現在の外国為替市場において「ユーロが主役」であることは言うまでもありません。その結果、対ユーロでドルと円が同じ動きをすることが多いため、長らくドル/円は極めて方向感に乏しい展開を続けています。ギリシャの債務減免を巡る交渉や欧州国債の大量償還が続く1-3月期の間は、なおもユーロが主役であり続けるでしょう。円は対ユーロで一段の高値を試す可能性がありますし、対ドルでも折からの円高水準に留まり続ける可能性があります。

しかし、少し長い目で見ると、いつまでもユーロが主役で、いつまでも目下の円高症状が続くとは必ずしも言い切れません。近い将来において、明らかに相場の基調が円安方向へと転じる可能性は十分にあり、その意味で非常に気になるのは「いま足下で日本の貿易赤字がかつてないほどに膨らんでいる」という点です。

財務省が公表している昨年(2011年)11月までのデータ(下図参照)を見てみますと、2011年1月以降、日本の貿易収支が赤字に陥るケースが目立っており、2011年は年間(年ベース)で31年ぶりの貿易赤字に陥ったことが確実となりました。より詳しく見てみますと、2011年1月~11月の貿易収支は2.3兆円の赤字。これに今後発表される12月分のデータが加減されます。やはり、震災の影響で原発の稼働率が低下したことにより海外からの鉱物性燃料輸入額が急増したことや、折からの円高と諸外国の景気低迷により日本からの輸出額が頭打ちとなったことが大きかったのでしょう。

出所:財務省 株式会社アルフィナンツ作成 ※グラフをクリックいただくと拡大版をPDFファイルでご覧いただけます。

(出所)財務省 株式会社アルフィナンツ作成(図をクリックいただくとファイルをダウンロードしていただけます。) 

いま専門家の間では、この貿易赤字体質は暫くの間、構造的に定着するとの見方が強まっています。何より、国内の原発稼働率は今後一段と低下する見通しですし、目下のところ円高症状も継続しています。また、2012年以降は震災復興需要が本格化します。それ自体は望ましいことですが、それに伴って海外からの輸入が一段と増加する見通しであることもあることも事実です。当面、日本の貿易赤字は定着し、むしろ一定の増加傾向を辿ると考えた方が良さそうです。

ここで気になるのが日本の経常収支の問題です。経常収支とは、貿易収支、サービス収支、所得収支、途上国への資金援助などを表す経常移転収支の4つの合計。そのうち、目下のところ黒字となっているのは、海外からの利子や配当の合計である所得収支だけとなっています。一部の専門家の推計によりますと、日本の貿易赤字は2015年に14.3兆円に拡大し、その一方で所得収支の黒字は14.8兆円に留まるとのこと。もともとサービス収支や系所移転収支は赤字ですから、結果的に日本は2015年あたりにも経常収支が赤字に陥る可能性が出てくるというのです。

経常収支が赤字ということは、日本が必要とする資本(資金)のすべてを国内だけでは賄いきれなくなり、一部を海外からの調達に頼らなければならなくなるということで、これは極めて強い円売り材料となり得ます。

もちろん、市場は実際に日本が経常赤字に陥ってから円を売るのではありません。ずっと以前から、そうなる可能性の高まりをして円売り材料とするのです。その意味で、今後も財務省が公表するデータ=経常収支の推移からは目が離せません。

コラム執筆:

田嶋 智太郎

経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役