス報告書が開示されると、資本コストに関する記述だけ抜き出してメールで通知するような仕組みです。効率化できれば、もっと株のこと調べられますからね。

時々「そこまでやらなくてもいいのでは?」と言われることもあります。これには、限界に近いところまでやり切ることで自分のメンタリティを鍛えるという意図もあるのです。

私は、「マーケットは頻繁に間違えている」と考えています。「マーケットが本源的価値に気づいておらず、ミスプライスになっているのではないか」と。下がりゆく株価に逆らって買いを入れるために、その確信を確かなものにしたく、苦行とも言えるようなリサーチをしているのです。

――苦行とも言えるリサーチを経てこそ、強い気持ちで投資に向かえるのですね。

買う時には、「ここまで調べたのだから、マーケットが『NO』を突きつけたとしても、自分が全部買ってやる」という気持ちで、マーケットに逆らいにいきます。他の参加者が出した答えとは違う答えを自分は持っているんだという強い意思を示すわけです。

だから、買い始めてから、株価が10~20%下落しても損切りはしません。でも、めちゃくちゃ不安にはなる。「もしかしたら、自分の仮説に誤りがあるんじゃないか」と不安になればなるほど、歯を食いしばってリサーチをするモチベーションに変換しています。不安が打ち消されるまであらゆる手段を尽くし調べ上げます。

その過程で、見落としていたことや気づきがあれば、売るという判断をする場合もあります。ですが、自分の判断に1ミリの曇りもないと確信できた時には、「全部買う」という気持ちで買い向かっていきます。

95%強の確信が持てる銘柄のみ、片手に収まる程度を保有

――アルファを取れると確信が持てる銘柄しか買わないということですね。

そうです。売買の判断をするうえで大切にしていることに、経営者で投資家の竹田和平さんの言葉があります。

「そんなに買いたければ売ってあげるよ。そんなに売りたければ買ってあげるよ。買って喜び、売って喜びです」

竹田さんにお会いしたことはありませんが、この言葉は真理を付いていると思います。同様に「人の行く裏に道あり花の山」という投資格言も大事にしています。

 

――何銘柄くらい保有していらっしゃるのですか?

普通は、買いたいと思う材料を探して投資をすると思います。私は逆で、買いたくないと思う材料を探すようにしています。すると、たいていは2つ3つケチがついて投資をしないで済みます。でも、時々「買わない材料がない」と思えるものが出てくるのです。「仕方がない、買うしかないか」、という気持ちで買っていき、調査を重ねて、2~3年で2倍かそれ以上の利益を得られるという確信を磨いていきます。確信度によってポジションサイズが異なり、95%を超える銘柄が主力になるイメージです。年間に投資する銘柄は10銘柄あるかないかですね。保有銘柄も5銘柄程度と片手に収まるくらいです。

新NISAの有効活用法:つみたて投資枠は長期・積立・分散投資、成長投資枠は安定配当銘柄で

――話は変わりますが、2024年から新しいNISAがスタートしました。井村さんはどのような活用法を考えていらっしゃいますか?

以前は、娘のジュニアNISA口座を開設して、IPOのブックビルディングの申込みをしたり、株主優待株を保有していたこともありました。今はNISAに気を取られたくないので活用していません。恒久化と枠の拡大で、格段に使いやすくなったNISAですが、欠点も理解する必要があると思っています。

NISAの欠点は、損失が出た時に課税口座で得た利益との損益通算ができないこと。課税口座で運用する資金は、損失が出た場合、利益と損益通算し課税された税金を還付することができます。ところが、NISA口座では、利益を得ないと意味がないどころか、損失が出てしまうと損益通算による税還付ができないので、結果としてマイナスになります。要するにNISAは「絶対に負けられない戦い」なのです。

だとしても、NISAを活用するメリットは大いにあるでしょう。例えば、長期で運用することを前提に、投資信託などを粛々と積み立てる、長期・積立・分散投資を実践するのであれば、つみたて投資枠を活用したほうがいい。成長投資枠を活用するなら、今後の株価の動きが分からないとしても配当金は非課税になるので、安定的に配当を出してくれる銘柄に投資をするのもありかもしれません。配当だけではなく、ネットキャッシュを有するなど財務体質が健全で、かつ、毎年フリーキャッシュフローがプラスなど、できる範囲で企業分析をした方が賢明ですけれどね。

――本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

写真:竹井 俊晴

※本インタビューは2024年1月5日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。