メガキャップ一辺倒から「物色の裾野の広がり」へ
先週(6月22日週)の米国株市場は、指数ベースで見るとやや厳しい一週間でした。S&P500は週間で1.95%下落、ナスダック100は4.24%下落して終えました。一方で、ダウ平均は小幅ながら上昇しています。では、S&P500とナスダックの足を引っ張ったのは何だったのか。
答えは、大型テクノロジー株です。特に、アップル[AAPL]やマイクロソフト[MSFT]のような、時価総額の大きい銘柄が重荷になりました。ここで大事なのは、S&P500が時価総額加重型の指数であるという点です。時価総額の大きい銘柄ほど、指数全体への影響が大きくなります。そのため、アップル、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ[META]、エヌビディア[NVDA]のような大型株が下落すると、指数全体も下がりやすくなります。
一方で、均等加重のS&P500を見ると、景色はかなり違います。均等加重のS&P500では、巨大企業も、それ以外の構成銘柄も、同じ重みで計算されます。つまり、特定の超大型株だけに左右されにくい指数なのです。この均等加重S&P500が1.58%上昇し、通常のS&P500を大きくアウトパフォームしました。週間ベースでは、過去20年で2番目に大きなアウトパフォームとなり、パンデミック以降では最大級の差になりました。
これは何を意味するのでしょうか。一言で言えば、マーケット全体が崩れているわけではないということです。超大型株は売られました。しかし、S&P500の構成銘柄の中でも、超大型株以外には買われている銘柄が多くありました。ヘルスケア、資本財、小型株などには、上昇している銘柄も目立ちます。小型株も強く、ラッセル2000は先週(6月22日週)に史上最高値を更新しました。
つまり、今の相場は、これまでのようなメガキャップ一辺倒の相場ではなく、物色の裾野が少しずつ広がり始めているということです。利益モメンタムも、マグニフィセント・セブンだけではなく、S&P500の残り493銘柄や中小型株にも広がりつつあります。
大型テクノロジー主導から「選別的な相場」へ移行
これは、相場の土台としては前向きな材料です。ただし、同時に注意すべき点もあります。それは、勝ち組と負け組の差が大きくなっているということです。大型テクノロジー株の中でも、業績、バリュエーション、AI投資への評価によって、株価の反応は大きく分かれています。
また、アルファベット[GOOGL]がダウ平均に採用され、ベライゾン・コミュニケーションズ[VZ]と入れ替わることも、指数の中身が変化していることを象徴しています。
したがって、先週の相場を単純に「米国株全体が弱い」と判断するのは、少し実体と相違すると思います。正確には、指数は大型テクノロジー株の下落に引っ張られたものの、相場の内部では物色の広がりが見られたということです。
問題は、市場全体ではありません。問題は、これまで相場をけん引してきた大型テクノロジー株に投資家の期待が集中しすぎていたこと。そして、その大型テクノロジー株の一部で、利益確定売りやバリュエーション調整が出ていることです。その意味で、リスクオフというよりも、大型テクノロジー主導の相場から、より選別的な相場へ移行している局面とみるべきでしょう。
マグニフィセント・セブンに割安感も、問われる「AI投資のリターン」
マグニフィセント・セブンの一部、特にメタ・プラットフォームズやマイクロソフトには大きな売りが出ています。いや、売りが出たと言った方が正確かもしれません。両社は高値から約30%下落し、52週安値近辺で取引されました。
その結果、バリュエーションには一部で魅力も出てきました。マイクロソフトは業績の約20倍、メタ・プラットフォームズは約15倍、エヌビディアも約20倍程度まで低下しています。ただし、投資家が懸念しているのは、単に株価が下がったことではありません。
本質的な懸念は、これらの企業が今後、AI投資のためにどれだけ支出を増やすのか。そして、その投資が本当に利益として返ってくるのか、という点です。特に、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、アルファベットでは、設備投資、つまりCapExが大きな議論になっています。
マイクロンの好決算が浮き彫りにする「AI投資コストの上昇」
そこに、非常に重要な材料が出ました。マイクロン・テクノロジー[MU]の決算です。
マイクロン・テクノロジーは非常に強い決算を発表しました。調整後EPSは25.11ドル、売上高は415億ドルとなり、市場予想を大きく上回りました。粗利益率は約85%、営業利益率は約81%と、メモリー企業としては異例の高水準です。さらに会社側のガイダンスも強く、翌日の株価は+16%上昇、最高値を更新しました。
今回の決算発表はマイクロン・テクノロジーにとっては非常に素晴らしいものでした。しかし、他の大型テクノロジー企業にとっては、必ずしも良い話だけではありません。なぜなら、AI投資に必要なチップやメモリーを確保するために、より高い価格を支払わなければならないからです。
つまり、マイクロン・テクノロジーの好決算は、AI需要が本物であることを示す一方で、AI投資のコストが上がっていることも示しました。ここが今のAI相場の非常に重要なポイントです。
これまでのAI相場は、「AI需要が伸びる」「エヌビディアが儲かる」「大型クラウド企業も成長する」という、比較的シンプルな構図でした。しかし、ここからは、市場は、誰がAI投資で儲かるのかだけでなく、誰がそのコストを負担するのかを見る段階に入っています。
AI投資のボトルネックはGPUだけではありません。高帯域幅メモリー、いわゆるHBM、半導体製造装置、電力、冷却、データセンター設備など、必要なものはどんどん広がっています。その意味で、マイクロン・テクノロジーの好決算は、AIサプライチェーンの利益配分が変わってきていることを示しています。
アップルが値上げ発表、AIコストは最終需要に転嫁できるか?
