明暗分かれた米国株、ハイテク売りを誘ったインフレ再燃
先週(10月12日週)の米国株市場は、AI関連株への警戒感が強まり、主要指数の明暗が分かれる1週間でした。週間ではS&P500が2.0%、ナスダック100が5.5%下落した一方、ダウ平均は0.7%上昇しました。半導体やソフトウェアへの売りが目立ちましたが、米国株全体が一様に弱かったわけではありません。
実際、S&P500の11業種のうち7業種が上昇し、生活必需品とエネルギーはそれぞれ約5%上昇しました。情報技術が6.4%下落する一方で、ヘルスケアなどには買いが入りました。指数を押し下げたのは、時価総額の大きいハイテク株の下落です。投資家は米国株から逃げ出したのではなく、AI関連株から他の業種へ資金を振り向けたのです。
相場の重荷となったのは、インフレの再加速です。10月14日(水)発表の9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.7%上昇し、8月の3.4%から伸びが拡大しました。食品とエネルギーを除くコア指数も2.6%と、市場予想を上回りました。15日(木)の生産者物価指数(PPI)も強く、追加利上げへの警戒が再燃しました。原油価格が1バレル100ドルを超えていることも、物価と企業の採算を考える上で気がかりです。
もっとも、米10年国債利回りは週末までには5.07%へ低下しました。これは「安全資産への逃避」です。金利が下がってもAI関連株が売られたというより、AI関連株が売られたので、安全資産である債券へ資金が向かったのです。
コアウィーブ発の信用不安が招いた市場の警戒感
先週(10月12日週)、AI関連株への不安を増幅させたのが、AI向けクラウドを手掛けるコアウィーブ[CRWV]の信用不安でした。
コアウィーブの社債(無担保のハイイールド債)は大きく売り込まれ、価格は額面1ドルあたり93セントから84セントへ下落し、利回りは一時15%まで上昇しました。これは、投資家が発行体の資金繰りや返済能力に強い懸念を抱く「ディストレス」と呼ばれる水準です。社債の急落は株式にも波及し、イーロン・マスク氏のXでの「Yikes(うわっ)」という反応も加わって、市場の警戒感が一段と強まりました。
これに対し、マイケル・イントレーターCEOは10月14日、社員向けのメモで「新しい形のテクノロジー企業を築く過程では、市場が誤解し、不合理に反応する時期がある」と反論しました。約1042億ドルの受注残高は債務の返済を十分に上回るとし、競合他社の上場延期や資金調達の難航が、コアウィーブへの見方にまで波及していると指摘しました。それでも株価と社債は下げ止まらず、翌15日(木)には2032年満期の無担保社債の利回りが16%を超えました。
焦点はAI需要の鈍化ではなく「巨額借入モデル」の限界
市場の反応と事業の実態は分けて見る必要があります。コアウィーブの資産の中核は、AIの学習や推論を担うGPUです。その需要の底堅さは、レンタル市場にも表れています。エヌビディア[NVDA]製のブラックウェル(B200)やホッパー(H100)は、スポットのレンタル価格が堅調に推移していると言います。
9月には、オラクル[ORCL]が、契約更新を迎えたGPUの計算能力を従来より20%高い価格で再契約できたと説明しました。対象となったGPUの多くは、導入から4年以上が経過したものです。新世代の半導体が登場した後も、旧世代のGPUがより高い価格で収益を生み続けていることは、AI向け計算需要の根強さを示しています。
今回の問題の焦点は、AI需要そのものではなく、巨額の借入で設備を増やすビジネスモデルの持続可能性にあると僕は考えています。需要が強くても、設備投資の支払いが先行し、売上からの資金回収に時間がかかれば、財務には負担がかかります。GPU需要が底堅いからといって、無担保社債の安全性まで保証されるわけではありません。それでも、個別企業の資金調達への不安を、直ちにAI需要全体の失速に結びつけるのは早計でしょう。
