8月の中国株は、7月とは正反対の展開となりました。7月に世界でもトップクラスの上昇率(+13.1%)を見せた香港ハンセン指数は、8月は前月末比1.2%安の25,566ポイントと足踏み。一方、7月に6.4%下落した上海総合指数は前月末比4.0%高の3,986ポイントまで回復し、心理的節目の4,000ポイントに王手をかけて月を終えました。なぜわずか1ヶ月で明暗が入れ替わったのでしょうか。

香港が足踏みした理由:決算への失望と「新株の供給ラッシュ」

第一の理由は、8月中・下旬の決算シーズンです。前回、「業績が期待に届かなければ株価は調整する可能性がある」と、今後の相場の試金石になると挙げましたが、結果はまさにその通りとなりました。今回の香港決算シーズンはポジティブサプライズよりネガティブサプライズが上回る、期待外れの内容となり、7月の上昇を牽引したプラットフォーマーへの買いの勢いが削がれました。中国AI大手のZ.AIが上期売上高で予想を大きく下回るなど、AIソフトウェア側の収益化の遅れを示す決算も心理を冷やしました。

第二に、需給面の逆風です。8月24日にはアリババ(09988)が7.1億株の香港追加売出を前週末終値比8.4%ディスカウントで実施し、AI・インフラ投資のため約800億香港ドル(約102億ドル)を調達。この希薄化懸念でハンセン指数は一日で約2%下落しました。テンセント(00700)にも売り圧力が波及したほか、Sheinの香港IPOのブックビルディングも重なり、市場への「新株の供給」が意識される展開となりました。7月に指数を押し上げた「割安さの再評価」が、今度は企業側の「高値での資金調達ラッシュ」を招いた形で、これ自体は相場の健全な代謝とも言えますが、短期的には上値を抑えました。 

第三に、米金利の再上昇です。ジャクソンホール会合でのウォーシュFRB議長のタカ派発言を受けて9月の米利上げ観測が高まると、ドルペッグ制を通じて香港の短期金利も上昇。金利に敏感な香港不動産株が売られ、指数の重石となりました。過去10年、9~10月はハンセン不動産指数にとって最も損失の多い2ヶ月という季節性も意識され始めています。

もっとも、下値も堅かった点は付記すべきでしょう。8月の安値は25,089ポイントと25,000ポイントの大台を守り、ボラティリティは約6ヶ月ぶりの低水準まで低下。13%上昇した翌月の下落率が1.2%で済んだことは、むしろ底堅さの証左とも言えます。

上海が反発した理由:半導体の復活と「悪材料=政策期待」の構図

上海の反発は、7月の下落要因がそのまま巻き戻された結果です。

まず、7月に指数を押し下げた電子・半導体セクターが復活しました。7月27日の長キン科技(CXMT)上場で超大型IPOに伴う換金売りの需給要因が消滅すると、8月13日にはSMICが4~6月期売上高で前年同期比36.1%増と好決算を発表、通富微電子や有研新材料がストップ高となるなど半導体関連が広く買われました。月末にはCXMT自身が、上期売上高が約10倍という驚異的な決算を発表し、世界的なDRAM供給制約が下期も続くとの見通しを示したことで、「中国メモリの躍進」が改めてテーマ化。7月に「AIハードウェアの重み」で下げた上海総合指数は、8月は同じ要因によって持ち上げられました。 

次に、皮肉なことですが、経済指標の悪化そのものが買い材料となりました。8月17日発表の7月主要指標は小売・投資・生産が軒並み市場予想を下回り、通年成長目標の達成に疑問符が付く内容でしたが、市場はこれを「政策発動が近づいた」と解釈。預金準備率引き下げや利下げへの期待が、悪い指標が出るたびに株価を支える「バッドニュース・イズ・グッドニュース」の構図が月を通じて機能しました。月末の8月31日には不動産向けの新たな資金調達ルールが発表されて本土不動産株が上昇するなど、政策の小出しも続いています。8月の製造業・サービス業PMIがともに節目の50を下回ったにもかかわらず月末に指数が上昇したのは、この政策期待の強さを物語っています。

9月の見通し:上海は「4,000ポイントと政策」、香港は「米FOMCと不動産」

上海については、目先の焦点は4,000ポイントの大台回復です。ファンダメンタルズは弱く、PMIは50割れ、追加刺激策も現時点では期待先行の段階ですが、半導体国産化という構造テーマと政策期待の二本柱は簡単には崩れません。10月の五中全会で次期5ヶ年計画「十五五」の議論が本格化することを考えると、9月は「政策待ちの高値もみ合い」が基本シナリオでしょう。リスクは、期待された利下げ・預金準備率引き下げが遅れた場合の失望売りです。

香港については、9月16日の米FOMCが最大の分岐点です。利上げが実施されればペッグ制を通じて香港金利に一段の上昇圧力がかかり、不動産株の季節的な弱さと重なって指数の重石となります。逆に見送りとなれば、金利面の逆風が一服し、割安なプラットフォーマーの見直し買いが再開しやすくなります。中期的には、2026年の香港上場中国企業の配当・自社株買いの合計が約1.2兆元に達する見込みであることや、南向資金の流入という需給の柱は不変であり、8月の調整はあくまで急騰後の踊り場と位置づけています。アリババの大型調達が象徴するように、企業側がAI投資の原資を確保し始めたことは、長い目で見れば香港市場の収益成長の種まきでもあります。

まとめると、8月の「上海高・香港安」は、7月の「AIハードウェア売り」の巻き戻しと、香港固有の決算・需給要因が重なった現象でした。9月は米FOMCと中国の政策発動タイミングという2つの「外生変数」が両市場の方向を決めることになりそうです。