供給不足の市場が「儲かる企業」を生み出す理由
AIの普及を背景に、半導体業界では供給が追いつかない状況が続いています。例えば注目されているものの1つが、AI向け半導体の演算処理を支える高性能メモリのHBM(高帯域幅メモリ)です。生成AIやデータセンター向け需要の拡大を背景に供給不足が指摘されています。
このような供給不足の市場では、企業にとって良好な事業環境が生まれやすくなります。需要が供給を上回る状態では、生産した製品が速やかに販売されるため、売上高の拡大につながります。また、企業が設備投資などによって生産能力を引き上げることができれば、販売数量そのものも増加し、さらなる売上高の成長が期待できます。
さらに、供給不足の局面では価格競争が起こりにくく、製品価格が上昇しやすい傾向があります。その結果、企業は販売数量の増加だけでなく、利益率の改善も期待できます。つまり、売上高の拡大と利益率の上昇が同時に進みやすく、企業業績にとって非常に恵まれた環境です。
業績の好調さを見抜く指標「棚卸資産回転率」
こうした企業の特徴を財務データから確認する際に参考となる指標の1つが「棚卸資産回転率」です。棚卸資産回転率とは、企業が保有する在庫がどれだけ効率的に販売されているかを示す指標です。需要が強い企業では在庫が滞留しにくいため、棚卸資産回転率(在庫回転率)が改善しやすくなります。また、旺盛な需要を背景に売上高成長率も高まりやすい傾向があります。
今回は、売上高の成長率が加速し、今後も増収が期待される企業の中で、棚卸資産回転率(在庫回転率)も改善している銘柄群に着目します。こうした銘柄群の株価パフォーマンスを検証し、投資戦略として有効なのかを確認します。
在庫回転率から見える「本当に売れている企業」
まずは、売上高と棚卸資産回転率との関係を確認しましょう。棚卸資産回転率は、次の算式で計算します。
例えば、本決算が発表され、その内容から売上高が1,000億円、棚卸資産(在庫)が100億円の企業であれば、棚卸資産回転率は10回(=1,000億円÷100億円)となります。これは、保有する在庫が1年間で10回入れ替わったことを意味しています。
この算式から分かるように、棚卸資産回転率は分子である売上高が増加すると上昇しやすく、逆に在庫が積み上がると低下しやすい特徴があります。特に需要が旺盛な企業では、商品や製品が次々と販売されるため、売上高の増加とともに棚卸資産回転率も改善(上昇)しやすくなります。
一方で、売上高が伸びていても、それ以上のペースで在庫が増加している場合には、棚卸資産回転率は低下します。このようなケースでは、将来の需要拡大を見込んで企業が生産を増やし、在庫を積み増している場合もあります。しかし、想定したほど需要が伸びなかったり、需要が一巡したりすると、在庫が滞留し、値引き販売や在庫評価損につながるリスクがあります。
こうした売上高と棚卸資産回転率の関係を整理したものが図表1です。
売上高と在庫の関係が織りなす「4つのサイクル」
図表1では、売上高の増減と棚卸資産回転率の改善・悪化の組み合わせを4つのパターンに分類しています。特徴的なのは、企業の業績や在庫の状況は固定的なものではなく、景気や需要環境の変化に応じて4つの領域を循環するように移り変わる点です。
需要が拡大する局面では、売上高の増加とともに在庫回転率も改善し、右上の【1】「売り上げ増・在庫回転率改善」の状態になりやすくなります。しかし、その後に企業が需要拡大を見込んで生産を増やし過ぎると、在庫の積み上がりによって右下の【2】「売り上げ増・在庫回転率悪化」へ移行する場合があります。
さらに需要が鈍化すると、売上高が減少する一方で在庫が残り、左下の【3】「売り上げ減・在庫回転率悪化」の状態になります。その後、企業が在庫調整を進めることで、左上の【4】「売り上げ減・在庫回転率改善」へ移行し、需要回復局面では再び【1】へ戻るという循環がみられます。
銘柄を選別する際には、企業がこの循環のどの局面に位置しているのかを把握することが重要です。特に【1】の局面は、需要の拡大が売上高の増加と在庫効率の改善の両方に表れている状態であり、企業業績にとって最も良好な局面の1つと考えられます。
