衆院選投開票日翌日(2月9日)から円高に転換したのはなぜか

米ドル/円相場は2026年1月14日に159.45円まで円安・米ドル高が進行しました。トラスショックの再来を指摘する向きもでるほど、「日本売り」が警戒されました。過度な円安進行は、選挙結果にも影響を及ぼすとみたのか、日米通貨当局が協調でレートチェックを行ったのが1月23日。米ドル/円相場は152円台まで円高となりました。

しかし、2月8日の投開票日に向け米ドル/円相場は再び157円台へと反発上昇し、円安が再開していました。首相の「外為特会ほくほく発言」が切り取られ、「高市政権は円安容認」とのコンセンサスが醸成される中、「選挙で与党が勝てば円安が止まらなくなる」という見方が広がりつつありました。

ところが、自民党が316議席を獲得する圧勝となったにもかかわらず、米ドル/円相場は投開票日の翌日2月9日から円高に転換しています。なぜでしょうか?

日本の当局からの強い市場牽制

2月8日時点で、片山さつき財務大臣は「必要であれば(2月9日)月曜日も金融市場とコミュニケーションをとる」と述べ、強いけん制姿勢を示しました。また、2月9日の9時台には、三村淳財務官が「高い緊張感を持って注視する」「市場とは常に対話している」と発言。市場は1月23日のレートチェック時に急激な円高を経験していたため、積極的な円売りには動きづらかったと考えられます。

自民党が圧勝したため

今回の選挙、自民党は「食料品の消費税を2年間の期限付きで0%にする」ことを公約に掲げましたが、野党はさらに踏み込んだ減税案を公約に掲げていました。「食料品だけでなく、一律で消費税を5%に引き下げる」と掲げたのは国民民主党です(ただし、実質賃金がプラスになるまで)。中道改革、社民党、日本保守党は食料品の消費税0%への引き下げを「恒久的に」としています。消費税そのものの廃止を掲げたのがれいわと減税日本などです。

中途半端な勝ち方をして、野党の意見も聞かなくてはならない状況に陥るより、自民党が圧勝したほうが、逆に財政規律を守る意味ではポジティブだという見方もあります。その結果、過度な円売りを手仕舞う動きにつながった、という指摘もありますね。

米ドル安要因も~中国の米国債売りへの警戒

2月9日、米ブルームバーグが「中国当局が国内金融機関に対し、米国債の保有を抑制するよう指示した」と報じました。これを受けてこの日、米ドル売りが加速しました。トランプ政権下での米国離れが改めて確認された格好です。

また、1月チャレンジャー人員削減数、12月JOLTS求人件数、12月小売売上高など米国の経済指標がさえない結果となっていることで、米国の早期利下げ観測も台頭しています。1月分の雇用統計の数字は思いのほか良好でした。ただし、増加が教育・健康、ヘルスケア関連に偏っており、全体でみればそれほど強くなかったと言えます。この点も、雇用統計発表のヘッドライン後の米ドル高を相殺したとみられます。

そもそも日米金利差は大きく縮小している

そもそも米国は利下げのサイクルにあり、日本は利上げのサイクルにあるわけで、基本は日米金利差縮小のフェーズにあり、円高となりやすい環境です。2025年7月頃からこのファンダメンタルズを無視して円安が進行する奇妙な現象が起こっていました。秋以降の円安は高市政権の積極財政への警戒によるところが大きかったと思われます。

一方で2月8日、片山財務大臣は消費税減税について「赤字国債には頼ることなく、財源を確保することを検討したい、放漫財政になることはない」と述べました。さらに、高市首相も「債務残高のGDP比を安定的に引き下げていくということを通じて、財政の持続可能性を実現する。マーケットからの信認を確保していくというのが私どもの方針だ」と市場の過度な警戒を解く発言を行っています。

米ドル/円相場は、金利差とは大きく離れた円安・米ドル高水準に位置しています。日本の財政への警戒が緩む中、米ドル/円相場が金利差との相関を取り戻す動きとなるようなら、140円を割れる水準まで円高となっても不思議はありません。急激に140円を割るような急落があるとは考えていませんが、過度な投機筋の円売りは一服したと考えていいのではないでしょうか。