先週前半、一時的にもスペインの10年債利回りが7.7%台にまで上昇したことを背景に、ECBのドラギ総裁は「いかなる措置も取る用意がある。私を信じて欲しい」との極めて大胆なコメントを発しました。さらに総裁は「国債の利回りが金融政策の伝達を阻害するなら、我々(ECB)の権限の範囲内だ」とまで述べ、暗に国債の購入によって国債利回りの低下を促し、貸出金利を低下させる可能性をも示唆したのです。
その結果、目下の市場では「8月2日のECB理事会において、今年3月を最後に停止されている証券市場プログラム(SMP)を通じた国債購入の再開が決定される」との見方が日増しに強まってきました。
こうした状況に、ある種のデジャヴュ(既視感)を覚える方も少なくないでしょう。そうです、これはまさに昨年(2011年)夏に私たちが目の当たりにした出来事の再現と言っていい状況なのです。振り返れば、2011年8月の初旬に開かれた政策理事会においてECBは、それまで実質的に停止していたSMPの再開について一定の合意に達したものと見られています。
その実、ECBは2011年8日8日の週に220億ユーロ、8月15日の週に143億ユーロ、8月22日の週に95.6億ユーロの国債購入を実施したことが後に分かっています。そして、後に当時のECB理事であったユルゲン・シュタルク氏は、SMPの再開に対する批判の意を露わにすべく、理事の辞任を表明するに至りました。
当時、世間では「欧州各国の要人が長期の夏季休暇に入るため、その間に誰かが南欧諸国の国債を買い支えておかねばならない。その"お鉢"がECBに回ったのだ」との見方が大勢を占めていました。そして、今年もすでにドイツのメルケル首相やショイブレ財務相らが、優雅で長い夏季休暇に入っています。フランスでも、そろそろ政治活動はお休みとなり、再開は9月第1週目の月曜日からとなるそうです。
とはいえ、2011年8月初旬からSMPが再開されたことで、それまで急上昇していたスペインの10年債利回りが急激に低下し、それを受けてユーロ/ドルが一定の戻りを試す展開となったことは紛れもない事実です。
図にも見られるとおり、ユーロ/ドルは2011年5月4日の高値から明らかに下落基調を辿り始めており、8月に入るまでは上値も下値もともに切り下がり続けていました。それだけに、8月下旬の高値が前月高値を上回る水準となったことには、それなりの意外感を覚えたものでした。
その意味で、明日(8月2日)のECB理事会においてSMPの再開が決定されれば、当面はユーロ/ドルが一定の戻りを試す展開となる可能性も十分にあるでしょう。ただ、あくまでSMPは緊急避難的措置に過ぎず、市場の反応が一時的なものに留まる可能性が高いことも否定はできません。その実、2011年の8月に見られたユーロ/ドルの戻りも一時的なものに終わり、9月に入ると一気に急落していることがハッキリと見てとれます。
やはり、中長期的なユーロ/ドルの下落に歯止めをかけるためには、欧州統合深化のために必要となる財政同盟や銀行同盟などの実現に向けた歩みを確実に前へ進めるとしかなさそうです。もちろん、それにはまだ相当の時間を要することとなるでしょう。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役