周知の通り、今週5日には6月の米雇用統計が発表されます。時計の針を5月3日に戻しますと、この日発表された米雇用統計の結果は市場にとって大きなサプライズとなりました。4月分の非農業部門雇用者数(NFP)が事前の市場予想を上回ったこともありますが、より大きなサプライズであったのは同時に発表された2月分と2月分のNFP(改定値)が大幅に上方修正されたことでした。当時は、そのことが素直に米景気回復期待に伴うドル買いにつながり、後にドル/円は103円台後半の高値をつけるまでに上昇します。
流れを大きく変えたのは、5月22日に行われた米上下両院経済委員会におけるバーナンキFRB議長の議会証言でした。その場で議長は「量的緩和(QE)の規模が早期に縮小される可能性もある」と証言し、これを受けて市場は大いに動揺・混乱します。投機筋はいささか膨らみ過ぎたドル買いポジションの解消へと一気に動き、後にドル安・円高→日本株安→欧米株安という「リスク回避の連鎖」が起きました。
こうした悪い流れに歯止めをかけたのは、6月7日に発表された5月の米雇用統計。その結果は「米当局にQEの早期縮小を迫るほど強くはない」と捉えられ、その翌週に控えていたFOMCではQE縮小や利上げに対する明確なメッセージは発せられないだろうとの思惑も強まって、ドル/円は徐々に値を戻し始めました(下図参照)。
しかし、6月19日に行われたFOMC後の記者会見でバーナンキFRB議長は、市場の思惑に反して「QE縮小の可能性」に幾分か踏み込んだ少々ショッキングな発言をしました。このことが、後に米10年債利回りを一時的にも2.6%台まで大幅に上昇させ、日米の金利差が大きく拡大したことに伴って一段とドル/円の水準を押し上げることにつながりました。
そして、今週5日は6月の米雇用統計発表です。その日を前にして、ドル/円は本日(3日)朝方に100.85円まで上昇する場面があり、ここに至る過程において重要な節目である21日移動平均線(20日線)、一目均衡表(日足)の「雲」下限、40日移動平均線(40日線)を順に上抜け、さらに前回の本欄で一つの上値メドとした99.94円(5月22日高値から6月13日安値までの下げに対する61.8%戻しの水準)をも上抜けました。結果、当面の上値のメドとして意識されやすくなったのは一目均衡表(日足)の「雲」上限(現在は101.28円)であり、仮に同水準をも上抜けると前述の76.4%戻し=101.39円を試す可能性もあります。
ここで何より重要なのは、やはり一目均衡表(日足)の「遅行線」と日々線の関係でしょう。仮に、今週5日の終値時点で101.30円前後のレベルを超えてくると、遅行線は再び日々線の上方に顔を出すこととなります。逆に、米雇用統計の結果次第では、遅行線が日々線の"壁"に阻まれるような格好でドル/円が再び調整局面に入る可能性もあります。米雇用統計の結果が強かった場合、QE早期縮小への思惑は一段と強まりますが、それが再び「リスク回避の連鎖」を呼び、円高につながる可能性もあります。また、米雇用統計の結果が弱かった場合、市場は素直にドル売りで反応する可能性もあります。いずれにしても、結果発表後の市場の反応を慎重かつ冷静に見定めねばなりません。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役