「期待の差」に着目する銘柄選別戦略
イラン情勢を巡る緊張の高まりを受け、株価は大きく変動しています。日々伝わるトランプ米大統領の発言やイランの抗戦に関するニュースに振り回されがちですが、こうした局面こそ、株価の中長期的な方向を決める企業業績の動向を冷静に見極めることが重要です。
リスク回避の動きから株式の保有ポジションが縮小し、需給要因で一時的に株価が下押しされる場面もありますが、業績が堅調であれば、いずれ株価はそれに追随していきます。3月期決算企業にとっては年度末を迎え、さらに4月中旬から本格化する決算発表を控え、企業業績の方向性が意識されやすい時期にあります。
そこで今回は、会社側が公表している今年度の利益予想(会社計画)と、企業アナリストによる利益予想(コンセンサス)の乖離に着目した銘柄選別戦略を紹介します。アナリスト予想が会社計画を上回っているということは、市場参加者の一部であるアナリストが企業の業績を会社側の想定以上に評価していることを意味し、今後の上方修正や株価上昇余地を示唆する可能性があると考えられます。こうした期待の差に着目することで、株価上昇につながりやすい銘柄を抽出できる可能性があります。
コンセンサスと会社計画の乖離とは何か?
まずは「アナリストコンセンサスの会社計画からの乖離」を説明します。
会社側が公表している今年度の利益予想は「会社計画」と呼ばれます。これは、単なる将来の見通しではなく、経営陣が前提とする事業環境や戦略を織り込んだうえで、「この水準の利益を達成する」という意思を伴った数値となります。実際、社内では予算や業績評価の基準としても用いられることが多く、市場に対しては一種のガイダンスとして機能しています。そのため、会社計画は過度に強気な数字を示すというよりも、一定の確度で達成可能と考えられる、やや保守的な水準で設定される傾向があります。
一方で、アナリストによる予想は、足元の業績動向やマクロ環境、企業との対話などを踏まえ、将来の業績を先読みした数値となります。アナリストは証券会社や調査機関に複数存在するため、それらの見通しの平均値はアナリストコンセンサスと呼ばれます。
そして、アナリストコンセンサスの会社計画からの乖離(率)は下式で計算されます。計算対象とする利益は営業利益ですが、分母は営業利益の会社計画に絶対値を付けています。つまり会社計画が赤字(マイナス)の場合には符号をひっくり返してプラスにします。分子の会社計画は赤字でもそのままです。これは、分母の符号によって乖離率の符号が逆転してしまうことを防ぎ、アナリスト予想が会社計画を上回っているか下回っているかを一貫した基準で評価するためです。
乖離率だけでは不十分、モメンタムの重要性とは?
乖離が株価に織り込まれていく過程を捉えやすい4月~6月で検証
実際の検証は次のように行っています。検証期間は2017年から2025年までとし、各年の4月から6月の3ヶ月間を対象としました。3月は年度末にあたり、3月期決算企業の本決算発表を控え、アナリストコンセンサスと会社計画の乖離が市場で意識されやすい局面です。
さらに、4月中旬から始まる決算発表では、新たに翌期(例えば2027年3月期)の会社計画が公表されるとともに、アナリストコンセンサスとの比較が注目されます。こうしたタイミングでは、両者の乖離が株価に織り込まれていく過程を捉えやすいと考えられます。
そこで、本分析では検証期間を毎年4月から6月に絞り、アナリストコンセンサスと会社計画の乖離を用いた銘柄選択の有効性を検証しました。
対象銘柄の母集団は、一定の市場流動性を考慮してTOPIX500構成銘柄とし、そのうち3月期決算企業に限定しています。ただし、銀行業、証券・商品先物取引業、保険業、その他金融業といった金融セクターは除外しています。金融業では営業利益が一般事業会社のように本業の収益力を示す指標として用いにくく、他業種と同一の基準で比較することが難しいためです。加えて、利益予想の比較をシンプルにするため、アナリストコンセンサスがプラスの銘柄のみに絞っています。
グラフ化から見えてくるものは?
