香港ハンセン指数は典型的な下落トレンド

香港ハンセン指数の下落が止まりません。6月8日終値から7月6日終値までの騰落率を比べると、上海総合指数が+2.1%だったのに対し、香港ハンセン指数は-4.2%となっています。テクニカル面でも香港ハンセン指数は50日・100日・200日移動平均線のすべてを大きく下回り、主要な移動平均線が上値抵抗として頭上に覆いかぶさる、典型的な下落トレンドの形状です。

一方、同じ中国株でも上海総合指数の景色はまったく異なります。直近値(7月6日終値)は4,041.238ポイントと、5月14日の高値4,258.863ポイントからの下落率は約5%にとどまっています。200日移動平均線の上をなお維持しており、あくまで高値圏でのもみ合いの範囲内です。年初来で見ても上海総合指数はプラス圏を保っており、マイナスに沈む香港株とは対照的な動きとなっています。同じ「中国株」でありながら、なぜここまで明暗が分かれているのでしょうか。

原油価格の重荷とAI関連への資金集中

まず、中国株全体に共通する要因ですが、米・イラン戦争を背景としたエネルギーコストの高止まりが挙げられます。中国はエネルギーの輸入国ですから、原油高はそのまま経済全体のコスト増に直結し、石油化学など川上の素材産業を中心に製造業の利益率を圧迫しています。4月頃に膨らんだ「政策への期待と外需の回復」というシナリオは、足元では「外需の足踏みとコスト高」という逆風に入れ替わってしまいました。

香港株の下落要因は、資金流動性のタイト化です。香港は「中国資産のリスク」と「世界的な流動性のリスク」を二重に背負う特異なマーケットですが、いままさにその両面から圧力を受けています。6月中旬にはECB(欧州中央銀行)や日本銀行の利上げ観測が浮上し、米国でも年内利上げの可能性が意識され始めました。加えて、米ナスダックでのスペースX[SPCX]をはじめとする世界的な超大型IPOや、メガテック各社がAIデータセンター投資の原資として計画する増資・社債発行にグローバルマネーが吸い寄せられており、香港市場からの資金流出に拍車をかけています。

そして何より大きいのが、市場の「顔ぶれ」の違いです。SKハイニックスやサムスン電子を擁する韓国、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]を擁する台湾、半導体製造装置企業群やキオクシアホールディングス(285A)を持つ日本と比べると、香港市場にはAI・半導体関連の上場企業が非常に少ないのが実情です。

香港にはテンセント・ホールディングス(00700)、アリババ・グループ・ホールディング(09988)、シャオミ(小米集団)(01810)、バイドゥ(百度)(09888)といった中国版GAFAMとも言うべき企業が揃っていますが、これらはAIデータセンターを「作る側・使う側」、つまりAI投資でお金を払う側の企業です。

今、まさに世界の株価を牽引する、その支出を受け取って儲かる「半導体を作る側」の企業が香港には乏しい。世界の資金がAIハードウエアに集中する局面では、この構成の差がそのまま市場のパフォーマンスの差になって表れているわけです。

本土の規制強化も重石

さらに、中国本土側の規制強化も香港株の需給に影を落としています。国務院が公布した「対外投資規定(第837号令)」は、本土投資家による香港・マカオなどへの対外投資に厳格な審査を課すものです。これに先立って香港金融管理局も、本土顧客の口座開設審査を厳しくするよう銀行に要請しています。本土マネー(南下資金)への依存度が高い不動産、保険、証券、マカオカジノといったセクターには、当面、需給面から強い押し下げ圧力がかかるリスクがあります。

こうした一連の規制の背景には、キャピタルフライト(資本逃避)を食い止めて人民元を防衛すること、「地下銀行」など不透明な資金ルートを遮断すること、そして国内景気を支えるために資金を中国国内へ還流させること、といった当局の狙いがあると考えられます。裏を返せば、資金の国外流出を防ぐこの政策は、外資主導の香港市場には逆風となる一方、国内資金で動く本土市場にとっては下支え要因として働いている面もあり、これも冒頭の「明暗」を生む一因と言えるでしょう。

引き続き、優良銘柄をていねいに狙っていく方針

足元では一旦反発している香港ハンセン指数ですが、2026年の年初来安値である22,518ポイントを割り込むようなことがあれば、もう一段の大きな調整が警戒される局面に入ります。半導体関連企業への資金集中がこのまま続くのであれば、そうした展開も十分あり得ると思います。

ただし、半導体への資金集中は、高騰するメモリ半導体の価格に世界中のメーカーが耐えなければならないことも意味します。果たしてそのような状況を、実体経済や金融市場がどこまで許容できるのか、という問いにもつながってきます。仮にそうした揺り戻しで香港株が大きく下がる場面があれば、それはむしろ優良銘柄の買いチャンスになり得ると考えています。

テンセント(00700)など中国大型テック企業の業績は減速こそしていますが、決して悲観すべき内容ではありません。米中のハイテク株の間には依然として大きなバリュエーション格差が存在しており、出遅れた中国ハイテク株へ資金が一気に還流するシナリオは、なお残されていると思います。

もっとも、株価基調が急転換するには何か大きなきっかけが必要でしょう。そのタイミングをじっくりと待ちながら、今は焦らず、優良銘柄が市場全体の調整とともに下がってきたところをていねいに拾っていく方針が、引き続き良いのではないかと考えます。