足下の市場では、朝鮮半島を巡る地政学的リスクの高まりを主因とした"リスク回避の円買い"の流れがにわかに加速し、ついにドル/円は110円処の心理的節目を割り込むこととなりました。
本来、米国のファンダメンタルズや金融政策の方向性などに目を向ければ、もう少しドルが買われてもよさそうなものなのですが...目下のところ、市場の関心は朝鮮半島や中東などの地政学的リスクに集中している模様。真偽不明な憶測や不穏なムードが支配する相場の先行きは非常に見通しにくく、長らく下値を支えていた心理的節目を割り込んだこともあって、当面はなかなか下値のメドがつけにくいようにも見られます。
このような局面では、以前にも本欄で幾度か試みたように、あらためてドル/円の月足チャートに注目してみるのも一法でしょう。下図に見るとおり、足下で110円を割り込んできたドル/円は、今まさに一目均衡表の月足「雲」上限の水準(現在は109.00円)を試すような格好となっており、一つには同水準が下値サポートとして機能することが期待されます。
思えば、過去においてもドル/円の月足チャート上に描画した一目均衡表や主要な移動平均線などは、実に様々なヒントを投資家に与えてきてくれました。たとえば、2012年11月の月足ロウソクは実体部分で31カ月移動平均線(31カ月線)を上抜け、その時点からドル/円は本格的な上昇基調を辿り始めることとなりました。
2013年5月から10月にかけては、長らく一目均衡表の月足「雲」上限が上値を押さえ続けていましたが、同年11月にはクリアに上抜けてもう一段の上値を追うこととなりました。さらに、2014年2月頃には31カ月線が62カ月移動平均線(62カ月線)を下から上に突き抜けるゴールデンクロスが示現し、その後のドル/円は125円台後半まで上値を伸ばす大相場を演じることとなりました。
2015年6月に125.85円の高値をつけて以降、調整含みとなったドル/円の月足ロウソクは2016年4月に実体部分で31カ月線を下抜け、その後は一段と調整色を強めることとなりました。その後、2016年6月のブレグジット・ショックで一時100円割れの水準まで大きく下押す場面を迎えますが、そこでは62カ月線がガッチリと下値を支えます。
つまり、ショッキングな出来事が起きたことでパニック的に相場が下げ、なかなか下値のメドがつけにくい状況になっても、重要な節目と見られる水準ではしっかり下げ止まるということが過去に幾度もあったわけです。実際、2016年6月以降は62カ月線が数カ月に渡ってドル/円の下値を支え続けましたし、同年11月には月足「雲」上限も下値サポートとして機能し、その後は一旦大きく値を戻すこととなりました。
ここで足下の状況に戻りますと、今年1月に月足ロウソクが31カ月線を下抜け、同時に月足の遅行線は26カ月前の月足ロウソクが位置する水準を下抜けるという弱気の流れが基本的に年初から続いています。ここで何より注目しておきたいのは、やはり月足「雲」上限がドル/円の下値を再び支える役割を果たすかどうかという点です。ちなみに、昨年8月16日安値から同年12月15日高値までの上昇に対する半値(50%)押しの水準というのも、実のところ月足「雲」上限と同じ水準にあります。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役