前回更新分の本欄で、ドル/円について「(場合によっては)50%押し=110円あたりの水準が視野に入ってくるようになる可能性も否定はできない」などと述べました。実際、今週27日にドル/円は一時110.11円まで下押す場面があり、米政権の政策実行能力に対する不信感が相場に色濃く反映されることとなりました。
思えば、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を通過するまでは市場の期待が少々"先走りし過ぎていた"わけですが、FOMC通過後はその反動で警戒や悲観が少々"行き過ぎた"ようにも見受けられます。結果、昨日(28日)はその"行き過ぎ"の反動が再び見られることとなり、円やユーロに対してドルが大きく買い戻される展開となりました。
昨日、ドルが買い戻された直接的なきっかけは、ライアン米下院議長が税制改革に前向きな発言をしたことや米連邦準備理事会(FRB)のフィッシャー副議長らがややタカ派的な発言をしたことなどですが、ここで最も重要なのは彼らにそうした発言をさせた背景にある事実そのものであり、その点は常に念頭に置いておく必要があると思われます。
ライアン議長の発言の背景には、このたびオバマケア撤廃を断念したことで、むしろ今後は税制改革やインフラ投資の議論を進めやすくなるという事実があります。大型減税案については財政保守派がまたも反対に回るとの見方もありますが、最終的に「国防費の大幅増&非国防費の大幅減」という方針が見直されることとなれば、これまで米大統領が強調してきた保護主義的なトーンが多少なりとも弱まると見ることもできるでしょう。
また、米国内のインフラが今、深刻な老朽化問題を抱えていることも動かしようのない事実です。既知のとおり、全米土木学会は、2013年から2020年までに交通や水道などのインフラ整備に「1兆6,000億ドル」が必要と試算しており、実のところ米大統領が掲げている「1兆ドル」でも大いに不足するのです。これまでにも、一部地域で巨大ダムが決壊の危機に見舞われるなどしており、その対応は待ったなしの状態にあります。
また、フィッシャーFRB副議長をはじめとした少なからぬFOMCメンバーらがややタカ派的な姿勢を示しているのは、足下で消費活性化の兆候が一層露わになってきているという事実があります。その点で注目されるのは、一つに最近の米国で「自発的離職者」の数が大幅に増加していることです。これは「もっといい仕事に就きたい」と考える人がますます増えていることを示しています。いずれ、より多くの人々が求める職と賃金を手に入れられるようになれば、自ずと個人消費の流れは太く強くなって行くでしょう。
その一方で最近とくに目を惹くのは、製鉄の主原料である鉄鉱石の価格が高止まりの状態を続けていることです。中国で鋼材需要が堅調に推移していることが主因とされ、中国の製鉄所は最近、低品位の国内産から高品位の豪州産に原料を切り替える動きを見せているとも伝えられています。言うまでもなく、このことは豪ドルの強気材料と捉えられます。
下図に見るように、豪ドル/円は3月半ば以降にドル/円が下落した影響もあって、一目均衡表の日足「雲」を下抜ける弱気の展開となっていました。今週に入って一時的にも84円を下回る場面も見られましたが、この84円処というのは非常に重要な節目の一つであり、そこはとりあえず押し目買いで臨むべきところでもあると考えられます。今後も、豪ドルには鉄鉱石価格の高止まりという事実の下支えがあるということを常に念頭に置いたうえで向き合って行きたいものです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役