メキシコペソが最強通貨であった背景

コロナショックの急落以降、メキシコペソは対ドルでも対円でも上昇を続けてきました。パンデミック時、主要先進国の政策金利は軒並みゼロ近傍まで引き下げられる中、メキシコの政策金利は4.25%が下限となり、その後インフレ上昇とともに11.25%まで引き上げられました。米国の政策金利は5.25-5.5%。一方、日本の政策金利は7月の利上げでようやく0.25%になったところです。この金利差はスワップ収入の妙味が高かったことは言うまでもなく、ペソが最強通貨であった背景にはメキシコが高金利であったことが挙げられます。

メキシコは利下げサイクル入り

しかし、メキシコは2024年3月、インフレの鈍化を理由に2021年以降初めての利下げに踏み切ります。8月にはインフレの再燃リスクが台頭していたにも関わらず、追加で利下げを決定しており、現在メキシコの政策金利は10.75%にまで低下しています。(※メキシコの7月のインフレ率は13ヶ月ぶり5%台に上昇)

メキシコが利下げのサイクルに入ったことは、これまで好調だったメキシコペソの上昇に水を差したと思われます。それでもまだまだ高金利であり、金利差だけでみれば、メキシコペソには買い妙味が残されているように見えますが、為替市場ではペソ売りが加速しており、再びペソが上昇する気配はみられません。

メキシコ大統領選挙以降の政治リスク

また、メキシコでは6月に大統領選挙が行われ、ロペスオブラドール前大統領の後継者であるクラウディア・シェインバウム前メキシコシティ市長が大統領に就任しました。この大統領選挙を受けて、憲法改正が現実味を帯び、それによる財政悪化への不安が市場で懸念され、ペソは大きく下落を強いられました。

実際9月4日には司法改革法案が下院で承認されました。司法制度改革は憲法改正案の一つで、最高裁判所判事を含む裁判官の公選制が柱。候補者の選定に国会の勢力が反映されるようになり、三権分立が形骸化するリスクとされています。要するに現政権が強権化すると考えられるのですが、自由貿易協定「USMCA」(米国・メキシコ・カナダ協定)を結んでいる米国やカナダ政府はこれに反対しており、米国との関係悪化も懸念されています。司法改革の強行がペソ安を加速させています。

トランプ氏返り咲きのリスク

また、11月の米大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲く可能性も警戒されています。バイデン政権下では不法移民を含めメキシコからの移民が米国に流入、彼らが米国内で稼いだ利益のメキシコへの郷里送金がペソ高の大きな柱でもありました。ところがトランプ氏が掲げる不法移民の強制送還などの強硬策はメキシコへの郷里送金の減少=ペソ高要因の減少をもたらします。

中国のEV大手のBYD(比亜迪汽車)はメキシコでの新工場建設を米大統領選挙が終わるまで凍結すると報じられています。トランプ氏は大統領に返り咲けば、メキシコから米国への輸入品に高率の関税をかけると宣言していることも、メキシコへの投資を細らせています。

最強通貨だったメキシコペソが崩れ、最弱通貨だった日本円が大きく反発しています。円の反発の背景には日米の金融政策の転換が挙げられますが、2024年は世界の中央銀行の政策のピボット(転換)の年であり、あらゆる通貨市場にとって、これまでのトレンドの大転換の年となりそうです。