スイスフラン/円が194円台へと上昇、史上最高値を更新しています。米ドル/円相場が円安トレンドを強くしているため、円売りの側面も強いのですが、スイスフランは円に対してだけではなく、米ドルやユーロ、ポンドなど他通貨に対しても強く「スイスフラン高」であることから、クロス円でみると突出した上昇パフォーマンスを演じています。

スイスの政策金利は0%

かつて、日本円も安全資産とされてきましたが、今や円はキャリー通貨として投資家の調達通貨となっています。日本の政策金利は0.5%と低金利であることから、円を売って、米ドルやユーロなど金利の高い通貨を買うことで、金利差収入を得られるためです。

しかし、スイスの政策金利は日本よりも低い0%です。円を売ってスイスフランを買うと「ネガティブスワップ」、つまり金利差のコストを支払わなければなりません。これは円に対してだけではありません。米ドルの政策金利は3.75-4.0%。ユーロの政策金利は2.15%です。

足元で米ドル/スイスフランやユーロ/スイスフランといった通貨ペアでスイスフランは再び上昇を加速させていますが、スイスフランの買いポジションを保有するということは、スワップコストを払っているということです。それなのになぜ政策金利0%のスイスフランが強いのでしょうか?

通貨市場の「安全資産」

2025年は年間を通じて基軸通貨である米ドルが下落した年となりました。DXY(ドルインデックス)は年初から10%程度下落しています。この背景には米国の財政への懸念がありました。

米連邦債務残高のGDP比は 120%を超え、戦後最高を更新。コロナ後の財政出動+金利上昇で利払い費がかさみ、2024会計年度において、米連邦政府が国債の利払い費用として支出した額(約8820億ドル)は、国防歳出(約8740億ドル)を上回り、基軸通貨ドルは安全資産とみなされなくなったと指摘する向きもあります。

これを象徴する動きとして、2025年はゴールドが50%を超える驚異的なパフォーマンスを示しました。米ドルの信認が低下する中で、世界の中央銀行などのポートフォリオ・リバランスが積極化していると考えられます。より安全な投資先を模索する動きは、通貨市場ではスイスフラン高という形で現れています。

スイスは極めて厳格な財政ルールと強い政治的合意によって、財政問題を最小限に抑えている国として知られています。連邦債務残高のGDP比は29%程度。財政収支は「支出ルール」により恒常的な赤字を防止しているためほぼ均衡。S&P社による格付けはトリプルAの最高格付を維持しています。スイスは通貨の価値の既存への警戒が最も小さい国と認識されているということでしょう。

注意が必要なSNB(スイス中央銀行)による介入

米国とスイスの通商交渉でスイスから米国への輸出品に対して課されていた最大39%の関税が15%程度まで引き下げる合意が近づいているという報道があり、足元ではスイスフラン高がさらに加速しています。しかし、通貨高は輸出国であるスイスにとって好ましくありません。スイスGDPの約45%は輸出に依存しているためです。

SNB(スイス中央銀行)は長年「スイスフラン高は経済・物価に下押し圧力を与える」として、過度なスイスフラン高を抑制する政策を取ってきました。2011~2015年には「ユーロ/スイスフランの 1.20下限」を設定してユーロ買い・スイスフラン売りの介入を実施、スイスフラン高防衛に動いています。その後、2022~23年にも0.94台でSNBが断続的にユーロ買い・スイスフラン売りを行った形跡が見られる他、2025年春以降にユーロスイスが0.93台に進行した際にも、スイスフラン売り介入を行ったと見られるとの報道がありました。

SNBは公式に発表していないのですが、スイスの外貨準備高が増加していることから非公式介入が入ったと見られています。足元ではユーロ/スイスフランが0.92を割り込む水準での介入警戒が強まっているようです。

足元ではスイスフラン高のトレンドが強く、スイスフラン/円の上昇も続くと見られますが、ユーロ/スイスフランでのフラン売り介入が入った場合、他通貨ペアでのスイスフラン下落の可能性もありますので、スイスフラン/円のディップ(=相場上昇時の一時的な急落)が大きくなるリスクがある、ということに留意してください。