先週(1月12日週)の動き:最高値更新続く内外金価格、FRBの独立性侵害問題と中東地政学リスクの高まり
NY金、過去最高値を更新
先週(1月12日週)のニューヨーク金先物価格は、週初から大幅続伸し過去最高値を更新するスタートを切った。1月12日のNY金は前週末比113.80ドル高の4,614.7ドルで終了した。初めて4,600ドル台に乗せるとともに2025年12月26日以来、約2週間ぶりに最高値を更新した。FRB(米連邦準備制度理事会)の独立性維持への懸念が増大し、今後の円滑な金融政策運営に疑念が高まったことから安全資産としての金(ゴールド)への資金移動が加速した。
そこに地政学リスクの高まりも加わりNY金をさらに押し上げた。イランでは政府に対する抗議デモが広がり、治安当局のデモ隊鎮圧による犠牲者が増えていると伝えられていた。1月13日にはトランプ米大統領がメディアのインタビューで、イラン各地で続く反体制派によるデモ支援に向けて「極めて強力な対応を取る」と述べ、軍事介入する姿勢を示唆した。それに対し1月14日には、イラン政府高官が「反体制派デモの支援のため米国がイランを攻撃すれば、中東にある米軍拠点へ報復攻撃を行う」と警告したと報じられた(ロイター)。さらにサウジやカタールなど該当諸国にも通告したという。緊張の高まりを受け1月14日のNY金は買いを集め取引時間中(4650.5ドル)終値(4,635.7ドル)ともに過去最高値を更新した。
その後トランプ米大統領が「イランでの殺戮は止まりつつある」と語ったと伝えられ、1月15日にはイスラエルのネタニヤフ首相がトランプ氏に対し、イランへの軍事攻撃計画を延期するよう求めたと米紙ニューヨーク・タイムズにより報じられた。高値警戒感とともに緊張緩和観測から週末にかけて利益確定売りが膨らみ、週末1月16日は4,595.4ドルで終了した。週間ベースでは前週末比94.5ドル(2.1%)高で続伸した。レンジは4,520.8~4,650.5ドルで値幅は129.7ドル。値動きが大きかった前週の172.4ドルからは縮小した。
パウエルFRB議長、異例のビデオメッセージで反論
パウエルFRB議長は1月11日のビデオによる声明で、FRB本部改修工事に関して自身が行った2025年6月の議会証言を巡り、米司法省から刑事捜査に関する大陪審への召還状を受け取ったと公表。今回の措置が自身の証言や改修工事に起因するとの見方を否定し、「それらは口実に過ぎない」と指摘した。金利決定に不満を抱くトランプ米大統領による「前代未聞の措置で、政権の脅しと圧力継続の一環だ」と反発。これからもFRBがデータと経済状況に基づき金利を設定し続けることができるか、それとも金融政策が政治的圧力や威嚇によって左右されることになるのかという問題だと発言した。自身の職務について「誠実さと米国民に奉仕するという責務へのコミットメントをもって引き続き遂行していく意向だ」と説明した。
FRBの金融政策の方向性は世界経済への影響が大きい。その政策がトランプ米政権の意向に左右されるとなると基軸通貨米ドルの信認低下につながる可能性が高まる。すでに足元で新興国中央銀行が外貨準備に占める米ドルの比率を引き下げ、金(ゴールド)の比率を高める動きがここまで複数年に渡り続いている中でのことである。FRBの独立性が失われる事態は、米ドル離れに加速がつくとの見方からNY金は買われることになった。
トランプ米大統領、あくまでグリーンランド取得意向
地政学リスクを巡っては、イラン情勢に対する米国の介入観測は後退したものの、米国は空母打撃群の中東地域への展開を準備中との報道もあり、予断を許さない状況が続いている。さらにデンマーク領グリーンランドを巡る動きも市場の関心事になっている。グリーンランドのニールセン自治政府首相が1月13日に「米国領となるよりデンマークの一部でいることを望む」と表明した一方、トランプ米大統領は1月14日に自身のSNSで「グリーンランドは入手する以外受け入れられない」と書き込んだ。米欧の分断と対立の構図がにわかに膨らんでいることもNY金のサポート要因となっており、最高値圏を維持する動きにつながっている。
