先週(6月1日週)の動き:米雇用統計のサプライズで年初来の上昇分をほぼ失ったNY金、国内金価格も下値追い

NY金、FRB利上げ観測で下値追い

先週(6月1日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)の週足は、大幅反落となった。6月5日の終値は前日比139.70ドル安の4,365.3ドルと約2ヶ月(4月2日、前日比133.4ドル安)ぶりの大幅安となった。終値ベースでは年初の1月2日(4,329.6ドル)以来の安値水準となり、年初来プラスは維持しているものの、上昇分をほぼ失うことになった。週足でも前週末比227.7ドル(4.96%)安の大幅反落となった。

イラン戦争の長期化による原油価格の高止まりでインフレ懸念が持続し、FRB(米連邦準備制度理事会)の次の一手は利上げとの見方が台頭し、ここまでNY金は弱含みに推移してきた。そこに6月5日に発表された5月の米雇用統計が予想を大きく超える内容となったことで、この見方はマクロ経済面からも後押しされることになった。金利先物市場で織り込まれている12月のFRBの利上げ確率(Fedウォッチ)は72%まで上昇した。なお雇用統計発表前は40%台だった。

協議のこう着が続くイラン戦争

イラン情勢を巡っては、トランプ米大統領が自身のSNSで繰り返した、協議を巡る楽観的な発言や、イスラエルと親イラン武装勢力ヒズボラへの異例の介入など、泥縄式で迷走気味とも表現できる対応に市場が振り回される状況が続いた。米国とイランの和平交渉は実質的に膠着状態にあるとみられる。

週半ばには、双方が自己防衛を目的とする両国間の交戦が続いたほか、イランによるバーレーンの米海軍基地やクウェート国際空港の旅客ターミナルへの攻撃も発生し、米軍が対抗してイランのレーダー基地を攻撃するなど緊張が激化する場面もみられた。イラン戦争の長期化による原油価格の高止まりでインフレ懸念が持続し、FRBの次の一手は利上げとの見方が台頭し、週を通してNY金は弱含みに推移した。

堅調な結果が続いた米経済指標

さらに先週(6月1日週)は月初でもあり、労働市場のデータを中心に重要な米経済指標(4月JOLTS求人件数、5月ADP全米民間雇用報告、5月ISM製造業・非製造業総合景況指数など)の発表が週を通じて続いた。いずれも米国経済の堅調さが目立ち、マクロ経済面からもFRBの金利水準据え置きから、その後の利上げへの道筋が意識されることになった。

5月米雇用統計のサプライズ

特に週末6月5日に発表された注目の5月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が17万2000人増と市場予想(8万5000人増、ロイター調べ)を大きく上回ったほか、過去2ヶ月分も上方修正されるサプライズとなった。

4月分は当初の11万5000人増から17万9000人増に、3月分も18万5000人増から21万4000人増に上方修正され、3、4月の合計で9万3000人上振れした。3ヶ月間の雇用増は月平均で18万8000人となり、前年の同時期と比べ約3倍の規模となる。失業率は4.3%と3ヶ月連続で横ばいとなった。

タカ派に傾きそうなFRB

イラン戦争が長期化する中でも、米労働市場は2025年末にかけて懸念されていた悪化傾向は見られず、むしろエネルギーコストの上昇という直接的なインフレ懸念に加え、経済の過熱という側面にも配慮する必要があることを今回の雇用統計は示している。

クリーブランド地区連銀のハマック総裁は今回の雇用統計について、米国の労働市場は完全雇用に近い状態にあることが示されたとして、高止まりしているインフレを抑制するためにFRBは近く利上げを実施する必要に迫られる可能性があると述べている。なおハマック総裁は2026年のFOMC(連邦公開市場委員会)で投票権を持っている。

国内金価格も下値追いの様相

先週(6月1日週)は国内金価格もNY金の値動きを映して、再び下値追いの様相を呈した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の6月5日の終値は2万3513円と1週間ぶりの安値で終了した。週足は前週末比274円(1.15%)安の4週続落となった。

注意したいのは、前述したように6月5日発表の米雇用統計を受けて大きく水準を切り下げたNY金の下落は、この価格には反映されていないことである。JPX金の6月5日夜間取引では一時2万2850円まで売られ、3月23日以来の2万3000円割れの安値を付けている。なお3月23日の取引時間中の安値2万2073円、終値2万2236円はいずれも年初来安値となっている。

今週(6月8日週)の動き:下値に中央銀行など中長期投資家の買い、上昇のマクロトレンドに変化なし

長期の下値支持線(200日移動平均線)割れのNY金

(実施のタイミングは現時点では判断できないが)FRBの次の政策変更は利上げになるとの見方が強まる中で、前述のように6月5日のNY金は売りが膨らみ、下げ幅も大きくなった。NY金の取組(オープンインタレスト=未決済建玉)は、5月中旬以降減少傾向にあり、特にこの3週間ほどは縮小が加速している。その結果、価格変動が大きくなっている。

さらに6月5日の終値(4,365.3ドル)はテクニカル上の長期トレンドの指標として注目される200日移動平均線(4,419.4ドル)を割り込むことになった。これにより、さらなる下落リスクが意識される可能性がある。ただし、これはAIアルゴリズムに従って売買を繰り返しているファンドに当てはまることだ。

一方で、近年の金市場で中長期的視点での現物取得の象徴でもある中央銀行や、それに準ずる新興国の個人投資家の売買行動は、そうした目先のテクニカル指標には左右されないことから、下値を支える要因になりそうだ。

中国人民銀行は2026年5月まで19ヶ月連続で金購入

この点に関連し、6月7日に中国人民銀行が発表した5月末の外貨準備の内訳によると、金の保有量は前月末比32万オンス(約10トン)増えていた。それまで毎月1トン程度の増加が続いていたが、2026年3月に約5トン増え、さらに4月に約8トン増と拡大傾向が見られ注目されていた。

国際金価格の低迷が続く中で、今回の約10トン増は中央銀行の買いの底堅さを示すものと言える。中国人民銀行の金の持ち分は、これにより19ヶ月連続で増加したことになる。データが取れる1999年12月以降では、これまで18ヶ月連続が最長となっており、今回5月まででそれを抜き過去最長となった。

金(ゴールド)上昇のマクロトレンドに変化なし

今週(6月8日週)注目されるのが、6月10日に発表される5月の米消費者物価指数(CPI)である。市場では、年率ベースで約4.3%(ブルームバーグなど)の上昇が見込まれている。仮にそうなれば2023年以来で最大の伸びとなる見通しで、6月11日に発表される同米生産者物価指数(PPI)の結果と合わせてインフレ加速が示されれば、FRB当局者がさらにタカ派に傾き、FOMC声明からいわゆる緩和バイアスを削除するとの見方がさらに強まりそうだ。

NY金は終値ベースで4,341.1ドルを下回れば、年初来で初めてマイナスに転じることになる。FRBによる利上げ観測の高まりが目立った売り要因になっているのだが、今回、複数年にわたる金(ゴールド)価格上昇の大きな背景が、一言で表現するならば「米ドル信認の低下」というマクロトレンドにあることから、中長期視点で足元の安値水準は買い場の提供と捉えている。