ここにきて俄かに、ユーロ圏における「銀行同盟」創設案が急浮上。このほどメキシコのロスカボスで開催されたG20サミットにおいても、その実現に向けた具体的な「工程表」の作成を検討することで各国の意見は一致しています。

この銀行同盟創設が、過去2年以上も長引く欧州問題(ユーロ危機)の悪循環を根本的に断ち切るための第一歩となり、今後の世界経済、ひいては今後の外国為替相場を大きく左右する可能性は高いと見られ、それだけに当面はその行方から目が離せません。

少し振り返りますと、2012年5月月30日、欧州委員会のバローゾ委員長は、ユーロ圏が経済統合深化の一環として銀行同盟、共通の金融監督制度および銀行預金保険制度の確立を実現すべきとの見解を示し、6月28日-29日のEUサミットでこの問題について協議することを明らかにしています。そして同日、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁も「銀行同盟の設立が不可欠」との趣旨の発言をしました。

その後、各方面からEUならびにユーロ圏へと向けられたプレッシャーは日に日に強まり、6月12日には国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が「EUから銀行に直接資本を注入し、悪循環を回避することが重要」との認識を表明。続く6月13日には、ガイトナー米財務長官がワシントン市内で講演し、EU全体で銀行の監督や預金保険制度を共通化する「銀行同盟」構想を早く実現するよう求めました。

それは、銀行同盟が創設されれば、どこの国の銀行が仮に破綻したとしてもユーロ参加国が共同で資金負担する仕組みが整い、ユーロ圏の財政統合が一歩前進することで、いたずらに市場が動揺したり、域内の銀行から大量に預金が引き出されたりすることも防げるからです。

これまで、ギリシャやスペインなどユーロ参加国が当座の資金繰りに困窮するたび、その場しのぎの「対症療法」で支援してきたことが危機を長引かせ、より深刻化させたことは否定できない事実と言えます。そして、もはやユーロ圏が本腰を入れて「統合深化」する意思を目に見える形で示さない限り、市場の不安を鎮まらせることは不可能というところまで追い込まれてしまっています。その実、欧州諸国がスペインの銀行向けに最大1,000億ユーロの金融支援を公約したにも拘らず、スペインの10年債利回りは7%台の危険水準にまで達してしまいました。

「ユーロ圏と金融市場が競争している」と述べたのは独メルケル首相です。これは、メルケル氏がユーロ圏のおかれた現況を十分に理解していることの証となるわけですが、だからと言って「それでは早速、銀行同盟ならびに財政同盟、政府同盟の体制作りに取り掛かりましょう」と言える立場や状況でないこともまた事実です。なにしろ、そのためには当のドイツが膨大な資金負担を覚悟しなければならなくなるからです。一説によれば、それは「ドイツのすべての税金を10%超引き上げることにつながる」とのことで、現実問題として、いまのところメルケル氏は自国民に銀行同盟の是非を問うてはいません。

こうなってくると、今回のEUサミットはまさに正念場です。とりあえず市場は、EUサミットで何らかの合意がなされることを警戒し、当面は様子見姿勢をとるでしょう。場合によっては、全体のムードが好転することに期待し、ユーロに打診買いを入れるかもしれません。少なくとも、これまでユーロを売り込んできた向きは、そのポジションを解消しておこうとするかもしれません。

しかし、仮にEUサミットで何らの合意も得られなかった場合、あるいは上辺ばかりの大方針を掲げるだけに留まったような場合には、あらためて市場が大混乱となる可能性があります。目下のところ静かに進行している銀行の取り付け騒ぎは一気に加速し、スペインやイタリアは市場での資金調達の道を閉ざされる可能性もあるでしょう。極めて重要なサミットを数日後に控え、私たち投資家も十分な警戒を怠らず、事態の行方をしっかりと見定める必要があります。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役