完全に方向感が失われた感のある外国為替市場にあって、目下の関心は欧州中央銀行(ECB)による追加緩和の可能性に集中しているものと見られます。本日(28日)付けの日本経済新聞朝刊(国際1面)もその話題に触れており、記事は次回6月5日のECB理事会において「政策金利の引き下げが有力視されている」、「量的緩和の導入については、理事会内での反対論もあり、次回会合では見送る」などといった市場の見方を伝えていました。
もちろん、前回のECB理事会が行われた5月8日以降のユーロ相場は、これまでに追加緩和実施観測を織り込む形で大幅に下落。本欄の5月14日更新分でも述べたように、ユーロ/ドルは5月9日に13年7月安値とその後の主要な安値を結ぶサポートラインを下抜けた後、ほどなく一目均衡表の日足「雲」下限をも下抜ける展開となり、長らく続いた上昇トレンドが転換したとの感触が一気に強まることとなりました。
目下のユーロ/ドルは、下の図でも確認できるとおり、日足「雲」下限を割り込んだ状態にあるうえ、転換線は基準線を下抜け、遅行線は日々線を下抜けるという「三役逆転(=陰転)」の弱気シグナルを灯しています。さらに、5月22日には終値で4月4日安値=1.3673ドルを下回る水準まで下落し、その段階で4月4日安値水準をネックラインとする「ダブル・トップ」の転換保ち合いパターンが完成したと見ることもできるものと思われます。
前記のダブル・トップ完成後は、そのネックラインと転換線が上値を押さえる格好となっていますが、その一方でここ数日は200日移動平均線(=200日線)が下値サポートとして機能していることも事実です。よって、当面はこの200日線を明確に下抜けるかどうかが最大の焦点ということになるでしょう。仮に、今後ユーロ/ドルが200日線を明確に下抜けた場合、それは昨年7月以来のこととなり、それなりにインパクトは大きいものと考える必要がありそうです。
そもそも、すでにダブル・トップは完成しているわけですから、セオリーに基づいて考えれば相場はある程度まとまった下落となる可能性が高く、その下値メドの一つとなり得るのはダブル・トップを形成した3月13日高値&5月8日高値からネックライン水準までの下落幅と同じだけネックライン水準から下方に位置する水準ということになります。つまり、それは2月3日安値=1.3477ドルをも下回る水準ということになるのです。
先ごろ、ECBのメルシュ専務理事は「ECBは緩和のためのツールを複数持っている」、「標準的な手法と非標準的な手段の両方を用いるだろう」と述べました。おそらく、標準的な手法というのは「政策金利の引き下げ」を指しているのでしょう。では、非標準的な手段というのは、果たして「マイナス金利の導入」であるのか、はたまた「量的緩和」のことを指しているのか、ここは大いに関心の高まるところです。
仮に、次回のECB理事会の決定がすでに市場で大方織り込み済みであったとすれば、そこで一旦はユーロ安に歯止めがかかる可能性もあります。しかし、ほどなく「追加の追加」の策が実施されるとの観測が強まれば、あらためて一段のユーロ安が進行する可能性もあり、当面はその行方から目が離せません。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役