先週の動き:FOMCで売られるも底堅かったニューヨーク金先物価格、1,900ドル台後半で安定
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週間ベースでは前週末比6.00ドル、0.3%安の1,971.20ドルと、小幅に続落となった。6月13~14日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を受け、1,950ドル割れを見て値幅はやや拡大したものの、復元力が強く前週末の水準近くに戻り終了となった。
注目の5月米消費者物価指数(CPI)に続き、FOMCと2つのイベントを前に警戒モードの中で週前半は売り先行の流れとなった。それでも1,950ドルを下回ることはなく、NY金はこのところの底堅さを感じさせた。
まず、6月13日発表の5月CPIは無風状態で通過となった。総合指数は前年同月比4.0%上昇と2021年3月以来の低い伸びとなった。前月比では0.1%上昇と、やはり前月の0.4%から減速した。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数(コアCPI)もおおむね市場予想と一致し、前年比上昇率は5.3%で4月の5.5%から低下したことによる。
FOMCでは大方の予想通り金利水準は据え置かれることになった。先週のコラムでは、今回の会合のタカ派化傾斜の可能性を解説し、NY金のレンジを1,900~1,980ドルと広めに想定していた。結果、予想通りに利上げは見送られたものの、サプライズとなったのがFOMCメンバーの経済・政策見通しに2023年末の政策金利の水準が、0.5%ポイント切り上がったことだった。今後2回の利上げを想定していることになるが、これを受けNY金は売りが膨らんだ。
発表を受け、6月15日のNY時間外アジア時間に一時1,936.10ドルを付け、これが週を通しての安値となった。ところが、この日のNY時間に入り買戻しの動きが強まり、通常取引の終値は1,970.70ドルとなった。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が会合後の記者会見にて、次回7月の会合は開いてみないと結果が分からない「ライブ」なFOMCになると発言したことによる。
この発言は積極的な引き上げよりも、むしろここまでの累積利上げ効果の検証に時間を取りたい旨の意向と受け止められた。2回の利上げが示されたにも関わらず、年内1回を想定するなど、FRBとの間の金利水準に温度差が生まれることになった。それがNY金市場では、買戻しの動きに繋がったとみられる。
週末にかけてのNY金は2大イベントを通過し、目先の手掛かり材料出尽くしに加え、週明け6月19日が奴隷解放記念日(ジューンティーンス)で3連休になることもあり、小幅な値動きで終了した。レンジは1,936.10~1,985.90ドルとなった。結果として底堅さが確認されることになった。派手さはないものの、値動きが注目されたのは国内金価格だった。
大幅な円安を反映し、再び過去最高値更新の国内円建てゴールド
NY金が先週末にかけて小幅な値動きに収れんする中で、値動きが大きくなったのが為替市場での円相場だった。週末6月16日は主要10通貨に対し全面安状態となった。対ユーロでは、一時1ユーロ=155.22円と2008年以来15年ぶりの安値に急落した。
6月16日、ドイツ連邦銀行のナーゲル総裁をはじめとした欧州中央銀行(ECB)政策委員会のタカ派委員が、ECBは秋まで利上げを続ける必要がありそうだとした。また、ラガルド総裁は、改めて利上げではまだやるべきことがあると発言し、「7月の政策会合で利上げを継続する公算が極めて大きい」とした。
一方、日銀は6月15~16日に開いた金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を全員一致で決めた。マイナス金利、10年物国債金利の誘導目標ゼロ%をいずれも維持し、10年物国債金利の変動幅もプラスマイナス0.5%で据え置いた。
さらに2023年後半のインフレ率に関し鈍化を予想した。他の主要中銀と逆向きが際立つ内容に、円が大きく売られることになった。対米ドルでも一時141.92円まで付け6ヶ月ぶり安値の141.87円で終了した。
