振り返りますと、かつて米国経済がITバブル(ドットコムバブル)崩壊の痛手から立ち直り、新たに金融バブルが萌芽し始めていた2004年6月から2006年6月にかけて米連邦準備理事会(FRB)が計17回もの利上げを繰り返した時期というのがありました。
結果、米国の政策金利(FFレート)は1.00%から5.25%まで引き上げられることとなったわけですが、それだけの大幅な利上げが実施された時期であったのにも拘らず、NYダウ平均は大よそ10,000ドル前後から11,500ドル前後へと押しなべて緩やかな上昇を続けました。ちなみに、2006年6月に利上げが打ち止めとなってからは一気に上昇に弾みがつくこととなり、2007年10月には一時14,300ドル近辺まで上値を伸ばす場面もありました。
もちろん、2004年6月から同年10月下旬あたりまでにかけては、やや弱含みでの展開が続く局面もあったのです。いわゆる「金融相場」が終わり、次に本格的な「業績相場」がスタートするまでの一定期間、金利上昇の"初期症状"として株価が一旦調整含みとなることは致し方のないことです。
ただ、金利が本格的に上昇し始めるときというのは、すでに経済がバブル的様相を呈し始めていることが多く、往々にして調整が一巡した後には株式相場自体もあらためてバブル経済の様相を反映する格好で大きく上昇することとなるものです。
先週2日以降に米株価が乱高下し始め、連れて日本株も乱高下しているのは、周知のとおり、2日に発表された1月の米雇用統計において平均時給の伸びが前年同月比+2.9%と非常に強く出たことで、いきおい米10年債利回りが急上昇したことがきっかけでした。なにも、あのリーマン・ショックのときのように米国の大手投資銀行が経営破たんしたわけでも、米大手自動車メーカーが次々と事実上の破たんに追い込まれていっているわけでもなく、あくまでも一時的かつ過剰な初期反応と膨大なストップ・ロス&投げに加えてコンピュータ・プログラム売買におけるアルゴリズム取引のウェイトが膨らんでいるが故の一時的混乱が生じているだけであると考えればいいでしょう。
なお、日経平均株価に関しては「昨年9月8日安値を起点とする20週サイクルにおいてサイクルボトムを形成するタイミングがちょうど今訪れている」ということも一応は念頭に置いておきたいと考えます。振り返れば、近年における日経平均株価の目立った安値は2016年2月12日、同年6月24日、同年11月9日、2017年4月17日、同年9月8日など、大よそ20週ごとにつけられており、いまやそれがパターン化しています。
投資家心理の動揺やポジションの整理・調整、サイクルボトム形成などに1~2週間程度の時間を要することとなる可能性もないではありませんが、日経平均株価を構成する225社の1株当たり利益予想の平均値が過去最高水準を更新し続けている状況にある以上、日経平均株価の予想PERで15倍前後からそれ以下の水準というのは絶好の押し目と考えていいものと思われます。
そもそも、前述したように今回の混乱のきっかけは米国における賃上げの兆候であり、これは明らかにドルの強気材料です。昨日(6日)発表された米求人・労働異動調査の結果によれば昨年12月の「自発的離職者」の数が326万件と過去最高水準に達しており、今後は一段と米国において賃上げの傾向が強まるものと推察されます。それが消費の活性化から物価の上昇につながるのは、その先のプロセスということになるわけです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役