2020年の株式相場は下落から急回復

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響から、世界経済は低迷を余儀なくされた。年末にかけても感染再拡大を抑制する課題に直面し、より感染力が強いと言われる変異種が確認されるなど、状況が好転しているとは言えない。世界各国で感染抑制のための行動制限措置が実施されている中、世界経済への悪影響が続いている。

一方で、株式市場を振り返ってみると、2020年3月には、世界的な経済の失速を懸念して株式は一斉に売り込まれ、株価は30%近く下落した。しかし、その後は、財政・金融両面からの対策が世界中で矢継ぎ早に打ち出され、景気後退よりもその後の回復への期待が先行して株価は急回復を果たした。

さらに11月以降は、米国の追加経済対策や世界的な金融緩和政策の長期化への期待も強まり、米国主要株価指数は軒並み、最高値を更新した。日本株も長らく抜けていなかった日経平均株価の24,000円台半ばを大きく上回り、年末には28,000円を視野に入れる水準に達した。

2020年の株式市場には、もう1つ注目すべき点がある。株式の新規公開は活況を呈していた。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した2020年春は、新規上場の動きが一時止まったものの、4月以降の株式相場の回復を受けて、新規上場に踏み切る企業が増加していったのである。

米国市場はIPO調達額で1位に返り咲き

米IPO調査会社ルネサンス・キャピタル社によると、2020年のニューヨーク株式市場における新規株式公開(IPO)は216件、調達額は781億ドル(約8兆円)に上った。件数では前年比35%増加、調達額では同68%増加という伸びで、いずれも6年ぶりの高水準を記録した。業種では、ハイテクやヘルスケア関連企業の大型上場が目立ち、調達額が10億ドル超の大型上場案件も20件に達した。

背景には、金融緩和政策が再び鮮明となり低金利の環境が長く継続する可能性が高まったことや、投資家のリスクテイク意欲が高まり、成長期待が大きい新規上場株に資金が集まりやすかったことがあるのだろう。新型コロナウイルスの感染拡大から、働き方や生活のスタイルが変わり、世界的にデジタル化の大波が押し寄せたことも、デジタル関連企業への投資を促した側面があるだろう。

2020年IPO調達額2位は香港取引所

2020年、IPO総額が最多となったのはニューヨーク市場で、2位は香港証券取引所、3位に上海証券取引所と続く。香港取引所のIPO調達額は、前年比24%増の3,905億香港ドルで、上場件数は144件(前年比11%減)だった。香港取引所は1位の座を譲ったが、2019年の反政府デモの後遺症や2020年の国家安全維持法の施行による香港経済の不調ぶりからは、健闘したと言えるだろう。

香港取引所への上場が高水準となった背景は、米国での中国企業への上場審査が厳しくなるなど、米国の規制監督ルールの変更で、中国企業のIPOの受け皿が香港であることがより鮮明になってきたことにある。米国における外国発行体(中国企業が前提であることは言うまでもない)に対する監視は、より厳格化するとの方向性に変わりはないだろう。

中国企業群のIPO志向は強まる

一方で、中国企業は、2020年もプラス成長を維持した経済成長や拡大する国内需要のもとに、資金調達需要が旺盛で、資金調達手段の多様化を強める傾向が続くだろう。

このため、より多くの中国企業は、香港または本土の取引所への上場を進める可能性が高まる。また香港取引所と中国内の証券取引所を比べた場合、資本の自由がある香港が選択される可能性は高まるだろう。

制度的にも、香港取引所や香港と中国の金融当局は、相互開放制度などを通じて、段階的に市場開放度を上げてきた。具体的には、深圳証券取引所の創業板(ChiNext)や、香港におけるリミテッドパートナーシップファンド、GBAウェルスマネジメントコネクトなどが挙げられるが、このように制度の充実を図ってきたことも、効果を上げてきている。

大手監査法人のデロイトトーマツ香港が発表した調査によれば、2021年に、上海証券取引所の新興市場「科創板」では、約150〜180社が新規公開し、2,500億人民元〜3,000億人民元を調達すると予測されている。

深圳証券取引所の創業板(ChiNext)市場では、約140〜170社が新規公開し、1,400億〜1,700億人民元が調達されるそうだ。香港取引所では、約120〜150社が新規公開し、4,000億香港ドル(2019年・2020年実績並み)に達する額が調達されると予測されている。香港ではさらに、10社を超える重複上場や、4〜5社のジャンボ上場も見込まれる。

香港の資本市場としての存在感は不変

2020年11月、アリババ傘下のアント・フィナンシャル社が上海・香港同時上場を予定し、実施されたブックビルディングでは非常に好調な入札となって、金融市場の注目を集めた。

しかし、中国金融当局が突如として待ったをかけ、直前にIPOは取りやめとなった。その後もアリババ社やアント社に関しては、中国当局との軋轢などが報じられているが、政治的な介入を嫌う金融市場からすれば、このような不透明性は望ましいものではない。香港市場の将来への不安がないとは言えないとの指摘もある。

しかし、その後も香港市場では、2020年12月に中国企業のJDヘルス社が新規に株式を公開し、約35億米ドルを調達して、香港取引所で2020年最大のIPOを成功させた。

政治的な色に極端に敏感な昨今の香港情勢を合わせて考えると、アント社のケースは異例中の異例なケースであると言えるであろう。

繰り返しになるが、中国と香港は、制度面でも規制面でも同じではない。香港では、人・モノ・金・通信の自由は引き続き担保されており、対中国では、香港が優位性を維持している。

今後も中国企業のIPOは香港で増え続けると予想し、香港の金融市場としての存在感は中長期的には不変であると考える。