「稼いだ利益をきちんと株主に返す会社」への転換
2026年5月20日、エヌビディア[NVDA]は2027年度第1四半期(2026年2~4月)の決算を発表しました。売上高は820億ドル(約13兆円)と、前年同期比+85%・前四半期比+20%の大幅増収を達成。14四半期連続で前四半期を上回るという、製造業の常識を超える記録を更新し続けています。
データセンター・フリーキャッシュフロー・株主還元のすべてが過去最高を更新し、次の四半期ガイダンスも売上高910億ドルと、非常に強気な水準を維持しました。
エヌビディアはこれまで、他のMAG7(マグニフィセント・セブン)企業と比べて株主還元が手薄だという声が投資家の間にありました。今回の決算では、その点にも大きなメッセージを打ち出しています。
四半期配当をわずか1セントから25セントへ
実に25倍の増配です。さらに800億ドル(約12.7兆円)の自社株買いの新枠を追加設定し、2026年のフリーキャッシュフロー(約490億ドル)の約50%を株主に還元する方針を示しました。「稼いだ利益をきちんと株主に返す会社」への転換を、数字で示した形です。
「訓練」から「使う」へ、推論市場の主役交代
これまでエヌビディアの成長を支えてきたのは、AIモデルを「訓練(トレーニング)」する需要がありました。しかし今、重心が大きく移り始めています。
今回の決算でその象徴的な出来事がありました。「Claude(クロード)」というAIを開発するAnthropic(アンソロピック)が、エヌビディアと戦略的パートナーシップを締結したのです。これまでChatGPTを提供するOpenAIやアルファベット[GOOGL]、メタ・プラットフォームズ[META]はエヌビディアのチップを使っており、今回Anthropicも加わりました。エヌビディアのジェンセン・ファンCEOは「フロンティアAI(最先端AI)における我々のシェアは、これで劇的に拡大する」と述べました。
データセンター売上の内訳を見ると、大手クラウド企業向け(380億ドル・前四半期比+12%)の安定成長に加え、AI専業クラウドや産業・企業向け(370億ドル・前四半期比+31%)が急加速しています。需要の裾野が着実に広がっています。
AIが「道具」から「働く存在」へ、エージェントAIの衝撃
今回の決算発表のカンファレンスコールでファン氏が最も力を込めて語ったのが「エージェンティックAI」というテーマです。「エージェンティックAI」という単語を11回使っています。これまでのAIでは、人間が質問すると、AIが答えるという一問一答の形式でしたが、エージェントAI(エージェンティックAI)では、AIが自分で考え、計画を立て、他のツールやAIを呼び出し、タスクを自律的に完了させるのです。
このエージェントAIが普及すると、「指示を出す・段取りをする」部分はCPU(従来型プロセッサ)が担い、「考える・推論する」部分はGPU(エヌビディアの主力製品)が担うことになります。つまり、AIが働けば働くほど、エヌビディアのチップが必要になる構造です。
これにより、エヌビディアに全く新しい市場を開きました。その象徴が、世界初の「エージェンティックAI専用CPU Vera(ヴェラ)」です。エヌビディアはこれまでCPU市場に参入したことがありませんでしたが、2026年だけでスタンドアローンVera CPUの売上は約200億ドル(約3.2兆円)に達する可能性があるとのことです。
ジェンセン・ファンCEOは、「我々が今まで取り組んだことのない2000億ドル(約32兆円)規模の市場を、Veraが開く」と発言しています。
次世代チップ「Vera Rubin」2026年後半から新時代が始まる
現在の主力製品「Blackwell(ブラックウェル)」の後継となる「Vera Rubin(ヴェラ・ルービン)」が、2026年第3四半期(7~9月)から出荷が開始される予定です。AI処理スループット(どれだけ多くの仕事をこなせるか)は、これまでのBlackwellの最大35倍とのことです。
既に、OpenAI、アルファベット(グーグル[GOOGL])、Anthropicなど主要AI企業はすでに発注済みであり、ファンCEOは「Blackwell以上の成功になる」と自信を見せました。また、2025~2027年にかけてBlackwellとRubinの累計売上として掲げた「1兆ドル(約160兆円)」という目標に、Vera CPUやその他の新製品は含まれていません。つまり実際の数字はさらに上振れる可能性があります。
「大手だけ」ではない、世界中にAI工場が建設されている
今回、特に注目されたのは、需要の多様化です。これまでAIインフラへの投資をリードしてきたのはアマゾン[AMZN]、アルファベット、マイクロソフト[MSFT]などの大手クラウド企業でしたが、今や様相が変わっています。
AI専業のクラウドスタートアップや、各国政府による自国でAIインフラを整備する「ソブリンAI」の動き、そして製造・医療・エネルギーなどさまざまな業界の企業が、エヌビディアのシステムの導入を本格化させています。
10メガワット超の規模を持つパートナーデータセンターはわずか1年で2倍に増加し、80拠点を突破しました。ジェンセン・ファンCEOが言う「AI工場(AIファクトリー)」、つまりトークン(AIの答え)を生産する工場が世界中に建設されているのです。ハイパースケーラーのCapEx(設備投資)は2027年に1兆ドルを超える見通しであり、AI全体のインフラ投資は2030年代に年間3~4兆ドルへ拡大するとファンCEOは予測しています。
唯一の留意点:中国向け売上はゼロのまま
H200(エヌビディアの中国向け製品)の輸出ライセンスは米政府から承認されているものの、実際に中国への輸入が認められるかどうか見通せないとしており、中国向けデータセンター売上は今回もガイダンスに含まれていません。これは2四半期連続の同様の状況です。逆に言えば、規制が解消された場合には「隠れたアップサイド(上振れ余地)」として顕在化する可能性があり、将来的に株価を押し上げる要因となり得ます。
エヌビディア株の魅力的なバリュエーション
エヌビディアの株価は成長力に比べて割安感があり、長期投資の魅力を提供しています。一方、すでにS&P500内で大きな比率を占め、多くのアクティブ投資家にも保有されているため、新たな買い手を広げにくい面があります。
そうした意味では、投資家の焦点は株主還元にあると言えます。他の大型テクノロジー企業は、配当や自社株買いを増やすことで、インカム志向の投資家を呼び込みました。一方、エヌビディアは2022~2025年のフリーキャッシュフローのうち、株主還元に回した比率が47%にとどまり、同業他社の約80%を下回っていました。これまで同社は、OpenAIやAnthropicなどAIエコシステムへの投資を優先してきたからです。
株主還元の強化は、投資家層の拡大、バリュエーション・ギャップの解消、そして「循環取引」への懸念の緩和につながる可能性があります。これはこれからの重要な注目材料となるかもしれません。
