ご承知のとおり、ドル/円は2月初旬の76.00円近辺から直近(3月15日)高値=84.19円まで、わずか1ヶ月半ほどの間に8円強の円安・ドル高に振れました。あまりに急激な上昇であったため、ここにきて非常に強い過熱感を伴っていることも否定できず、目下のところ市場関係者の間では実に様々な見解が飛び交っています。そこで、あらためて、現在のドル/円についての「強気材料」と「弱気材料」の双方を、以下に整理しておくことにしましょう。

<強気材料>

●下のチャートでも確認できるとおり、3月上旬に89日移動平均線(89日線)と200日移動平均線(200日線)のゴールデン・クロス(GC)が示現しました。しかも、そのあたりから200日線は上向きに転じてきています。

●長らくレンジ内でもみ合い推移していた米2年債金利(利回り)が、ついにレンジ上限を上放れ、目下は0.4%付近にまで上昇してきています。日2年債金利が低水準に据え置かれるなか、日米金利差の拡大が円売り・ドル買い材料視されやすくなっています。

●2011年8月高値(=81.50円)や昨年5月位高値(=82.23円)など、過去の目立った高値を次々に上抜けてきたことで、次に目立つ2011年4月高値の85.53円が意識されやすい状況となっています。

※もちろん、前回更新分の本欄で述べたとおり、大きな流れが円安基調へ転換したことを指し示す数々の根拠が相場のバックボーンにはあります。

(図をクリックいただくとファイルをダウンロードしていただけます。)

<弱気材料>

●数々のオシレーター系(テクニカル)指標が相場の過度な過熱を示しており、例えば89日線とのかい離率はここ数年例を見ないほどの高水準となっています。

●シカゴ通貨先物市場における大口投機家(ヘッジファンド)の円売り越しが、3月13日時点で4万枚を超えてきました。経験則からすると、売り越し枚数が5―6万枚を超えたあたりから徐々に買い戻しの動きが出やすくなります。

●前述したように日米金利差は拡大していますが、その拡大の度合いはドル/円の上昇度合いに追いついていません。よって、一段と金利差が拡大してこない限り、金利差を材料にドル/円が一段の上値を追うことは難しくなっています。

●2011年10月末の安値から同日の高値までの値幅を同日の高値に加えて求められる当座の目標水準(チャート上の矢印)は83円台半ばあたりであり、直近高値水準には一定の目標到達感があります。

以上のような事柄に加えて日米欧経済のファンダメンタルズをも勘案した場合、やはり当面のドル/円は一定の日柄調整を余儀なくされる可能性が高いということになるでしょう。目先の焦点は、チャート上(に引いた赤点線)サポートラインが機能し続けるかどうかにあるものと見られます。

いずれにしても、当面の調整はあくまで「日柄調整」の範囲に留まるものと思われ、中長期的に見れば85円、90円、95円といった重要な節目を順に目指して行くものと考えます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役