米ドル/円相場は年初の1ドル115円台から一時、15円もの円安ドル高進行となったことで、市場には140~150円まで円安ドル高が進むとの展望も出てきました。
米国が利上げサイクルに入った一方、日本は金融緩和継続のスタンスを維持していることで日米金利差が拡大していることが米ドル/円相場上昇を牽引していますが、このシナリオに死角はないのでしょうか。
株が下がると米金利も下がる?
米連邦準備制度理事会(FRB)が3月に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)から利上げを開始しました。5月には0.5%もの利上げを実施、6月と7月にも0.5%の利上げが見込まれています。
政策金利の急激な引上げを織り込む形で米国債市場でも利回りが上昇してきましたが、長期金利が3%台に乗せると上昇の上値が重くなってきました。あまりの金利上昇のスピードに耐えかねて米国株が下落基調を強めると、米国株から債券市場へと資金がシフト、結果金利が押し下げられるという事象につながります。
経済が安定し、市場がリスクを取れる環境で債券から株へと資金がシフトすることで健全で安定的な金利上昇サイクルが形成されますが、足下ではウォルマートやターゲットなど小売業決算の悪化などから景気の先行きへの不安=リセッション警戒が高まりつつあります。
暗号資産市場の急落などリスク資産の下落も相まって米国株市場の下落色が強まっており、金利が上がりにくくなってしまいました。これが、ここからの米ドル/円上昇の上値を抑えてしまう可能性があります。
サプライズとショックが残されている日銀の方針転換
4月の日銀の金融政策決定会合で、黒田総裁は「連続指値オペ」にて日本の長期債利回りの0.25%以上の上昇を許さないスタンスを改めて明確に示しました。年初からの急激な円安進行で金融政策の修正を予測する向きもありましたが、それを一蹴したことでその後更に円安が進む展開となりました。
これで2023年4月の黒田総裁の任期までは日銀の緩和政策は続く、というのが市場のコンセンサスとなりました。もし、日銀の政策が豹変することがあれば今のマーケットには大きなサプライズとなります。黒田総裁が政策を明確に転換しなくても、任期が後1年も残されていないということもリスクと考えられます。
今週5月16日、某金融ベンダーが前日銀副総裁である中曽宏氏のインタビュー記事を掲載しました。
そこで、中曽氏は「アベノミクスについて、経済再生の処方箋としては正しいが“特に第一の矢の金融政策に相当負担がかかった”と指摘。潜在成長力を少しでも引き上げることができれば、賃金が上昇して家計の値上げ許容度が高まり、物価や金利の上昇で“金融政策が正常化できる”」と金融政策の正常化の可能性に言及していたことで、米ドル/円相場がこれに反応し円高に触れるという局面がありました。
この記事では「市場では、中曽会長が次期日銀総裁の有力候補の1人とみられている」としており、日銀総裁後任人事で名前が上がっている人物の金融政策が引き締めに転じる可能性があるという市場の思惑につながる可能性を感じさせるものであったかと思います。
今後、日銀総裁の後任人事を巡る報道や、その人物が掲げる金融政策がどのようなものか、といった視点が市場を動かす材料となる局面が増えてくるかもしれません。もし黒田日銀総裁の金融緩和路線が継続されないと市場が判断するようなことがあれば、米ドル/円相場は大きな調整を強いられる可能性もありそうです。