先週の動き:9月米雇用統計賃金上昇の鈍化を好感しニューヨーク金先物価格は反発、NY金の下げを映し下値を切り下げた国内金価格

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週末10月6日に10営業日ぶりの反発で終了した。NYコメックスの通常取引終値(清算値)は前日比13.40ドル高の1,845.20ドルで取引を終えた。週間ベースでは20.9ドル、1.1%安で3週続落となった。

10月6日の金市場は米連邦準備制度理事会(FRB)の今後の政策方針を読む手掛かり材料として注目された9月米雇用統計の発表を控え、警戒ムードが先行した模様眺めで3月上旬以来約7ヶ月ぶりの安値水準となる1,930ドル台で推移した。

発表された雇用統計では非農業部門雇用者数(NFP)は、前月比市場予想17万人増(ダウ・ジョーンズ調べ)に対し、33万6,000人増と過去8ヶ月で最大の伸びとなるサプライズに。7、8月分の数字も計11万9,000人上方修正された。

失業率は3.8%と横ばいとなったものの、FRBの金融引き締めが当面継続する可能性が浮き彫りとなったことから、発表直後に金市場では売り圧力が強まり、1,823.50ドルと直近7ヶ月ぶりの安値を更新した。ただし、終盤には押し目買いに反発基調を強めプラス圏に浮上し、前述のように1,845.20ドルで終了していた。

終盤に買われたのは、FRBにとって最大の懸案とも言える賃金インフレが沈静化に向かっていることが雇用統計にて示されたことだった。9月の平均時給は前年同月比の上昇率が4.15%と、8月の4.25%から鈍化し、2021年6月以来の低い伸びだった。NFPの上振れは単月の数字で後の修正の可能性も指摘される中で、インフレ関連指標、特に賃金上昇率の鈍化を市場は好感し、NY金の反発に繋がっていた。

先週もさらに水準を切り上げた米長期金利だが、景気に抑圧的な作用を考慮するとFRBによる追加利上げの必要性を減らす可能性があるとの指摘がFRB高官の間で見られ始めている。こうした環境の中で先週のNY金のレンジは1,823.50~1,864.70ドルと、2週連続で先週のコラムでも解説した想定レンジ(1,850~1,890ドル)を下回ることになった。

9月米雇用統計でNFPと平均時給の伸びが両方とも鈍化を想定したこと。また、10月2日に開かれたパウエルFRB議長と小規模事業者らとの円卓会議にて、何らかのハト派発言の可能性を考えての想定となっていた。長期金利の上昇や銀行による与信管理の引き締めにより小規模事業者の苦境が伝えられている。

一方で、先週の国内金価格のレンジは、米ドル/円相場の水準に大きな変化が見られない中、NY金の下げをそのまま映すことになった。国内金価格の週末10月6日の日中取引終値は8,710円となり、週足は243円、2.7%安となった。レンジは8,661~9,012円と拡大した。先週のコラムでは想定レンジを8,830~9,090円に置いていたが、200円近い下振れはNY金の下値を外したことから来ている。

NY金の下値が深まった背景は、目先筋の売り。コア資金は抜けていない金市場

先週10月5日まで続いたNY金の9営業日続落だが、金市場のセンチメントの落ち込みの中で目立って資金流出が起きているとの印象を与えるかもしれないが、実態はそれほどの深刻さを感じさせないものと言える。

続落の背景は、周知のように米長期金利の想定外の高騰(一時4.887%)と、それに伴うドル指数(DXY)の戻りにある(2022年11月来の107ポイント台)。金利急騰は同時に米国景気にも悪材料となるもので、市場で受け入れが進んだ米経済ソフトランディング観測自体を危うくするものでもある。

一方で、後ほど取り上げる米国議会の混乱による新年度入りしたばかりの米政府機関の一部閉鎖懸念など、いわゆる地政学リスクの存在もある。米国経済にしても世界経済にしても、楽観的見通しを持つには不透明要因は多く、したがって金市場にこれまで滞留してきた資金が、大規模で抜け出している現象は足元では見られない。短期筋の資金の出入りによりもたらされたのが、9月下旬以降ここまでの下げと言える。

