◆日経新聞「NIKKEIプラス1」の巻頭は「何でもランキング」である。今月の初めは「1000人が選んだ『もういちど紙で読みたい』あの名雑誌」という企画だった。第1位は「ぴあ」。まあ、順当だろう。少し意外だったのは3位に「ロードショー(集英社)」が選ばれたことだ。中学・高校時代の愛読誌だった。憧れのスターは、テータム・オニール、ファラー・フォーセット、ソフィー・マルソー、フィービー・ケイツ…。付録のピンナップを自室の壁に貼っていた。
◆話はやや逸れるが、当時の僕は夜にラジオを聴きながら机に向かっていて、ニッポン放送の『欽ちゃんのドンといってみよう!』が好きだった(だからまったく勉強に身が入らなかったのは言うまでもない)。リスナーからの投稿に贈られる賞が、番組のスポンサーである集英社の雑誌にちなんだネーミングになっていて(例えば「ジャンプ賞」など)、その中で洒落が効いていたのが「ロード賞」であった。番組に挟まる「ロードショー」のラジオCM、ナレーションは小森のおばちゃまで、アラン・ドロン/リノ・ベンチェラ主演『冒険者たち』の主題歌がバックに流れていた。あの切ない口笛のメロディを聴くと今も、銀幕のスターに憧れた当時の記憶が甦り、胸がいっぱいになる。
◆「ロードショー」の語源はブロードウエーなどで劇の一部を宣伝のため路上で演じたことに由来する。そこから転じて映画では、一般公開に先立ち特定の劇場でのみ上映する先行上映のことを指す用語だったが、いまでは映画の初公開、つまり封切りのことを言うようになった。証券界にも「ロードショー」がある。こちらもまさに初公開のためのものだ。IPO (Initial Public Offering; 新規公開)に先立って、上場予定企業が機関投資家をまわって市場の需要を探ることを「ロードショー」と言う。その場で出される質問や意見で投資家の「食いつき具合」を測り、IPOの仮条件が決められる。IPO企業にとって「ロードショー」は非常に重要なプロセスである。
◆SBG傘下の英半導体設計会社であるアームが先週、ナスダックに新規上場した。初日の終値は売り出し価格を25%上回り、時価総額は652億ドル(約9兆6100億円)となった。アームのレネ・ハースCEOは機関投資家向けロードショーで、エヌビディアのAI向け半導体にアームが設計したCPUが使われていることを強調し、AI時代の成長ストーリーを熱く語った。そうしたこともあって上場前の機関投資家からの申し込みは売り出し株数の10倍を超えるものとなったという。ロードショーの段階でアームのIPOの成功はほぼ約束されていたと言えよう。
◆当時の話に戻ると、僕は「ロードショー」といっしょに「スクリーン」も読んでいた。「スクリーン」も映画スターのビジュアル満載の雑誌だ。ほぼ内容は同じようなものだから、いまとなっては両方買う必要はなかったかもしれないと思うが、なにしろネットなどなかった時代である。お気に入りのスターの情報は少しでも多く集めたい ‐ ファン心理とはそういうものだ。その「スクリーン」は実はまだ廃刊にならずに続いている。誌名は創刊当時の「SCREEN」となり、現代らしくオンラインでも読めるが、紙の雑誌もいまだ健在である。そういえば、半導体製造装置メーカーである大日本スクリーン製造も、10年ほど前にSCREENホールディングス(7735)と商号変更した。アーム上場で半導体株人気が再燃する気配もあり、こちらのSCREENにもぜひ健闘してもらいたいものである。