波及する半導体株安、それでも企業のAI投資は止まらない
コアウィーブへの懸念に加え、中国のメモリー企業CXMTとの競争への警戒も重なり、売りは半導体関連にも広がりました。
ただ、半導体製造装置のASMLホールディング[ASML]はAI向け需要の強さを示し、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]も積極的な設備投資を続けています。生産性向上を目指すAI投資は、高金利下でも止まっていません。
目先の不安はあっても、AIを使う企業や必要な計算処理が増える流れまで止まったと判断するのは早いような気がします。目先の株価だけで判断せず、実際の需要が伸びているか、そして、その需要を利益と現金収入につなげられるかを、今後の決算で確かめたいと思います。
米国経済は底堅くとも、好決算の銀行株に厳しい市場
先週(10月12日週)本格化した銀行決算からは、米国経済の底堅さも読み取れます。ジェイピー・モルガン・チェース[JPM]はカード決済額が前年同期比10%増え、投資銀行手数料も14%増加しました。消費者の支出と企業活動が続いていることを示す数字です。ゴールドマン・サックス[GS]も好決算を発表しました。銀行経営陣の説明では、消費者の返済状況が広範に悪化する兆候は、今のところ限られています。
それでも、決算発表後の銀行株の反応は厳しいものでした。シティグループ[C]、ウェルズ・ファーゴ[WFC]に加え、市場予想を上回ったモルガン・スタンレー[MS]も下落しました。バンク・オブ・アメリカ[BAC]は規制当局との和解費用が利益を圧迫した一方、貸出・預金の増加で利息収入は伸びています。銀行決算が示したのは、景気の急失速というより、事前の高い期待を満たす難しさです。これからの決算でも、過去の実績に加えて先行きの説明が株価を左右しそうです。
今週(10月19日週)の相場を占う決算ラッシュ、経済指標にも要注目
今週(10月19日週)は、S&P500構成企業の約70社が決算を発表する予定です。7~9月期の1株当たり利益は前年同期比で25%増えるとの予想があり、企業業績には引き続き期待が集まっています。その期待に応えられるか、そして経営陣が年末以降をどう見ているかが、相場の落ち着きを取り戻す手がかりになるでしょう。
注目は、21日(水)のメタ・プラットフォームズ[META]です。広告収入の伸びに加え、AIへの投資額と収益への貢献を確認したいところです。投資拡大を続けても、それを支える本業の利益が伸びていれば安心材料になります。一方、支出だけが増え、成果の説明が乏しければ警戒は残ります。メタの説明は、同社だけでなく、半導体やデータセンター関連株の見直しにもつながりそうです。
同じく21日に決算を発表するテスラ[TSLA]には、新型ロードスターの話題もあります。15日には、スペースXと開発した推進装置を使い、車体が空中で向きを変えて着地する実演を披露しました。技術力を印象づける発表ですが、マスク氏が示した生産開始は2028年です。収益への貢献には時間がかかるため、今回の決算では、自動車事業の利益率と現金を生み出す力、運転支援やロボタクシーの事業化の進捗を見極めたいと思います。
そのほか、20日(火)はGEエアロスペース[GE]とゼネラルモーターズ[GM]、21日はエーティー・アンド・ティー[T]とアイビーエム[IBM]、22日(木)はロッキード・マーチン[LMT]とプロクター・アンド・ギャンブル[PG]、23日(金)はアメリカン・エキスプレス[AXP]が発表予定です。航空機需要、自動車販売、企業のIT支出、日用品やカード消費を通じて、AI以外の米国経済の実像も確かめられます。
経済指標では、10月20日(火)の9月分の住宅着工件数、22日(木)の新規失業保険申請件数、23日(金)の製造業・サービス業の購買担当者景気指数(PMI)速報値に注目です。景気が底堅くても、物価圧力が強ければ金融引き締めへの不安は残ります。決算とともに、景気とインフレの両面を確認する週になります。
