米国の強い経済指標の受け止められ方はネガティブ

昨日発表された6月のADP全米雇用リポートで非農業部門の雇用者数は前月比49万7000人増と、22万人程度の増加を見込んでいた市場予想から大幅に上振れた。これを受けて米国債券市場では金利が急騰。特に政策金利に連動しやすい2年債利回りは一時20bps近く上昇し5.1%台と2007年6月以来16年ぶりの高水準を付けた。株式市場ではダウ平均が500ドルを超える大幅安となる場面があった。良いニュース(雇用増)が悪いニュース(利上げ長期化)と受け止められた。モーニングサテライト(テレビ東京)のNYからの解説では、「嫌な金利上昇」という言葉が使われた。

しかし、そうだろうか?と思う。昨日、発表された米国の経済指標を総合的に眺めれば、僕にはGood news is good news だと思える。景気は良好で、一時盛んに喧伝されたリセッションに陥る気配は遠ざかっている。その一方、インフレは着実に鈍化している。米国景気がソフトランディングに向かうベストシナリオ実現の蓋然性が高まっている。その点を確認しよう。

高まる米国景気ソフトランディングシナリオの実現性

  1. ADP全米雇用リポートで非農業部門の雇用者数は前月比49万7000人増と大幅増加。それでもADPのエコノミストは「年収の伸び率が引き続き鈍化している」とコメントした。
  2. チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの調査では企業などの6月の人員削減計画は前月から半減。2022年10月以来の低水準となり、リストラも一巡したようだ。
  3. 6月のISM非製造業総合景況指数は53.9と市場予想以上に改善した。前月は50.3と好不況の境目の50割れ目前まで低下していただけに、ここでの切り返しで安堵感が生まれた。一方、仕入価格は2020年3月以来の低水準となり、インフレ面で朗報だった。

雇用やサービス業の景況感は良好で、一方インフレは落ち着いている。景気の強さだけに目を向ければ一段の金融引き締めという懸念が浮上するが、肝心のインフレが加速している兆候はない。加えて、利上げがもたらす最悪の事態であるリセッションに陥る兆しが後退している。物事には常に二面性がある。悪い方ばかり強調するのは、多くのメディアおよびメディアで発言する多くの市場関係者の共通点で、非常によろしくない。まあ、そーゆー連中の話は話半分に聞いておくのが正しい受け止め方である。

日経平均プット・オプション建玉増加が示すもの

もうひとつ、「?」と思える話がある。最近、日経平均・指数オプション市場で行使価格3万円のプット・オプションの建玉が急増していることを受けて、3万円割れに備える不安心理が台頭していることの表れであるという指摘が見られるが、それも事象の片側しかとらえていない見方である。

プット・オプションというのは「売る権利」だから、下落に備えたリスクヘッジ、保険として買われることが多い。行使価格3万円のプット・オプションの建玉が急増しているのは、確かにそうしたニーズが反映されての結果だろう。

しかし、これも百万回くらい、言ったり書いたりしていることだが、商いが成立するのは売りと買いが見合うからである。プットを買いたい人が大勢いて、ある行使価格の建玉が増えるということは、当たり前だが、売りたい人も同じくらい大勢いるということである。そうでなければ商いが成立しない。

行使価格3万円のプット・オプションを買う人は、日経平均が3万円を割る場合に備えて保険をかけているのかもしれない。そういう人が大勢いるに違いない。

では行使価格3万円のプット・オプションを売る人はどういう人か?日経平均が3万円を割ることなどないというシナリオに賭けて、弱気筋の保険を引き受けようという人だ。その人たちも、また大勢いるのだということを見逃してはならない。

There are 3 sides to every story. Yours, mine and the truth.

(どんな話にも3つの側面がある。あなたのもの、私のもの、そして真実。)