ECBのドラギ総裁が「あらゆる措置を取る。私を信じて欲しい!」との大胆発言をしてからそろそろ1ヶ月...。その間、ECBは何一つ具体的な行動に出ていないのにもかかわらず、市場はなおも"大いなる期待"を継続。昨日(21日)は、ドイツの一部与党議員がギリシャに対する譲歩を示したほか、ECBのアスムセン専務理事がECBの計画に支持を表明したなどと伝わり、いきおい市場では欧州域内の債務危機対策の進展に対する期待がかなりの盛り上がりを見せています。 

今後、9月のECB理事会において先のドラギ発言が"口先"だけではなかったと認識され、独連邦憲法裁判所が「欧州安定メカニズム(ESM)」と「新財政協定」の合憲性に対する審理結果を公表した後には(少々延期される可能性もありますが)、いよいよ欧州債務に関わる問題が次の新たな局面を迎え、足元の危機は相当程度に鎮静化する可能性もあります。

仮にそうなった場合、以前から囁かれているのは「欧州危機が鎮静化すると、市場は次に日本の問題への関心を強めるだろう」ということです。ここで言う「日本の問題」というのは、他でもなく日本の財政赤字や累積債務の問題であり、かつまた日本の経常収支の問題ということになるでしょう。こうした問題の延長線上には日本国債の大幅な価格下落とそれに伴う金利急上昇への懸念があり、ひいてはそれが強い円売り圧力につながるとの見方があります。

周知の通り、ここ数年の日本では年間約40兆円の税収に対して、それと同等かやや上回る額の新規国債発行に財政が依存するという異常事態が続いています。このことに対しては「今後も発行された国債の発行は国内で十分に消化できるから心配ない」などという些かノ-テンキな見解もありますが、何より間違いないことは、今足下で確実に日本の経常収支における「黒字」は縮小しており、そう遠くない将来において経常収支が「赤字」に転落してしまう可能性が高まっているということです。

言うまでもなく、それは日本の貿易赤字が構造的に固定化し、徐々に膨張し始めていることに因るわけで、その実、2012年7月以前の過去1年間における日本の貿易収支には、かつてない「赤字」が並んでいることが下のグラフでもハッキリと確認できるでしょう。

財務省が発表した2012年上期(1~6月)の貿易収支は2兆9158億円の赤字となり、半期ベースで過去最大、東日本大震災の影響で赤字に転落した2011年通年の貿易赤字(=2兆5647億円)を、なんと半期で上回ったことになります。もちろん、そのぶんだけ経常収支の黒字は縮小を余儀なくされており、同じ2012年上期の経常黒字は3兆0366億円と、上期としては比較可能な1985年以降で最も少ない水準にまで落ち込みました。

万が一にも経常収支が赤字に転落するとなれば、それは日本国内で必要とする資金のすべてを国内だけでは十分に賄えなくなることを意味します。止むなく一部を海外からの調達に頼るようになれば、当然のことながら日本国債の価格は下落、金利は上昇することとなるでしょう。金利が上昇すると一番怖いのは、それによって毎年の「国債費」の支払いが一気に膨れ上がることです。この国債費とは、過去に発行した膨大な国債の「利払い」と、過去に発行した国債の一部償還のために必要な「借換費用」を足したもので、金利が上がると特に利払いの方に大きく影響が及びます。

すでに、日本の国債費というのは年間で20兆円を超えています。世界で最も低い金利水準で利払いを行っているにもかかわらずです。これで、もし近い将来において多少なりとも金利が上昇すれば、いずれ日本の国債費は25兆円、30兆円...と膨れ上がってしまうのは時間の問題です。

世界の投資家らは、とうにそのことを熟知しています。ただ、今は欧州における債務問題や米国における雇用・消費の低迷などといった相場のテーマに「時間的優先順位」がつけられているだけなのです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役