筆者は、ほぼ毎朝トラムに乗って通勤している。ビクトリア公園駅から北角駅までの10分の行程である。北門フェリーターミナルから対岸にあるホンハムフェリーターミナルのフェリーに乗る為にトラムに10分揺られていくのである。香港トラムは世界で3例しかない2階建て路面電車である。1904年開業と100年以上の歴史を誇るが、東京で路面電車が廃止されたように香港でも何度も廃止論がでるが、市民の貴重なる足であるがゆえに廃止論が市民の反対の声で消し去られ、最近は逆に観光資源としても希少性が増し、益々快調に市民の足として活躍しているのである。
その市民の足代が2.3香港ドル(約32円)から2.6香港ドル(約37円)にいつの間にか値上げされていた。筆者が香港に住み始めた2010年の頃は2香港ドル(当時のレートで約23円・1香港ドルあたり約11.5円)であったからこの8年でなんと30%の値上がりである。年率換算単利ベースで3.75%。香港の消費者物価指数(CPI)は2010年を100とした場合に現在130と、トラムの値上げとぴったり連動しているので、市民の抵抗感も低いのかも知れない。香港の通勤通学の足は、地下鉄MTR、私営バス、そしてトラムが代表的移動手段であるが、トラムがその中でも一番お手軽な値段であり、平日の利用者は、学生とお年寄り中心で、週末はフィリピンとインドネシアのメイドさんが圧倒的な数となる。(因みに65歳以上のお年寄りは一般成人の半額である)日本人の目から見れば、最長距離(香港島の西から東までの横断)でも2.6香港ドル、現在のレートで計算して40円もしないというのは破格の安さであるが、値上がり率を見ると確実にじりじりと値上がりしている。
因みに東京メトロ(地下鉄)の初乗り料金は、2000年に改定された160円から(2014年に10円値上がり)170円になり、約6.3%の値上がりであった。年率換算単利ベースだとたったの0.45%。ほとんど動かない。それは郁子なるかなである。日本のCPIは、2000年が99.09に対して2018年は101と黒田バズーカをものの見事に打ち返し、堅牢なる城のようにまったくインフレの兆候は見られないから、地下鉄の初乗り料金もCPIの推移を正確に反映しているようである。
香港と日本の物価指数をそのまま反映している香港トラム料金と東京メトロ初乗り料金。値上がり後のトラムは約37円。香港の街に勢いをつける値段設定とその値段推移。何年かかっても数%しか値上がりしない東京メトロ170円からは、東京の街の今を見る思いである。
コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先