テクニカル指標の悪化にしても、1,900ドルという心理的節目割れに乗じて、投機的売り攻勢が奏功し目先筋は下げのモメンタムを作ることに成功したのは確かだろう。これにしても、新規のショート(売り建て)を中長期的に保持し積み増すというものではなく、利益が乗ると早々に買い戻して益出しをしながら、次のショートを作るというもので、いわゆる下げ相場の回転が利いているに過ぎないと思われた。

10月5日時点でNY金の50日移動平均線が200日線をわずかに下回ったことで、デッド・クロス(death-cross)が示現し、当面の下げ基調の継続を唱える見方もあるが、わずかに下回っただけで、現時点で意味のある形にはなっていない。

1つの判断指標であって、こうしたテクニカル指標など無関係の市場参加者は金市場には多いのも事実だ。それが2022年来、さらに買いを活発化させた新興国中央銀行であり、アジアを中心に世界的に広がった個人の草の根的な現物買いと言える。ただ、ここまでのところ価格形成の主導権を握っていたのは、目先筋のファンドだった。

このような流れにも変化の兆しがあることを先週末発表されたCFTC(米商品先物委員会)のデータが示している。マネーマネジャーと表記される短期筋のファンドのポジションが、10月3日時点で重量換算にて9トンの売り越しとなった。9月19日時点の207トンの買い越しからネットで216トンの売りを出したことを意味し、この間のNY金の下げの背景を表す。

売り越し(ネット・ショート)に転じるのは2022年11月8日以来のこと。報じられているように足元で中東情勢が一気に流動化する中で、安全資産としてのゴールドが注目され、週明け10月9日のNY金は1,870ドル台まで水準を切り上げた。思わぬ地政学リスクの浮上に、ファンドによるショートカバー(売り建ての買戻し)が上昇のドライバーになっていることがある。

今週の見通し:中東情勢を中心に地政学リスクの動向が焦点。NY金は1,850~1,900ドル、国内金価格は8,690~9,000円を想定

まず、思わぬ流れとなった中東情勢を中心に地政学リスクの高まりが、やはり焦点になりそうだ。週明けの10月9日のNY金の通常取引は1,864.30ドルで終了したが、その後の時間外取引は1,875.10ドルで終了。10月10日のアジアの時間帯に引き継がれ、本コラム執筆時点で1,879.10ドルまで上値を伸ばしている。

安全資産としてゴールド、さらに米国債への買いが見られ、米長期金利は前週末比低下基調となっている。一般的に「有事の金」の上昇は長続きしないのが経験則の教えるところだが、それは大きく値が吹いた(上昇が加速した)際に当てはまる。さらに発生した事態の織り込みが急速に進み、沈静化が見通しやすい状況が条件となる。

今回奇襲を受けた形のイスラエルは戦争状態に入ったことを宣言。即座に報復攻撃に掛かり、ガザ境界に10万人を配置し、双方の死者数は1,200人を超えたと伝えられている。イスラエルのガラント国防相はガザ地区を「完全封鎖」し、電気や水、食料の供給を停止すると表明。30万人の予備役を招集する計画とされる。

世界が懸念するのは、紛争の長期化とイランを巻き込み戦争状態が拡大すること。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは10月8日、「イランが数週間に渡り、イスラエルへの攻撃計画を支援していた」と報じたものの、イランは即座に否定。しかし、市場は警戒を強めている。事態の進行を見守りながら、新たな環境の変化が、FRBの政策方針に影響を与えるのか否か。米国を中心に金融市場の反応は、また、紛争地域が油田地帯ゆえに原油価格がどうなるか、事態の進展を見ながらの金市場の反応となる。

さらに下院議長の解任に至った米国議会だが、今週10月11日に新議長の選出を予定しているとされるが、不透明感は強い。米国議会が空転しているところに重なった中東での本格的軍事行動はさらに混乱を高めることになりそうだ。

このような中、事態の変化の方向に大きく左右されるNY金だが、レンジは1,850~1,900ドル、国内金価格は8,690~9,000円を想定している。なお、国内金価格の下値は、すでに8,694円として先週末の夜間取引にて記録されているものだ。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券