先週14-15日に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)を境にして、ドル/円の相場つきは一変してしまったとの感があります。3月10日に直近高値の115.51円まで上値を伸ばしたドル/円は、FOMCの結果が判明する直前まで114円台後半の水準で推移していましたが、FOMCの結果を受けて113円台半ばあたりまで下落し、その後もダラダラと下値を切り下げて、昨日は111円台半ばあたりまで大きく下落することとなりました。

今回のFOMCでは、事前の市場予想通りに0.25%ポイントの利上げ実施が決定されたものの、参加メンバーらが見通す年内の利上げペース変更がなかったことなどから、市場の期待が裏切られた格好となり、ドルは失望売りに押されることとなりました。

冷静に考えれば、まだ米政権による経済政策の具体案が何ら示されていない状況下で、米連邦準備理事会(FRB)が利上げペースの加速を見通すことは難しいわけであり、事前の市場の期待は"先走り過ぎ"であったということになるでしょう。実際、先週16日に米政権が発表した2018会計年度の予算方針においても、まだ景気刺激的な要素を含んだ部分は示されず、予算の全体像を示す予算教書の議会提出は5月ごろになるとのことでした。

昨日(21日)、米大統領は連邦議会に乗り込んで下院共和党に対して医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案を可決するよう迫った模様ですが、いまだ一部の共和党議員の支持を取り付けることができていないと伝わっています。オバマケア代替法案が可決の方向へ向かわなければ、本命であるところの税制改革に着手できず、予算教書をまとめることもできません。

このように、今のところオバマケア撤廃は前へ進まず、移民制限令は差し止め、米大統領選でのロシア政府とのつながり疑惑も浮上し、足下では米政権の政策運営能力に対する不信感が一気に強まりつつある模様で、市場は政治的な混乱を嫌気してドルに見切り売りを出し始めています。その意味で、当面は米政権の面目躍如となるかどうかが相場の行方にとって一つの鍵になると見ておくことも必要でしょう。

市場にとっては、結果的に日米金利差に注目した買いによって支えられていたドル/円の強気モメンタムが足下で急速に萎えてしまっていることが何より大きく響いているものと考えられます。前回更新分の本欄で触れたように、FOMCが行われる前の市場ではドル/円が115円処でヘッド・アンド・ショルダーズ・ボトム(逆三尊)を完成させ、そこから一気に上値余地を拡大する可能性があるとの期待も膨らんでいました。

ともあれ、目下はドル/円が111円台半ばの水準まで下落し、あろうことか直近(2月7日)安値の111.59円をも一時的に下抜ける展開となっています。とりあえず、目先は111.50円処を明確に下抜けるかどうかが焦点になってくると考えられ、仮に同水準を下抜けた場合には、一つに一目均衡表の週足「雲」上限が現在位置している111.36円あたりが当座の下値の目安になってくるものと見られます。

この111.36円処の水準をも下抜ける展開となった場合には、昨年11月安値から12月高値までの上昇に対する50%押し=110円あたりの水準が視野に入ってくるようになる可能性も否定はできず、その点も一応は頭の片隅に置いておく必要があるでしょう。繰り返しになりますが、やはり当面は米政権に対して市場が抱く不信感が払しょくされて行くかどうかに要注目ということになると思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役