一方で、その裏側にあるのがアップルの値上げです。アップルは、ノートパソコン、iPhone、iPadなどでメモリーチップを大量に使う企業です。これまでは、部品コストが上がっても、ある程度は自社で吸収してきました。
しかし、6月25日(木)、アップルは一部製品の値上げを発表しました。Macのノートパソコンの一部では、平均して約20%の値上げとなり、主要モデルでは約200ドル上がって、価格が1,200ドル程度になるとされています。
これは、アップルの価格決定力を示す一方で、部品コストの上昇が最終製品に波及し始めたことを意味します。市場が嫌気したのは、値上げそのものというより、半導体メーカーや部品サプライヤーが儲かる一方で、それを買う側のマージンが圧迫される、という構図です。
アップルには強いブランド力があります。顧客層も比較的裕福で、アップル製品へのロイヤルティも非常に強い。iPhone、Mac、iPad、Apple Watchが一体化したエコシステムから離れにくいという面もあります。
ただ、それでも問題はあります。どの価格水準で、消費者が「今回は買い替えなくてもいい」と判断するのか。ここが大きな試金石になります。特に重要なのは、新型iPhone18の発表時期となる9月です。
9月に消費者がそれでも新しいiPhoneを欲しがるのか。これは、アップルだけでなく、AI投資コストが最終需要にどこまで転嫁できるのかを見るうえでも、非常に重要なテストになります。
AI相場の終わりではなく、機械的なリバランスによる売り
AI関連株にけん引され、S&P500やナスダック100はここまで非常に大きく上がっていました。そのため、少しの不安材料でも利益確定売りが出やすい地合いだったと言えます。
ただし、ここで重要なのは、AI相場そのものが崩れたわけではないという点です。大きく上がった銘柄に利益確定が出るのは、自然な動きです。相場の上昇トレンドが終わったというより、これまで急ピッチで上がってきた分、いったんポジション調整が入っていると考えています。
もうひとつ、このところのマーケットの軟調さは6月末の需給も関係しているでしょう。今は月末、四半期末、上半期末が重なるタイミングです。年金基金や機関投資家が、あらかじめ決めた資産配分に戻すために、株式を一部売って債券を買うような動きが出やすい。つまり、アセットアロケーションの動きが起きています。
ですから、ここで株価が少し下がっても、それはAI相場の終わり、また、景気の悪化を見ているのではなく、機械的なリバランスによる売りとして見るべきだと考えています。
株式市場と債券市場の「見方のズレ」とマクロ環境
債券市場も無視できません。2年債利回りは4.15%近辺まで上昇し、10年債利回りは4.39%程度となりました。2年債と10年債のスプレッドは0.25%前後まで縮小しています。これは、短期的には利上げ警戒、長期的には成長鈍化懸念を映している可能性があります。
株式市場は企業業績の強さを見ています。一方で、債券市場は、景気減速とFRB(米連邦準備制度理事会)の引き締めが同時に来るリスクを警戒しています。この株式市場と債券市場の見方のズレも、来週以降のボラティリティ要因になります。
マクロ面では、原油価格の下落が一定の支えです。中東情勢への警戒は残るものの、原油価格は戦争前の水準近くまで低下し、ブレント原油は70ドル近くまで下落しています。
これにより、市場では「5月がインフレのピークだった可能性」も意識されています。ただし、5月のPCE(米個人消費支出)インフレ率は前年比4.1%、コアPCEも前年比3.4%と、FRBの2%目標からはまだ距離があります。原油安は時間差でインフレを押し下げますが、サービス価格や住宅関連インフレが粘着的であれば、FRBはすぐには安心できません。
今週(6月29日週)の注目ポイントは雇用統計などの重要経済指標とナイキ[NKE]の決算
今週(6月29日週)は、米国市場が7月4日の祝日を控えた短縮週になります。ただし、材料は非常に多くなります。注目は、消費者信頼感、JOLTS求人件数、ADP雇用統計、ISM製造業指数、そして雇用統計です。
市場が最も見たいのは3点です。第一に、景気が急失速していないか。第二に、インフレが5月をピークに鈍化しているか。第三に、雇用が強すぎてFRBを再びタカ派に戻さないか。
加えて、ナイキ[NKE]の決算も注目です。消費需要、関税、ドル高、原材料コストについて、会社側がどのようなコメントを出すのかが見られます。7月中旬からは第2四半期決算シーズンが本格化します。その前に、企業の事前ガイダンスやコスト見通しにも注意が必要です。