具体的な検証手順は次の通りです。毎年3月末から5月末にかけて、会社計画とアナリストコンセンサスの乖離率を算出し、その乖離率が10%以上の銘柄を抽出します。すなわち、「アナリストコンセンサスが会社計画を大幅に上回っている銘柄」です。
バックテストでは、毎年4月から6月について、前月末時点で公表されている情報を用いて上記の条件に該当する銘柄を抽出し、それらの銘柄に等金額投資した場合の翌月リターンを算出します。例えば4月の投資では3月末時点の情報を基に銘柄を選定し、その4月のリターンを計測します。同様に、5月は4月末時点、6月は5月末時点の情報を用いて銘柄を選定します。
こうして得られた4月から6月までの月次リターンの平均に対して、同じ月に母集団全体に等金額投資した場合の平均リターンを差し引き、同様に4月から6月の平均を取ることで算出したものが超過リターンです。超過リターンを用いるのは、市場全体の上昇・下落といった外部要因の影響を除き、銘柄選択そのものの効果を純粋に評価するためです。
なお、超過リターンの数値は、月次リターンを12倍して年率換算しています。図表1は、各年の4月から6月における月次リターンの平均について、年ごとの超過リターンをグラフ化したものです。
注2:母数はTOPIX500構成銘柄(但し、金融業として「銀行業」「証券、商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」に該当する銘柄は除く)の3月期決算企業を対象
注3:「アナリストコンセンサスが会社計画を大きく上回る銘柄」とは、アナリストコンセンサスによる今期営業利益予想が会社計画の今期営業利益を上回り、その差を会社計画で割った乖離率が10%以上となっている銘柄を指す
注4:「アナリストコンセンサスが会社計画を大きく上回り、その度合いが高まっている銘柄」とは、注3で定義した乖離率について、直近の乖離率が3カ月前の乖離率を上回っている銘柄を指す
注5: 毎年4月から6月の各月について、注3および注4の条件に該当する銘柄に等金額で投資した場合の翌月リターンを算出し、その平均を求めた。さらに、同期間にユニバース全体に等金額で投資した場合のリターンを差し引くことで超過リターンを算出している。なお、いずれの数値も月次リターンを12倍して年率換算している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
「乖離の拡大(モメンタム)」に着目するべき理由
結果を見ると、「アナリストコンセンサスが会社計画を大幅に上回っている銘柄」のパフォーマンスは必ずしも良好とは言えませんでした。図表1の薄いブルーの棒グラフがそれに該当しますが、9年間のうちプラスとなった年は5年にとどまっています。
一方で、これに「その度合いが高まっている」という条件を加えると、銘柄選択効果は大きく改善します。図表1の濃いブルーの棒グラフでは、9年間のうち7年がプラスとなり、勝率は78%に達しています。こうした差が生じる要因を理解するため、「その度合いが高まっている」という条件の内容を図表2で確認します。
ここでは、足元を2月と仮定します。この時点における今期(例えば2025年)の会社計画とアナリストコンセンサスの差が先ほど定義した乖離率であり、図表2の紫の矢印で示しています。これに対して、「その度合いが高まっているかどうか」を判断するためには、3ヶ月前である2025年11月末時点にさかのぼり、同様に乖離率を算出します(図表2の茶色の矢印)。
そして、11月末時点の乖離率と比較して、足元である2月の乖離率が上昇しているかどうか、すなわちアナリストコンセンサスが会社計画を上回る度合いが強まっているかを確認します。言い換えれば、コンセンサスの水準そのものではなく、その変化、すなわち「乖離の拡大(モメンタム)」に着目している点が本戦略の特徴です。こうしたモメンタムに着目することで、より高い銘柄選択効果が得られる可能性が示唆されます。
「その度合いが強まっている」という条件が意味すること
では、なぜ「アナリストコンセンサスが会社計画を大幅に上回っている」条件での銘柄選別は株式パフォーマンスが良くない一方で、「その度合いが強まっている」という条件を加えると効果が高まるのでしょうか。
まず、アナリストコンセンサスは市場参加者の間で広く共有されている情報であり、その水準自体は既に株価に織り込まれている可能性があります。そのため、コンセンサスが会社計画を上回っているという事実だけでは、新たな株価上昇の材料としては十分ではない場合があります。
一方で、「その度合いが強まっている」ということは、アナリストが業績見通しをさらに引き上げている局面を捉えていることを意味します。すなわち、コンセンサスが会社計画を上回っている状態に加えて、なお業績に対する評価が上方に修正され続けている、いわば期待のモメンタムが発生している状況です。
