このところ、NY金先物(中心限月)価格が目立って強含みの推移となっており、8月22日には200日移動平均線(200日線)をブレイク。その後、一時的にも4月半ば以来となる1677ドル(1トロイオンス当たり)台に乗せる場面も見られました。
これは他でもなく、ECBが南欧諸国の国債購入に踏み切ることやFRBが追加的な金融緩和の実施に踏み切ることに対する市場の期待が、ここにきて日に日に強まっていることに因ります。金利が付かない金(ゴールド)にとって、世界の主要な中央銀行による一段の資金(流動性)供給は、金利低下=ゴールドの魅力アップにつながりますし、ある程度まとまった流動性の供給によって"カネ"の価値が下がれば、相対的に"モノ"の価値は上がります。つまり、主要中銀の流動性供給はゴールドの"大好物"なのです。
逆に、ゴールドは世界が流動性の危機に陥りかねない状況になると、一時的にも非常に弱い立場に置かれます。その最たるものは、リーマン・ショック後に生じた金価格急落の事例で確認することができますが、下の図にも見られるとおり、この2年ほどの間でも数々の事例でそれは確認することができます。
2011年の8月から9月初旬にかけて金価格が急騰した背景には、何よりECBによって巨額の国債購入が行われたという事実がありました。このことは、本欄の2012年8月1日更新部においても少し詳しく触れています。また、2011年も8月下旬に向けてジャクソンホールでのバーナンキFRB議長講演において、相当に大胆な追加緩和策への言及がなされるとの期待が市場に渦巻いていました。
しかし、結局のところバーナンキ議長は具体的な追加策に言及することはなく、9月に入るとECBの専務理事が国債購入に反対して辞任、独連邦憲法裁判所が南欧諸国への金融支援について一定の制限を設ける方向性を示すなど、再びムードは悪化し始めました。
思い起こせば、この数年で最も流動性の危機が極まったのは、2011年11月から2012年1月半ばあたりまででした。ご記憶の通り、ギリシャやイタリア、スペインなどで次々に政府首脳が立場を追われ、各国の国債利回りは急騰、域内の銀行間取引はほとんど機能不全状態となり、致し方なく世界の主要6中銀が緊急電話会議を行って無制限のドル資金供給の実施を決めたのが2011年11月末のことでした。
12月に入ると、世界の有力な格付け会社が相次ぎ、ユーロ圏各国の信用格付けを見直す方向で検討すると宣言し、あらためて流動性危機への警戒が強まるなかで金価格は1500ドル台前半まで一気に下げ足を速めます。同月のECB理事会では、後に「バズーカ砲」と称されることになった新長期資金供給オペ(LTRO)の実施が決定しますが、当初はあまり評価されません。しかし、後にその威力が明らかとなり、2012年2月の下旬には2回目のLTROが実施されることになっていたため、徐々に金価格は持ち直し、一時的にも1800ドルに迫る動きとなります。
2012年5月にはギリシャで総選挙が行われ、その結果は既知の通りです。いきおい「ギリシャのユーロ離脱」が見る見る現実味を増すこととなり、万一そうなれば世界の金融市場は壊滅的なダメージを受けるとの懸念が強まりました。そこで再び金価格は1500ドル台前半のレベルを試すこととなります。
そしていま、市場は2012年9月6日のECB理事会、9月12日―13日のFOMCにおける前向きな決定に大いに期待し、8月31日のジャクソンホールにおけるバーナンキ議長講演は「一つの布石になる」といったムードで盛り上がっています。結果、NY金先物(中心限月)価格は急速に下値を切り上げ、2011年9月高値以来のレジスタンスに挑戦する勢いとなっています。
このように、金価格というのはそのときどきの市場のムードを如実に反映した値動きを見せます。今後、ひとつの参考にしていただければ幸いです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役