最近の米国の強硬的な外交姿勢には驚かされるものがある。先月開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、通商政策をめぐりトランプ大統領が他の6カ国首脳と対立するという異例の展開となった。さらに先週トランプ大統領が欧州を訪問した際にも、国防費などをめぐり欧州側を批判するような発言が相次いだ。先進国、なかんずく米国と欧州は、戦後長きにわたり手を携え、民主主義や市場経済の理念に基づく国際秩序を形成してきた親密なパートナーであったはずだが、これは一体どうしたことであろうか。
こうした状況を見る上で、そもそも西側諸国全体が変調してきた点に目を向ける必要がある。大きな転機は、2016年の米国のトランプ大統領誕生と英国のEU離脱を決めた国民投票であった。トランプ大統領の政策は賛否が極端に分かれるものが多く、米国の内外で様々な軋轢を生じている。欧州では英国とEUが離脱交渉に手を取られ、またイタリアなどでポピュリズム政党が伸長していることもあり、不安定性が増幅している。一言でいえば、西側諸国は国内・域内に数々の問題を抱えながら対外関係をぎくしゃくさせているのであり、「『西』の迷走」が続いている状態なのである。
対照的に、これまで民主的な社会制度と距離を置いていた中国やロシアといった国々が政治的安定性を強めているのは皮肉である。今年3月、中国では全国人民代表大会が開かれ、国家主席の2期10年までという任期の撤廃が決まり、習近平国家主席の長期政権への道が開かれた。またロシアでは大統領選挙でプーチン大統領が再選され、2000年の大統領就任から首相期をはさみ2024年まで続く長期政権となる見通しである。また、トルコにおいても15年にわたり強権的な政治を行ってきたエルドアン大統領が先月の大統領選挙で再選され、長期支配体制が続くことになる。こうした国々を東側諸国と呼ぶとすれば、「『東』の安定感」が強まってきたと言える。
G7サミットの陰に隠れあまり大きく報道されなかったが、G7サミットと同じタイミングで上海協力機構(SCO)首脳会議が行われ、中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領や、インド、パキスタンの首脳らが出席して保護主義への対抗などで結束を示した。同時期に「西」と「東」の2つのサミットが開催され、「西」の混乱と「東」の結束という対照的な結果を示したのは、揺らぐ国際秩序のスナップショットを見た思いである。
国際秩序は今後どこへ向かうのだろうか。「西」の不安定化の背景には、格差拡大に対する国民の不満やポピュリズムの拡散がある。先進国では格差が広がる一方で中間層が減少するという傾向が見られ、こうした状況はこれからも続いていくであろう。とすれば、不安定化する「西」の動きも当面拭い去られることはないと考えられる。一方、「東」の主要国では政治的安定性が続く見通しではあるものの、中国の過剰債務問題などが経済に大きなショックを及ぼした場合は国内外に混乱が波及するかもしれず、注意が必要である。今週はトランプ大統領がプーチン大統領と会談を行い米露間の関係改善を模索するという新たな動きもあり、事態は複雑化している。こうした事情を勘案すると、これから国際秩序は、構造的な不安定要因を抱えながら、経済情勢や各国の様々な思惑によって縦横に揺さぶられ続けていくことになるのではなかろうか。
コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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