給与所得者なら勤務先から受け取る住民税の税額決定通知書、年金所得者や個人事業主ならご自宅に届く住民税の納税通知書。ご覧になられましたでしょうか。

年金所得者や個人事業者の場合、住民税の所得金額をもとに国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険制度の保険料が計算されますし、給与所得者であっても児童手当や高校就学支援金などの給付金等は住民税の所得金額や住民税額をもとに計算されます。もしも、住民税が誤っていると、これらの金額等に直接影響します。

また、ここ数年の改正の影響を大きく受ける人もあれば、全く影響のない人もいます。改正内容と確認すべきポイントをお伝えしましょう。

個人の収入に課される税金は2つ

個人の収入に対して支払う税金は所得税と住民税です。所得税は国税で、住民税は地方税(市町村民税と都道府県民税)です。

所得税も住民税も税額の計算構造は同じです。

(収入金額-①必要経費-②所得控除)× 税率 = 税額 

収入金額からまず①必要経費を差し引き、さらに②所得控除を差し引いて、その残額に税率をかけて税額を求めます。

①必要経費とは収入を得るために支出したものです。ただし給与所得者と年金所得者は実際に支出した金額ではなく、収入金額に応じて概算経費である「控除額」を差し引きます。

②所得控除とは生活上の必要経費として差し引くもので、ほとんどの人が差し引ける基礎控除や、扶養家族がいる人への配慮としての扶養控除など、生活保障的な意味合いがある控除です。

2021年度分(令和3年度分)からの改正点は?

2021年度分(令和3年度分)の住民税から、給与所得者や年金所得者の必要経費の給与所得控除額・公的年金等控除額が10万円引き下げられています。逆に基礎控除額が10万円引き上げられています。基礎控除とは、ほとんどの人が差し引くことができる所得控除の1つです。つまり、収入金額から差し引く金額は、一方は10万円引き上げ、一方は10万円引き下げですので、多くの場合トータルでは変わりません(図表1参照)。

なお、この改正は所得税では令和2年から既に始まっていました。住民税は所得税で確定した情報をもとに計算されるため、令和3年度に後ずれしてしまうのです。

【図表1】個人の税額計算体系(給与所得者・公的年金所得者)
出所:筆者作成

改正の影響を受ける4つのケース

(1)フリーランス(白色申告)は、税負担が軽くなる

フリーランス(白色申告)は、税負担が軽くなります。フリーランスの方の①必要経費は実額の支出金額に基づいたものであり、この部分の差引く金額は変わりません。一方、②所得控除の基礎控除額は10万円多く差し引けますので、課税の対象額が10万円少なくなっているため税負担が軽くなります。

住民税は一律10%ですので、住民税額への影響額は1万円(10万円×10%)の税負担減少となります。なお、所得税は各人の所得金額によりますが、10万円に5%~45%を乗じた金額の税負担減少となります。

(2)青色申告のフリーランス・個人事業主の中には税負担減少とならない人も

青色申告のフリーランス・個人事業主・不動産賃貸業などは、収入金額から実額の必要経費に青色申告特別控除額10万円を上乗せして差し引けます。ここは改正前後で変わらないため、上記(1)のフリーランスと同様、基礎控除額の引き上げによる影響を受けることで税負担が軽減されます。

ただし、改正前まで65万円の青色申告特別控除額であった人は2つに分かれます。

(イ)e-taxによる申告や電子帳簿保存をしている場合:必要経費に上乗せする青色申告特別控除額65万円(改正前と同額)を差し引けますので、基礎控除額の引き上げによる影響を受けて、税負担が軽減されます。

(ロ)上記イ以外の場合:青色申告特別控除額65万円が55万円に引き下げられたため、税負担の軽減はありません。必要経費に上乗せして差し引く青色申告特別控除額は10万円減り、基礎控除額が10万円増えますので、改正前後で収入から差し引ける金額はトータルで変わらないため、増税にも減税にもなりません。

【図表2】青色申告特別控除額の改正点と税額への影響
出所:筆者作成

(3)高額給与所得者は増税に

給与所得の概算経費である給与所得控除額は、給与収入850万円までは一律10万円の引き下げですが、850万円を超えると給与所得控除額が徐々に小さくなり、差し引ける金額は最大で25万円少なくなります。つまり、図表3の通り収入から引く金額がトータルで小さくなるため、税率をかける前の金額は大きくなり増税となります。

【図表3】給与収入が850万円超の場合
出所:筆者作成

(4)所得金額が2,500万円超で基礎控除がゼロに

収入金額から必要経費を差し引いた合計所得金額が2,400万円を超えますと、基礎控除額が徐々に減少し、2,500万円を超えるとゼロとなります。住民税の基礎控除額43万円を差し引けないため、税負担は大きくなります。

