昨日(19日)、ユーロ/ドルは一時1.3313ドルまで下押す場面があり、年初来の安値を更新しました。同水準は、これまで本欄でも注目してきた一目均衡表の週足「雲」下限を下回るもの(7月23日更新分参照)で、場合によっては週末時点(週足終値ベース)で週足「雲」下限をついに下抜ける可能性も出てきました。

もっとも、今週は21-23日に米ワイオミング州ジャクソンホールでカンザスシティー連銀主催の年次金融・経済シンポジウムが開催される予定となっており、とくに注目されるイエレンFRB議長の講演(22日)内容次第では、一旦ドルが調整含みとなる可能性もあります。結果、今週の週末にかけてはユーロ/ドルが一旦切り返す可能性もあり、いまだ週足終値ベースで週足「雲」下限を下抜ける格好となるかどうかは定かではありません。しかし、目下のユーロを取り巻く状況を考えれば、もはや「時間の問題」と言えるのではないかとも思われます。

周知の通り、8月14日に発表されたドイツの4―6月GDP成長率(速報値)は前期比0.2%のマイナス成長に陥りました。ユーロ圏全体では「ゼロ成長」となり、ドイツの10年債利回りは史上初めて1%を下回る事態となったのです。フランスやイタリアなど他のユーロ圏主要国も総じて厳しい状況にあることは言うに及ばず、さらに昨今はウクライナ情勢の混迷がユーロ圏経済の停滞に拍車をかける格好となっています。

こうした事態を背景に、8月15日の英フィナンシャル・タイムズ紙は社説で「ECBが実体経済を救うために量的緩和に踏み切らざるを得なくなるのは間違いない。(中略)本格的な金融緩和の導入を決めるのは早ければ早いほどよい」との見解を示しました。例年のことではありますが、欧州各国の政策担当者が長い夏季休暇を終えて政策の現場に戻ってくる9月には、何らかの具体的な発言や行動が見られることとなるかもしれません。

下図にも見られるとおり、ユーロ/ドルは7月の中旬に週足「雲」のなかに潜り込み、同月の下旬には12年7月安値と13年7月安値を結ぶ長期サポートラインを明確に下抜けました。それ以前に、週足の「転換線」は「基準線」を下抜け、週足の「遅行線」は週足ロウソクを下抜けています。さらに今後、週足ロウソクが終値ベースで週足「雲」下限を下抜けることとなれば、その時点で「三役逆転(陰転)」の弱気シグナルが明確に点灯することとなるのです。

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今のところ、重要な節目の一つである1.3300ドル付近にはオプション取引などが絡んだ買い注文が居並んでいる模様です。とはいえ、目下のユーロを取り巻く状況は、そうした下値支持水準さえも一気に打ち破りかねないほど厳しいものとなっているように思われます。今後、ユーロ/ドルが週足「雲」下限を下抜け、さらに前記の1.3300ドルをも明確に下抜けてきた場合、その後の下値メドはシンプルに12年7月安値から今年5月高値までの上げ幅に対する38.2%押し=1.3248ドル、50.0%押し=1.3018ドルあたりということになるでしょう。少し長い目で見れば、強い心理的節目と考えられる1.3000ドルを下抜ける可能性も否定はできず、その場合は61.8%押し=1.2788ドルが意識されやすくなるものと見ておく必要もあるのではないでしょうか。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役