昨日(7月24日)、日本政府は日本銀行の審議委員に、元野村証券経済調査部長兼チーフエコノミストの木内登英氏と、元モルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミストの佐藤健裕氏を任命しました。2012年4月初めに2人の審議委員が任期満了によって退任し、以降長らく「空席」となっていましたが、これでようやく審議委員が規定の6人となり、正・副総裁3人との計9人で今後の政策委員会を構成することとなります。

両氏が政策論議に加わるのは、8月8日-9日に予定される金融政策決定会合から。すでに就任の記者会見を済ませた両氏からは、追加的な金融緩和の検討に対する前向きな見解も示されており、両氏の手腕があるべき政策決定のプロセスのなかで大いに発揮されることが期待されます。

ときに今、筆者の手元には学習院大学経済学部教授の岩田規久男氏が著された『日本銀行 デフレの番人』(日本経済新聞出版社刊)という著書があります。なかなかセンセーショナルなタイトルを付した著書のなかで、岩田氏は巷間よく言われている「金融政策以外のデフレ原因説」が誤りであると主張し、日銀が長らく振りかざしてきた「デフレの日銀理論」を痛烈に批判しています。それは、以下の通り実に辛口です。

『日銀は物価をゼロ%以下に抑え、デフレを金科玉条のごとく守ってきた役所としか言いようがない』

『デフレの番人とは皮肉に聞こえるかもしれないが事実の客観的表現であると言えよう』

『デフレという貨幣現象から逃れる道は、それを引き起こしている日銀の金融政策を変えること以外にない』

さらに、著作のなかで岩田氏は「金融政策は人々のデフレ予想をインフレ予想に変える力を持っており、それは円安や株高に結び付く」ということを明らかにする数々の実証データを示しています。何より、岩田氏の指摘によって再確認させられるのは『規制緩和や構造改革、市場開放などによって日本の潜在成長率を高めるのは政府の仕事だが、実際の実質成長率を潜在成長率まで高めるのは日銀の役割である』という点です。

確かに、デフレというのはカネの価値が上昇する現象を示し、それが過去における「円高の歴史」の背景に厳然とあったことは否定することができません。また、下図に見るように過去のドル/円の価格推移と日経平均株価の価格推移との間に強い連動性が認められることはよく知られた事実であり、デフレ下の日本経済が円高を一因とする株価低迷によって閉塞的な状態を続けてきたこともまた事実と言えるでしょう。

岩田氏が指摘する通り、日銀の金融政策が人々のデフレ予想をインフレ予想に変える力を持ち、それが円安や株高に結び付くとするならば、新たに2人の審議委員が加わった今後の日銀による政策決定には期待するところ大と言えます。

さしあたっては、8月の金融政策決定会合における政策論議の内容に大いに注目しておきたいところです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役