ここにきて、日々発表される米経済指標の結果に事前の市場予想を下回るものが目立っています。先週12日に発表された4月の米小売売上高や同消費者物価指数、今週15日に発表された5月のNY連銀製造業景況指数、そして昨日(16日)発表された4月の住宅着工件数しかり、其々弱めの結果が明らかとなるたびにドルが一旦強く売り込まれるパターンが繰り返されており、さすがにドル/円の上値も重くなりやすい状況となっています。

もちろん、4月下旬以降のドル/円の上昇ピッチがかなり急であったことを考えれば、足下の一時調整は止むを得ないこととも言えるでしょう。件の米大統領による米連邦捜査局(FBI)長官の解任絡みで米政局の行方が流動的になっていることや、足下の米指標結果が事前予想に届いていない状況なども考え併せれば、もう一段の調整余地は残されていると考える必要があるように思われます。

なお、ドル/円の下値については、89日移動平均線(現在は112.45円)や一目均衡表の日足「雲」上限(現在は112.23円)、31週移動平均線(現在は112.22円)などといった水準が当面の目安になるものと見られます。

とはいえ、いまだ米6月利上げ期待が根強いことや、原油(先物)価格が底堅く推移していることを一因として米株価が強気の推移を続けていることにより、日米の金利差が拡大する傾向を強めていることも事実です。逆に言えば、目下のところ米金利の後ろ盾となっている米株価とそれを支えている原油価格の行方にドル/円の行方は委ねられている部分があるということになり、その点は今後大いに注目しておく必要があるものと思われます。

加えて、ドル/円については日経平均株価が2万円の大台を回復するかどうかという点も一つの鍵を握っているものと思われます。昨日(16日)は、日経平均株価が一時1万9,998円台と2万円に「あと2円足らず」の水準に達しながら、そこで一旦頭打ちとなったことが後のドル/円の値動きにも少なからず影響した模様です。4月下旬以降に見られた急ピッチの上昇で、目先的な高値警戒感が強まりやすくなっている点にも要注意です。

すでに2017年3月期決算の発表は一巡しており、日本経済新聞によれば今期予想に基づく日経平均株価構成(225)銘柄の平均1株当たり利益(EPS)は1,330円。これを元にした予想PER=16倍の水準は2万1,280円と計算され、なおも2万円台乗せの流れは途絶えていないものと思われます。ちなみに、2015年6月に2万1,000円近くまで上昇した当時のEPSは1,275円程度であり、全体が"オール強気"の展開となれば少し長い目で日経平均株価が2万1,000円処を上抜ける展開となってもおかしくはないものと思われます。

その一方、足下ではユーロの上昇が際立っていることも事実です。昨日(16日)は、ユーロ/ドルが当面の上値の目安となっていた節目の1.1000ドルや5月8日高値であった1.1014ドルを上抜けるばかりか、一目均衡表の週足「雲」上限が位置する1.1066ドル処をも上抜ける展開となり、一時は1.1100ドルに迫る場面もありました。 1.1100ドルという一つの重要な節目水準に到達したことで、目先は上昇一服となる可能性もあるでしょう。ただ、仏大統領選の結果によって欧州の政治リスクは足下で大きく後退しているうえ、市場にはECBの出口戦略に対する期待もあり、今後一段の上値余地を試す可能性も十分にあるものと見られます。 なお、1.1100ドルをクリアに上抜けてきた場合、次に意識されやすいのは昨年5月高値から今年1月安値までの下げに対する61.8%戻し=1.1127ドルあたりと見られます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役