「ユーロ安・米ドル高」の背景

ユーロ/米ドルは、先週末の1月15日(金)には1.2100ドル割れの水準まで大きく値を下げることとなりました。

その背景ですが、米民主党が大統領選と上下両院のすべてを制する「トリプルブルー」を現実のものとしました。そのことにより、米10年債利回りが一時的にも1.1%台に乗せる強含みの展開となったことがあります。

結果、バイデン次期米政権による大規模な追加経済対策の実施への期待が高まり、米景気の先行き期待から積み上がっていたドル・ショートの解消が進みました。このことも、このところの「ユーロ安・米ドル高」の背景にありました。

期待の新型コロナウイルス対策については、バイデン次期米大統領が先週1月14日、1.9兆ドル規模の新たな対策案を発表しています。その規模や内容は十分な評価に値するものであったと思われますが、市場にとっては事前の予想や期待通りで、既に織り込み済みだったようです。

まして、対策実現の可否は上下両院における審議の結果次第となります。仮に予算関連法案に認められる特例を適用するにしても、上院での可決には相当な時間を要すると見られています。審議の過程で対策規模が縮小する可能性もありますが、ひとまず1月15日の米国株式市場は「対策案発表の「事実」によって(一旦は)売り」の反応となりました。

欧州経済の先行き不安の高まりによるユーロ売り

その先週末の米国株安を踏まえて「リスク回避の米ドル買い」と捉える向きもあるようです。しかし、足下のユーロ/米ドルの下げは、むしろ欧州経済の先行き不安の高まりが大きく影響していると見ていいでしょう。

なにしろ、目下のところ欧州では新型コロナウイルスの変異種の感染拡大が顕著となっており、各国で行動規制が一層厳しくなっています。加えて、イタリアやオランダで政情が不安定化していることも見逃せないユーロ売り材料の1つとみなされます。

結果、ユーロ/米ドルは1月8日に2020年11月初旬から形成されていた上昇チャネルを下放れ、ほどなく21日移動平均線をも明確に下抜けることとなりました。

目先は、2020年11月4日安値から2021年1月6日高値までの上げに対する38.2%押し=1.2065ドルや、2020年12月9日安値=1.2059ドルが意識されやすいと見られます。同水準をも下抜けると、いよいよ1.2000ドルの大節が視野に入ってくるものと見られます。

次期米財務長官のイエレン氏の発言に注目

一方、米ドル/円は1月7日に21日移動平均線を上抜け、以降は同線が当面の下値サポートとして機能し続けています。

先週は、104.00円を軸とする103.60-104.40円のレンジでの推移となりましたが、今週も基本的には同様の展開になる可能性が高いと見ます。周知のとおり、米ドル/円の104.35-65円処には一目均衡表の日足「雲」が控えており、同水準を上抜けるには相応の材料が必要になると見ておかざるを得ません。

その意味で、次期米財務長官に指名されているイエレン前FRB議長の就任時のメッセージは非常に重要と言えるでしょう。すでに、一部の米紙は「1月19日に米上院で開かれる指名承認公聴会で競争優位のための米ドル安を目指すことはしないとの意向を明らかにする」との見通しを伝えており、同氏の一言で相場のムードが一変する可能性も考えられます。

なお、金融市場全体にとっては、中国で新型コロナウイルスの新規感染者が10ヶ月強ぶりの高水準となっていることが1つの気掛かりな事象です。結果、既に2800万人以上がロックダウン下に置かれているとされ、当面は需要の下振れ懸念を拭えない状況が続きそうです。

コロナ禍の世界経済を牽引している中国でのことだけに、ともすると世界全体のムード悪化につながりかねないものと警戒されます。

また、米主要企業の決算発表が本格化してくることで、普段以上に日米の株価動向にも目を光らせておかねばなりません。日米ともに株価の目先の高値警戒感は強く、きっかけひとつで少々まとまった調整を交える可能性もあると見られます。