さらに、ここまで所得が大きくなると公的年金から差し引く概算経費(公的年金等控除額)も一段と減り、配偶者(特別)控除もまったく適用できなくなりますので、増税に拍車がかかります。しかも国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料は上限額まで跳ね上がったうえに、窓口負担も3割となります。

この改正の影響で増税になるのは一握りの限られた人でしょう。とはいえ、相続した土地を売った時などは2,500万円のラインを一気に超えたりします。ここ最近でしたら、価額が上昇している金地金を売ったケースも該当するかもしれません。翌年になって、住民税と社会保険の負担の重さに驚く人は少なくありません。多額の売却収入等があるときは、翌年のこれらの負担額を踏まえて資金の確保をしておかねばなりません。

住民税で留意しなければならないこと

上記の通り、多くの給与所得者や年金所得者の税金(所得税・住民税)は、この令和2年~3年にかけての改正の影響を受けないと言えます。ただ、住民税特有の注意事項もあります。

(1)ふるさと納税の減額ができていない

ふるさと納税の減額がなされてない原因の代表例は、「医療費控除を受けるため」、「副業所得があるため」確定申告をした人です。この場合、寄付先の自治体にふるさと納税ワンストップ特例を受ける申請を出していても、確定申告をするとそのワンストップ特例の効力がなくなってしまいます。つまり、確定申告をする場合はふるさと納税の寄附金控除を受ける旨を申告書に記載しなければ、ふるさと納税の税額控除は受けられないのです。

その他、市町村側の見落としや情報の連携の不具合などによって、減額ができていない事例も少なからずあるようです。

ふるさと納税による減税ができているかどうかは、住民税の税額決定通知書の「税額控除」欄で確認しましょう。ただし、給与所得者が受け取る税額決定通知書の「税額控除」欄は住宅ローン控除や調整控除など他の税額控除と合算で記載されています。そのため、確認することは結構難しいですが、まず、摘要欄で「寄附金控除額」が控除されているかどうかを確認しましょう。

さらにふるさと納税支援サイトの税額シミュレーションを利用して税額を確認するのもよいでしょう。それでも納得できない、疑問が残るという場合は、寄附金領収書や確定申告書・源泉徴収票等を用意して市町村に問い合わせてみましょう。

(2)所得税で税額がゼロでも申告すると住民税が減額できる

所得税と住民税の違いの1つが所得控除額です。

所得控除は全体的に所得税の方が大きくなっています。例えば、所得税の基礎控除額は最大48万円、住民税は43万円です(図表4参照)。扶養親族等が多いと所得税と住民税の所得控除の差は大きくなります。

例えば、大学生の子(20歳)と、70歳以上の父・母を同居で扶養している納税者の場合、所得税と住民税の人的所得控除の差の合計は49万円です。(所得税の人的控除の合計は227万円、住民税は178万円)

所得税の計算上、人的控除の227万円を差し引くことで所得税が0円となった場合、「医療費控除を申告しても無駄」という判断をしてしまいがちですし、中には、確定申告還付会場でそのようなアドバイスを受けたという人もいます。

しかし、この事例の場合、住民税では所得から差し引く所得控除は178万円しかありませんので、医療費控除を申告すると住民税が減額になる可能性があります。

既に住民税の税額が決定していても、過去5年間分はさかのぼって還付請求できます。心当たりがある場合は、源泉徴収票や確定申告書、医療費や寄付金の領収書等資料を用意して、市町村または税務署に問い合わせましょう。

【図表4】住民税と所得税の所得控除(人的控除)の違い
出所:筆者作成

(3)所得が発生した時より納税時期が後ずれする住民税

年末調整や確定申告で所得税額が確定した後、その情報をもとに市町村が住民税額を計算します。したがって、所得が発生した年の翌年に納付時期がやってきます。給与所得だけであったり、年金だけであったりする場合、この「ずれ」について意識されることはほとんどないでしょう。ところが退職した場合、退職した年中の給与所得に対する住民税が翌年になって課されるのです。

退職年の給与所得について確定申告すれば、多くの場合、源泉徴収された所得税の還付を受けられます。生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除、退職後に支払った健康保険料、国民健康保険料、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金等を申告することで、所得税だけでなく住民税の負担も軽減できます。どのような支出が控除の対象になるかをしっかりと確認し、漏れなく申告することが節税につながります。

(4)2021年度(令和3年度)の確定申告期限の延長の影響

2021年(令和3年)の確定申告は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で申告期限が1ヶ月間延長されました。3月16日以後に確定申告した場合、その申告内容が税額決定通知書に反映れていないケースがあります。それらの申告内容は、8月分以降の住民税に反映されるそうです。

このほか、国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険制度の保険料や保険給付(給付割合・自己負担限度額など)、各種医療証の区分、子ども・子育て支援制度の利用者負担額(保育料)、公営住宅家賃の決定などについても、申告内容の反映が遅れることがあるようです。確定申告をした時期にもよりますが、8月以後になっても反映されていない場合は、確定申告書を用意して市町村に問い合わせてみましょう。