増収率の加速と在庫効率改善で魅力的な銘柄を抽出
「本物の成長株」を見極める5つの条件
【1】の局面の銘柄のなかで、実際の投資戦略は図表2のイメージで選別します。いつでも、その時点で入手可能な情報を用いて設定可能な戦略ですが、ここでは例として2026年6月時点のケースを示しています。
図表2には①から⑤の5つの条件が設定されています。これらを順に確認していきましょう。
まず、増収率(売上高成長率)については、足元の業績が過去と比較して加速しているかを確認します。具体的には、①直近実績の増収率が過去3回の実績値平均を上回っていること、②直近実績の増収率が前回の実績値を上回っていることを条件とします。
①は、足元の増収率が過去数年と比較して高い水準にあるかを確認するための条件です。一方、②は、直近の増収率が前回実績と比べて更に拡大しているかを確認するための条件です。
例えば、増収率が10%の企業であっても、その前までの過去3年間が5%、6%、7%であれば成長率は加速していると考えられます。一方で、過去3年間が20%、15%、12%であれば、依然として高成長ではあるものの、成長率は鈍化していることになります。
このように、①によって過去との比較による「成長率の水準」を確認し、②によって直近の「成長率の勢い」を確認することで、一時的な売上高の増加ではなく、成長モメンタムが強まっている企業を抽出することを目的としています。
さらに、③今期予想増収率が直近実績の増収率を上回っていることも条件とします。市場参加者であるアナリストが予想する今後の増収率にも着目します。
このように①と②で「過去から現在までの成長モメンタム」を、③で「現在から将来に向けた成長モメンタム」を確認します。
次に、棚卸資産回転率についても同様に改善傾向を確認します。④直近実績の棚卸資産回転率が過去3回の実績値平均を上回っていること、⑤直近実績の棚卸資産回転率が前回の実績値を上回っていることを条件とします。
これら①から⑤の条件を全て満たす企業は、増収率が加速し、今後も増収が期待されるだけでなく、在庫効率の改善も進んでいる企業と考えられます。言い換えれば、需要の拡大が実際の販売増加として表れ、その結果として在庫の回転も速くなっている企業群です。本稿では、このような企業群の株価パフォーマンスを検証します。
投資パフォーマンス結果は?戦略の有効性を検証
市場全体を継続的に上回る「超過リターン」
実際に、図表2で示した5つの条件を満たす銘柄を抽出し、その投資パフォーマンスを検証しました。
分析対象となる母集団は、TOPIX(東証株価指数)構成銘柄としています。なお、棚卸資産回転率の算出が業態特性上なじみにくい金融業は除外しました。
検証方法としては、毎月末時点で入手可能な情報のみを用いて、①実績増収率がその直前年度までの過去3回平均を上回ること、②実績増収率がその直前年の実績を上回ること、③今期予想増収率が直近実績を上回ること、④棚卸資産回転率がその前までの過去3年平均を上回ること、⑤棚卸資産回転率が前年実績を上回ること、の5条件を全て満たす銘柄を選定しました。
その上で、抽出された銘柄群に均等投資を行い、翌月の配当込み収益率を集計することで投資パフォーマンスを検証しました。
注2: 母集団はTOPIX構成銘柄。ただし金融業(銀行業、証券・商品先物取引業、保険業、その他金融業)は除外
注3: 毎月末時点において、直近実績本決算の増収率が前年と、その前までの過去3年の平均を上回り、かつ今期予想売上高成長率(コンセンサスベース)が直近実績本決算の増収率を上回る銘柄を抽出。さらに直近実績本決算の棚卸資産回転率が、前年とその前までの過去3年の平均を上回る銘柄を選定した。各月末時点で入手可能な情報のみを用いて算出
注4: 毎月末時点で注3の条件を満たす銘柄群を対象とした。絶対リターンは各銘柄の配当込み収益率(月次)を単純平均し累積したもの。超過リターンは母集団全銘柄の平均リターンを控除した月次リターンを累積したものである
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