このような局面では、企業業績に対する見方が継続的に改善しており、株価もそれに追随しやすくなります。このような特徴を踏まえると、実際の銘柄選別においては、「アナリストコンセンサスが会社計画を大幅に上回っている」という水準だけで判断するのではなく、「その度合いが高まっている」という変化の要素も組み合わせて評価することが重要であると考えられます。
戦略が効かない局面と足元環境、2019年と2021年のケースを振り返る
ところで、図表2を見ると本戦略は9年間のうち7年間で超過リターンがプラスとなっており、有効性が確認できますが、2019年と2021年は市場平均に対して劣後する結果となりました。
まず2019年については、米中貿易摩擦の激化や半導体サイクルの悪化、中国経済の減速などを背景に、景気の減速感が強まった局面でした。我が国においても内閣府が公表する景気基準日付では、2018年10月をピークとして景気後退局面に入ったとされています。このような局面では、企業業績の先行きに対する不確実性が高まり、アナリストによる利益予想の確信度も低下しやすくなります。その結果、業績見通しの差異に基づく銘柄選別の効果が発揮されにくかったと考えられます。
次に2021年については、新型コロナ禍からの景気・業績回復期待が一巡し、いわゆる「織り込み済み」の状態にあったと考えられます。実際、業績の回復自体は進んでいたものの、その期待の多くは既に株価に反映されており、アナリストの利益予想の変化が株価に結びつきにくい局面でした。加えて、金利上昇への警戒などを背景としたバリュエーション調整も重なり、業績モメンタムに基づく戦略が機能しにくい環境であったとみられます。
このように、景気の転換点に近い局面や、業績回復期待が既に株価に織り込まれている局面では、アナリスト予想の変化に対する市場の反応が鈍くなり、本戦略の有効性が低下する傾向がある点には留意が必要です。
もっとも、足元の環境はこれらの局面とは異なります。企業業績は引き続き拡大基調にあり、加えて市場では業績見通しの変化に対する感応度も維持されています。したがって、アナリストコンセンサスと会社計画の乖離、さらにはその変化に着目した銘柄選別は、依然として有効に機能する余地があると考えられます。
銘柄スクリーニング結果、エムスリー(2413)など銘柄5選
そこで、マネックス証券のウェブサイトで提供されている「銘柄スカウター」の10年スクリーニング機能を用いて、筆者が銘柄を抽出しました。
対象は金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」)を除く企業とし、流動性を考慮して東証プライム市場に上場する時価総額2,000億円以上の3月期決算企業に限定しています。また、業績面で一定の健全性を確保するため、実績ROAが3.00%以上、かつ今期予想営業増益率が2%以上の企業としました。
スクリーニング条件は以下の通りです。
(1)営業利益のアナリストコンセンサスが会社計画を大幅に上回っている:乖離率が10%以上
(2)乖離率の度合いが強まっている:3カ月前の乖離率に比べて直近の乖離率が拡大している
結果は図表3に示しています。投資の参考としてご活用ください。
市場:東証プライム、業種:水産・農林・鉱業・建設・食料品など、時価総額:2,000億円~、決算期:3月
[詳細条件]
[今期コンセンサス]乖離率 (現在)(営業利益):10.0%~・3人以上、[今期コンセンサス]乖離率 (過去)(営業利益):3ヶ月前値・-100.0%~・3人以上、[指標]実績ROA:3.00%~、[今期コンセンサス]増益率(営業利益):2.0%~・3人以上
なお、「乖離率の度合いが強まっている(3ヶ月前の乖離率に比べて直近の乖離率が拡大している)」という条件については、[今期コンセンサス]乖離率(現在)(営業利益)と[今期コンセンサス]乖離率(過去)(営業利益)を比較し、前者が後者を上回っていることを個別に確認
出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2026年3月24日時点)を用いてマネックス証券作成
銘柄スクリーニング方法を解説
ここからは補足的な説明です。読者の皆さまがご自身のタイミングや最新データを用いて図表3のスクリーニングを実施できるよう、具体的な入力項目を図表4に示しています。
詳細条件の設定における[今期コンセンサス]乖離率(過去)(営業利益)については、欠損値を除外するため、十分に小さい値(マイナス側に大きい値)を下限として設定します。
また、「乖離率の度合いが強まっているかどうか」の判定については、[今期コンセンサス]乖離率(現在)(営業利益)と[今期コンセンサス]乖離率(過去)(営業利益)を比較し、前者が後者を上回っているかを個別に確認します。
