外需の足踏みとコスト高。景気回復シナリオに生じた「狂い」

4月から5月上旬にかけて、米国・イランの停戦合意やトランプ米大統領の訪中・経済ディールへの期待から力強いリリーフラリーを見せた中国株・香港株ですが、6月に入り市場の空気は一変。アジア近隣市場(韓国、台湾、日本)や米国株が相次いで過去最高値を更新する強い地合いから完全に置き去りにされています。

4月30日終値から6月8日終値までの騰落率は、上海総合指数が-3.7%、香港ハンセン指数が-4.3%となっています。かつての「政策期待と外需復活」という強気の相場見通しは、足元のマクロデータと政策的引き締めという「現実」によって修正を迫られています。

結局、トランプ米大統領の訪中では実質的に経済状況を上向かせるような大きなディールはありませんでした。また、4月に中国景気後退の悲観論を打ち消したはずの製造業PMIは、5月は節目の50.0ちょうどに着地し、2ヶ月連続の低下となりました。不動産不況の長期化や国内の消費マインド低迷により、中国の製造業は生産能力の吸収を海外市場(外需)に強く依存せざるを得ない構造にあります。その生命線である輸出受注が2ヶ月ぶりに50を割り込んだ事実は、景気の自律回復シナリオに狂いが生じていることを示唆しています。

さらに、行き詰まる米・イラン交渉を背景としたエネルギーコストの高止まりが、石油化学など上流産業を中心に製造業の利益率を圧迫しています。中国はエネルギーの輸入国であるため、原油価格の上昇は直接、経済コストの増加につながります。

ともあれ、4月に期待された「政策期待と外需復活」は、現在「外需の足踏みとコスト高」という逆風にすり替わってしまっています。

世界的な引き締めと中国本土の規制強化

香港市場の株価の重石となっているもう一つの要因が、資金流動性のタイト化です。香港は「中国資産のリスク」と「世界的な流動性リスク」を同時に背負う特異な市場ですが、現在はその両面から圧力がかかっています。

6月中旬にはECB(欧州中央銀行)や日本銀行の利上げ観測が浮上しており、米国も年内の利上げの可能性が高まっているところです。さらに、米ナスダックでのスペースXをはじめとする超大型IPOや、メガテックがAIデータセンター投資資金向けに計画している増資や債券にグローバル資金が吸い寄せられており、香港市場からの資金流出を加速させています。

一方、国務院が発表した「対外投資規定(第837号令)」は、本土投資家による香港・マカオなどへの対外投資に厳格な審査を課すものです。これに先立ち、香港金融管理局も銀行に対して、本土顧客の口座開設審査の厳格化を要請しました。

本土資金(南下資金)への依存度が高かった不動産、保険、証券、マカオカジノなどのセクターには、当面強い押し下げ圧力がかかるリスクがあります。この背景にはキャピタルフライト(資本逃避)の阻止と「人民元」の防衛、「地下銀行」や不透明な資金ルートの遮断、国内景気を支えるための中国国内への資金の強制還流といった狙いがあります。

米中ハイテク株のバリュエーション格差に注目、今は優良銘柄をじっくり狙う時

テクニカル面では、香港ハンセン指数は2026年の年初来安値である24,203ポイントを再び試しにいっている状況です。ハンセンテック指数も年初来安値を試す展開で、これを下回ると、もう一段の大きな調整が懸念されます。

しかし、それでも下がったところは優良銘柄の買いチャンスと考えます。テンセント(00700)などの中国大型テック企業の業績は減速してはいますが、決して悲観的なものではありません。米中のハイテク株に大きなバリュエーション格差が存在する今、中国独自のAI普及ニュース(先端AIの開発やアプリケーションの普及、提携発表など)がトリガーとなり、出遅れた中国のハイテク株市場へ一気に資金が還流するシナリオは残されていると思います。

急激な株価基調の転換には何か大きなきっかけが必要と思われます。そのタイミングを待ちながら今は落ち着いて、市場全体の調整とともに下がってきた優良銘柄をじっくりと狙っていく方針が良いのではないかと考えます。