米国市場は楽観視から一転、原油高で利下げ期待が遠のく展開に
先週(3月16日週)の米国市場は、「イラン戦争の最悪期は、ひょっとすると通過したのではないか」という淡い期待で始まりホルムズ海峡の再開に向けて米国が同盟国を説得できるのではないかとの観測から、米国株は上昇しました。
テクノロジー銘柄にも買いが入り、エヌビディア[NVDA]のAI関連イベントやメタ・プラットフォームズ[META]の人員削減観測が話題になるなど、市場にはなお前向きな空気が残っていました。原油高は続いていても、最終的には米国がイラン情勢をコントロールし、その後は原油価格も落ち着いていくのではないか、という見方があったのです。しかし、米国が始めた戦争はそう簡単に米国の思い通りにはいきません。
その後、投資家の視線は完全にFOMC(米連邦公開市場委員会)とPPI(生産者物価指数)へ移りました。イラン紛争とホルムズ海峡を巡る緊張が長引くなかで、原油価格は戦争開始以降大きく上昇しており、市場は「FRB(米連邦準備制度理事会)はこの原油高を本当に無視できるのか」を試し始めていました。
そして3月18日(水)、PPI(前月比)は予想を大きく上回り0.7%となり、流れは決定的に悪化します。FRBは政策金利を据え置いたものの、パウエル議長のトーンは市場が期待したほどハト派ではありませんでした。市場はこの時点で、原油高を一時的なノイズではなく、利下げを遠ざける現実のインフレ圧力として意識し始めたと言えます。結果として、トランプ米大統領の強硬姿勢は、少なくとも短期的には自らの政策運営を難しくしている面も見え始めました。
先週(3月16日週)のS&P500は1.9%安、ナスダックは1.5%安に
先週(3月16日週)1週間を通してみると、S&P500は1.9%安、ナスダックは1.5%安となりました。相対的に堅調だったのは資源関連で、生活必需品のようなディフェンシブ・セクターまで売られたことは、投資家の不安がかなり広い範囲に及んでいたことを示しています。
同時に、債券市場の動きも株式市場以上に不気味でした。米国の10年国債利回りは4.4%まで上昇し、イラン紛争開始からの上昇幅は40ベーシスポイント超に達しました。2023年以降の強気相場を振り返ると、10年債利回りが1週間で10ベーシスポイント以上上昇し、それが4.25%を超える局面では、株式市場にとって明確な逆風になることが多かったのです。今回もまさにそのパターンに入りました。
市場が重要視するホルムズ海峡3つのポイントとは?
ただし、ここで重要なのは、だからといってマーケットがもうダメだという話ではないということです。
今、市場が最も重視しているポイントを1つ挙げるとすれば、やはりホルムズ海峡を船舶が再び安定的に通航できるかどうかです。言い換えれば、市場が本当に確認したいのは次の3点です。
・原油の取引が通常どおり行われていること。
・船が動いていること。
・そして、その航行が安全に保たれていること。
この3つが確認できれば、市場は「供給網の寸断リスクがひとまず後退した」と受け止めやすくなります。特に、短期的にはこれが相場の安心材料として非常に大きな意味を持ちます。実際、市場関係者の間でも、「ホルムズ海峡の再開、あるいは再開に向かう明確な兆し」こそが、足元の不安定な相場を立て直す最初のきっかけになるとの見方が強まっています。
もちろん、仮に情勢が落ち着いたとしても、原油価格がすぐに以前の低水準まで戻るとは限りません。地政学リスクが強まった局面では、原油が急騰した後に急低下する場面もありますが、同時に「一定程度の高値圏がしばらく続く」可能性も考えておかなければなりません。
マーケットは2020年春とは異なる局面へ
ただ、ここで前向きに捉えたいのは、現在の市場が極端な原油高を前提としているわけではないという点です。つまり、マーケットは最終的な米国の勝利を期待していると言えるでしょう。また、先物市場では年末に向けた原油価格はやや上昇した水準で織り込まれているものの、依然として「経済や企業収益が十分に吸収可能なレンジ」にとどまっています。
つまり、市場はすでに一定の地政学リスクを価格に織り込みつつも、それだけで景気や企業業績が致命的に悪化するとは見ていないのです。
マーケットが完全に投げ出してパニックになっているわけでもありません。2020年春のように、短期間で大暴落し、「すべてが終わる」という極端な悲観が織り込まれている局面ではないのです。だからといって、問題を無視して楽観一辺倒になっているわけでもありません。むしろ今の市場は、リスクを丁寧に織り込みながら、次の回復条件を探っている段階と見る方が自然でしょう。
4週連続下落のなか「次の反発」に向けた確認作業の時間帯か
実際、悪い話ばかりではありません。興味深いのは、米国がイランを攻撃して以降、企業業績見通しにはむしろ上方修正が起きていることです。戦争前時点での2026年1QのS&P500 EPS予想は前年同期比で10.7%増、2Qは15.5%増でした。それが、戦争の影響が意識され始めた先週末時点では、それぞれ11.95%増、18.31%増へと上方修正されています。
もちろん、今後もこの強さが維持されるかは慎重に見ていく必要があります。しかし少なくとも現時点では、マーケットは地政学リスクを消化しつつも、企業収益の土台そのものが大きく崩れているとは見ていないわけです。この点は、先行きを考えるうえで心強い材料です。
現在のマーケット環境は、確かに簡単ではありません。4週連続下落のなかで、悪材料を毎日のように消化している印象もあります。しかし一方で、相場は完全な投げ売りモードに入っているわけではなく、むしろ冷静に「何が整えば次の反発に進めるのか」を見極めようとしています。
その意味で、今の相場は「終わりの局面」ではなく、次の反発に向けた確認作業の時間帯と捉えることもできます。
最大の焦点は、やはりホルムズ海峡です。完全な正常化でなくても構いません。市場が求めているのは、「近いうちに再開へ向かう」という兆しです。そうしたサインが見え始めれば、原油供給不安はやや和らぎ、投資家心理も改善しやすくなります。
ホルムズ海峡の通航正常化、あるいはその明るい兆し。これが見え始めたとき、市場は次のステージへ進みやすくなると考えています。
