米ドル/円は20年ぶりの安値更新で131円台へ
先週行われた日銀金融政策決定会合の終了後、米ドル/円はいとも簡単に130円処の節目を上抜け、そのまま同日中にはあっと言う間に131円台へと上値を伸ばす動きになりました。
これは必ずしも投機的なものでなく、むしろ深刻な“闇”を抱える日本の経済社会の「実体」を正しく反映したものであると考えなければならないことを、改めて思い知らされたような感触がありました。
今回、日銀の黒田総裁は金融政策決定会合終了後の会見で、あまりにも“潔く”大規模な金融緩和策に変更の意図はないとのメッセージを市場に伝えました。
会合前は海外勢を中心に「多少は手心を加えてきてもいいだろう」と読んでいたフシもあったのです。それだけに、直後は驚きや違和感をおぼえた向きもあったものと思われますが、ほどなく「今の日本の“実体”に照らせば、日銀は正しく判断した」との見方に変わったようにも見えました。つまり、足元の円安は実需を伴う正しい流れということになるのかもしれません。
当面の米ドル/円は125-135円あたりの推移を想定
奇しくも、先週4月29日に発表された1-3月期の米雇用コスト指数において賃金が前年度比4.7%上昇し、過去最高を記録しました。先に、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「現在の賃金上昇ペースは2%のインフレ目標と整合しない」と述べていたわけで、当然、FRBは“積極的な対応”を迫られることとなります。
対する日本の賃金上昇率は、いまだ実質ゼロ%の水準に留まっています。まして、諸物価の上昇はこれからが本番です。よく言われるように、消費者物価が上昇しても賃金が上昇しなければ金融政策を引き締め方向に誘導することは躊躇われます。
「賃金が上がらない理由」が日本の構造的問題にあることは明らかで、それが多少なりとも改善に向かわない限り基本的に円安の流れを変えることは難しいと思われます。よって、米ドル/円は当面125-135円あたりでの推移を続ける可能性が高いと見ざるを得ません。
もっとも、先週末4月29日は米ドル/円が一旦130円割れの水準まで調整しました。言うまでもなく、これは月末のフロー絡みによるところが大きいと見られる上、日本や中国の大型連休、英国の3連休なども控えていたことから、一旦は積み上がっていた米ドル/円のロングポジションが解消されたと見るのが適当でしょう。
また、米株価の大幅安も一因であったと考えられ、週明けの日本株も波乱含みの展開となることが見込まれます。その結果、リスク回避の円買いがもう一段進む可能性もありますが、それはあくまで一時的なものになると捉えておいて良いのではないでしょうか。
ユーロ安はどこまで進むのか
同様に、4月29日はユーロや英ポンドも対米ドルで買い直される動きとなりました。これも月末要因によるところが大きく、今後もユーロ/米ドルや英ポンド/米ドルは基本的に軟調な展開を余儀なくされるものと見ます。
やはり、先週4月27日にロシアのエネルギー大手ガスプロムがポーランドとブルガリアへのガス輸出を停止したと伝わったことは大きかったと言わざるを得ません。以前から強いつながりを持つ中国で一部地域における都市封鎖が続いている状況も考え合わせるとユーロ圏経済の不確実性は一段と増し、そのぶんユーロの上値は押さえられやすくなると見られます。
ユーロ/米ドルに至っては、ついにコロナショック時の1.0636ドルをも下抜けてしまい、もはや2017年1月安値=1.0340ドルを意識せざるを得ない状況となっています。
先週4月28日には一時1.0471ドルまで下押す場面もあり、むしろ所謂「パリティ」の水準を視野に入れる必要性さえ感じられます。注目は「ユーロ安がどこまで進めば金融当局が具体的な行動に打って出るのか」という点であり、当面はその点からも目が離せないものと思われます。