NY金が小動きの中で大幅円安を反映し、日本取引所(JPX)傘下の大阪取引所では週末6月16日の金先物夜間取引は8,845円で終了した。5月15日に付けていた8,805円を上回り、終値ベースでの過去最高値となっていた。
なお、ここまでの取引時間中の最高値は、5月4日の祝日取引で記録した8,870円だった。先週のコラムでは国内金価格の想定レンジを8,550~8,800円としたが、実際は8,722~8,845円となった。週足は61円、0.7%高となった。NY金の下値が限定的になったこともあるが、それ以上に円安の進展が国内価格の下支え要因となった。
週明けドル建て価格が前週末の水準を維持すれば、6月19日の店頭小売価格も過去最高値を更新する可能性が高いとみられたが、それは現実のものとなった。6月19日午前10時の時点で、国内金価格は一時8,915円まで付け過去最高値を更新。6月19日の税込み国内店頭小売価格も9,800円台と過去最高値を更新している。
利上げサイクル終盤に向けタカ派と化したFRB
政策金利を据え置く一方で、年末までに2回の利上げを見込んだ先週のFOMC。各メンバーの講演など事前発言では、メンバー間にかなり温度差が感じられたが、利上げ見送りに関し投票者の間で反対は見られなかった。
FOMCに際しては、議長および金融政策担当の副議長による事前の政策方針の説明が個別に行われるとされるが、パウエルFRB議長および副議長に指名されているジェファーソン理事による根回しが奏功したものと思われる。
前述したように市場では、インフレ指標が鈍化してきていることもあり、2回の利上げが行われる公算は小さいとの見方も一部で広がり、ここにきて株式市場の高騰に繋がっている。そんな折、6月16日は会合後初めてのFRB高官のタカ派発言が伝えられた。
ウォラーFRB理事は「コアインフレは想定したほど低下していない」とし、「インフレ低下に向け、おそらくもう少し引き締める必要があるだろう」と発言した。
リッチモンド地区連銀のバーキン総裁も、今後発表される指標でインフレ率の低下が示されなければ、さらなる利上げを容認するとした。その上で時期尚早に金融政策を緩和することは高くつく失敗となると、1970年代を例に挙げた。
さらに、利上げペースを落とすことについては、「埠頭(ふとう)に近づくにつれ、ボートを減速させるようなものだと考えてほしい。それがデータを精査し、さらに何をする必要があるかを判断する時間を我々に与える」と述べた。
いずれも、(状況により)利上げ継続の必要性を語っている点ではタカ派的ではあるが、引き締め過ぎへの警戒をにじませるなど、慎重なスタンスを前面に出しており、政策の柔軟性を思わせる発言内容と捉えることができそうだ。
うがった見方をするならば、FRBは市場や一般消費者のインフレマインドの上昇を抑えるために、あえて高めの金利見通しを提示した可能性もありそうだ。一時、ミシガン大学の消費者調査で5年超の期待インフレ率が上昇し、警戒を強めた経緯がある。
今週の見通し:FRB高官発言及びパウエルFRB議長の議会証言、週次の新規失業保険申請件数にも注目。NY金は1,950~1,990ドル、国内金価格は8,780~9,010円を想定
祭日の関係で今週は4営業日になるNY市場だが、今週も多くのFRB高官の発言機会が予定されている。今回のFOMC前には地区連銀総裁のみならず、FRB理事間でも意見の割れが見られていた関係で、11会合ぶりに金利据え置きとなったものの、ここまで一定の影響力をもってきた高官の発言には注目したい。
さらに今週は、パウエルFRB議長が半期に一度の議会証言に臨むことになっている。6月21日に下院金融サービス委員会、6月22日上院銀行委員会の予定となっている。利上げの継続を示唆しながらも、データ次第を強調したパウエルFRB議長だが、議員との質疑応答に注目したい。
また、週次のデータではあるものの、ここに来て上昇が目立っている6月22日発表の新規失業保険申請件数に注目したい。長らく過熱が指摘され、FRBの引き締め継続の拠り所となってきた労働市場関連の指標は目が離せない。
今週のNY金はFRB高官発言に反応するものの、引き続き1,950ドル超の狭いレンジの動きとなりそうだ。それでもタカ派化を前提にしてきただけに、発言内容によっては2.000ドル方向への動きがありそうだ。
国金内価格については目先の円安には限りがあると捉えるものの、9,000円台乗せを想定できる位置に達している。NY金は1,950~1,990ドル、国内金価格は8,780~9,010円を想定している。