結果を示したのが図表3の青線グラフです。青線は累積リターンを表しており、グラフが長期的に右肩上がりで推移していることから、時間の経過とともに収益が積み上がってきたことが分かります。
さらに、図表3の赤線グラフでは、選定銘柄群のリターンから、母集団全体(金融業を除くTOPIX構成銘柄)の平均リターンを差し引いた「超過リターン」の累積を示しています。こちらも中長期的に右肩上がりで推移しており、本戦略が市場全体を継続的に上回る成果を上げてきたことが確認できます。
本分析では単に増収率(売上高成長率)が高い企業ではなく、過去と比較して増収率が加速しており、さらに市場が今後も増収率の拡大を予想している企業に着目しました。加えて、棚卸資産回転率の改善という条件を組み合わせることで、需要拡大が実際の販売増加につながり、在庫効率の改善としても表れている企業を抽出しています。
このように、増収率の「水準」だけではなく、「勢い」や「将来性」、そして在庫効率の改善という実需の裏付けを同時に確認することで、より質の高い成長企業を選別できる可能性が示されたと考えられます。
実践編:ツールを使って該当銘柄を確認する方法
ここからは補足的な説明です。読者の皆さんが、投資の候補として銘柄を考える場合に、その銘柄が「増収モメンタム加速・在庫効率改善銘柄」に該当するかを確認する方法を紹介します。
マネックス証券ウェブサイトの「銘柄スカウター」を利用できる方は、図表4の赤丸印の検索欄に銘柄コード、あるいは銘柄名を入力すると、銘柄の基本情報を確認することができます。
ステップ1:過去から現在への「成長の勢い」をチェック
ここではある銘柄を取り上げます。まずは、増収率(売上高成長率)に関するチェックです。以下の3点を確認します。
① 直近実績の増収率が過去3回の実績値平均を上回っていること
② 直近実績の増収率が前回の実績値を上回っていること
③ 今期予想増収率が直近実績の増収率を上回っていること
まず、①直近実績の増収率が過去3回の実績値平均を上回っていること、については「銘柄スカウター」の「企業分析」「通期業績推移」から、図表5の紫四角の中の数値を確認します。直近実績の増収率は44.7%(2026/03)なので、その前までの3年平均値の27.2%(=60.30%、-13.20%、34.40%の平均値)を上回っています。
次に、②直近実績の増収率が前回の実績値を上回っていること、は44.7%(2026/03)が60.30%(2025/03)を下回っていることから、ここでは条件を満たしていないということが分かります。
ここではさらに、進んで、③以降の条件もチェックしてみましょう。
ステップ2:アナリスト予想で「将来の成長性」を確認
③今期予想増収率が直近実績の増収率を上回っていること、については、「銘柄スカウター」の「アナリスト予想」 の「財務状況」から図表6の直近実績増収率44.7%(2026/03)に対して、アナリストコンセンサスの今期予想増収率の28.6%と比較するのが良いでしょう。同銘柄については、今期予想増収率が直近実績の増収率を上回っていないため、同条件もクリアできません。
ステップ3:実需の裏付けとなる「在庫回転率」を確認
そして、棚卸資産回転率に関するチェックをします。④棚卸資産回転率がその前までの過去3年平均を上回ること、⑤棚卸資産回転率が前年実績を上回ること、のチェックになります。
まず、④棚卸資産回転率がその前までの過去3年平均を上回ること、については「銘柄スカウター」の「企業分析」「各種回転率」から、図表7の紫四角の中の数値を確認します。直近実績の棚卸資産回転率は4.87回(2026/03)なので、その前までの3年平均値の3.13回(=3.72回、2.38回、3.31回の平均値)を上回っています。次に、⑤棚卸資産回転率が前年実績を上回ること、は4.87回(2026/03)が3.72回(2025/03)を上回っていることから、条件を満たしています。
このようにして①から⑤の条件をチェックすることが可能です。すべての条件をクリアできた銘柄は積極的なスタンスで臨みたいですし、幾つかの条件を満たさない場合には、投資には留意が必要です。