国内金価格も最高値更新
NY金の最高値更新を受け、国内金価格も高値更新が続いた。1月12日が成人の日の祝日となったことから、週明け早々のNY金の高騰は1月13日の国内価格に反映された。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は1月13日に2025年12月29日に付けていた最高値を更新し、初の2万4000円台に乗せた。
翌1月14日は、高市首相が1月23日の通常国会初日に衆議院を解散する意向を固めたとの報道を受け、米ドル/円相場が159.46円(ファクトセット)と、2024年7月以来18ヶ月ぶりの安値を記録したこともあり、連日で最高値を更新した。この日の取引時間中の高値2万4786円と終値2万4716円がそれぞれ過去最高値となる。
その後週末にかけて売りが優勢になったものの2万4000円台は維持し1月16日の終値は2万4395円となった。週足は前週末比1135円(4.88%)高の続伸となった。レンジは2万3188~2万4786円で値幅は1598円と前週の845円から大きく拡大した。NY金、米ドル/円ともに値動きが大きくなったことによる。
今週(1月19日週)の動き:米欧分断で内外金価格最高値更新、日銀植田総裁、トランプ米大統領発言、クック裁判口頭弁論に注目、内外金価格最高値更新と滞留
米欧分断で内外金価格最高値更新
本稿執筆中の日本時間1月19日午前11時の時点までで、祝日取引中(1月19日NY市場はキング牧師生誕祭)のNY金は一時4,698.0ドルまで買われ最高値を更新し、国内金価格も連動する形で最高値を更新している(高値は2万4577円まで)。
米欧の政治的分断に対する懸念が、買い手掛かりとなっているとみられる。トランプ米大統領は1月17日、米国がデンマーク自治領グリーンランドを取得する考えを支持しない欧州8ヶ国からの輸入品に10%の追加関税をかけると表明した。2月に発動し、6月に税率を25%まで引き上げるという。米国がグリーンランドを「完全かつ全面的に購入する」まで関税をかけ続けると宣言した。対象はデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、英国、オランダ、フィンランドの8ヶ国としている。
それに対し、EU(欧州連合)は2025年7月に合意した米・欧州連合(EU)通商協定を踏みにじるものとして反発を強め、対抗措置の検討に入ったと伝えられている。市場ではベネズエラ侵攻以降トランプ米政権による力による秩序の破壊や協定破棄が、今後も起こりうるとの認識が高まっていたが、今回の事例はまさにその懸念を表すものであり、金価格の刺激要因との捉え方が強まっている。トランプ米大統領が、グリーンランド取得のためには武力行使もありえることに言及したことは、同盟国とも敵対する可能性という点で衝撃的とも言え、地政学リスクのレベルを上げることになった。足元での金市場の反応はそれを表している。
日本銀行の金融政策決定会合後の植田総裁発言、ダボス会議でのトランプ米大統領発言、クック裁判の最高裁口頭弁論に注目
今週(1月19日週)は1月22、23日に日本銀行の金融政策決定会合が開かれる。終了後の植田総裁の記者会見の内容が、衆院解散総選挙決定の流れの中で、米ドル/円相場に影響を与え、国内金価格への影響が高まる可能性がありそうだ。160円を超える円安には、口先だけでなく実際に米ドル売り介入の可能性もありそうだ。
他の材料としては1月22日(木)に米国の7-9月の国内総生産(GDP)改定値、遅れていた2025年11月の米個人消費支出(PCE)価格指数の発表がある。もっともこうした主要データより世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)でのトランプ米大統領の発言内容や、1月21日(水)に予定されている米最高裁でのクックFRB理事解任訴訟を巡る口頭弁論などに注目が集まりそうだ。
金価格にとって強気材料が尽きぬ状況の中で、今週(1月19日週)も先週(1月12日週)同様、高値更新と切り上げた水準での滞留が内外で続くとみられる。
