エヌビディアの決算は、AIインフラ需要がいまだ加速していることを明確に示す

先週(11月17日週)の米国株市場は、エヌビディア[NVDA]の決算発表を前に、AIブームに対する懸念が急浮上し、マーケットが弱含む展開となりました。1週間では S&P500は−1.95%、ナスダック100は−3.07% の下落です。

世界中の投資家の目が集まる中、米国時間11月19日(水)の引け後、エヌビディアは完璧に近い決算発表をおこないました(11月20日付レポート「エヌビディアがAIバブル懸念を払拭、過去最高の決算と強気ガイダンス」)。発表されたエヌビディア の10月期決算とガイダンス自体は、どこから見てもポジティブで、AIインフラ需要がいまだ加速していることを明確に示すものでした。

売上:+62%
来期ガイダンス:+65%(加速)
最新GPU「ブラックウェル(Blackwell)」 と Blackwell の後継Rubin の合計パイプラインは 2026年までに 5,000億ドル
需要は供給を圧倒し、実質的に 2027年まで売り切れ

「AIは、まだ初期段階」「エヌビディアの供給は、需要に追いつけない」という事実が確認された内容となったのです。

11月20日(木)、寄り付きは上昇したが終値では下落

これを受け、翌11月20日(木)のマーケットは朝方、エヌビディアの決算結果に対する祝福ムードがひろがり、寄り付きは S&P500が+2%高となりました。ところが午前10時半をピークに、そこから約-3.5%下落し、終値は−1.56%で終わったのです。「Buy on the News」(ニュースを確認して買う)の反応をしていたマーケットが、突然「Sell on the News」(ニュースを確認して売る)へと急変したのです。一体あれは何だったのでしょうか? 世界中の投資家が、首を傾げたに違いありません。この日の動きは、1つの悪材料で説明できるものではありません。

S&P500は、2025年4月のトランプ関税で下げた後、2025年10月28日に史上最高値をつけるまでの半年間、3%程度の調整すらなく上昇してきたため、いつ調整があってもおかしくない状況であったのは事実でしょう。

11月20日にS&P500が下落した7つの理由

この日のマーケットの動きは、ファンダメンタルズの問題があったわけではなく、市場心理、投資家センチメントの悪化によるものではないかと考えています。この日のイベントを調べてみると、以下のようなマーケット下落要因が考えられます。

【1】11月20日(木)に発表された10月の米雇用指標が強すぎ、12月利下げ期待が一気に後退した

市場が望んでいたのは「弱い雇用 → 利下げ確度上昇」でした。しかし実際は+11.9万人(予想+5.5万人)。市場の期待シナリオが崩れた瞬間でした。同日に相次いだ FRB(米連邦準備制度理事会) 高官のタカ派発言も、市場心理を冷やしました。

【2】 トランプ米大統領の「 過激投稿」が政治リスクを上昇させた

11月20日(木)朝、トランプ米大統領が退役軍人の発言を「反逆行為」と非難し、「死刑に値する」と発言。議会から反発の声が広がり、政治リスク懸念がセンチメントを悪化させました。

【3】 「エプスタイン透明法」署名が思わぬ波紋を

歓迎されるべき法案でしたが、公開資料に著名投資家・富豪・政界関係者の名前が含まれる可能性が指摘され、一部投資家が早めにポジション調整に動いたと考えられます。

【4】 ビットコイン急落 → 株式市場に連鎖

暗号資産市場の高ボラティリティが米株に波及。ビットコイン急落の約1時間後に S&P500も下落開始。マーケットメーカーの流動性が薄くなっていた点も値動きを増幅しました。

【5】オラクル[ORCL] CDS が急騰 → AI セクターへ心理的打撃

オラクル の信用リスク(CDS)が急騰。CDSは「 倒産リスクの温度計」とされ、これが「AI企業全体のリスク増加」という連想を引き起こし、エヌビディア好決算のポジティブムードを打ち消しました。

【6】 プライベートクレジット市場の火種

大手パレット企業48Forty(48Forty Solutions)が借入17.5億ドルの返済に行き詰まり、債権者が支配権を奪取する動きへ。「信用サイクル悪化か?」という警戒が浮上しました。

【7】 恐怖指数(VIX)が「28」へ急騰し、恐怖が恐怖を呼ぶ展開

上記のようなニュースがでるなか、11月20日(木)の午後、VIXが急騰し、市場は一気にリスク回避モードへ。売りが売りを呼ぶ展開になりました。

こうした複数の火種の集合によってマーケットは急落したと考えられます。これはファンダメンタルズの悪化ではなく、100%センチメント要因の下落でしょう。

下値は限定的であり、押し目買いの好機となるか

図表のチャートの通り、2025年10月10日の急落局面と酷似しています。同じスピードで戻るとは限りませんが、下値は限定的であり、今回の下げもこれまで同様に押し目買いのチャンスとみています。

【図表】S&P500日足チャート
出所:マネックス証券

歴史的データも押し目買いを示唆しています。1957年以降、「1%以上ギャップアップしたのに、最終的にマイナスで終えた日」は8回のみでした。その後の平均リターンは、翌日:+2.33%、1週間後:+2.88%、1ヶ月後:+4.72%。過去は「大陰線の翌日は買い」であることを示しています。

今回の下落は「 悪材料の連鎖によって生じたセンチメントの歪み 」だと考えています。エヌビディアの決算が示したのは、AI 需要が実需に裏打ちされた極めて強固なものであり、構造的な成長トレンドが続いているという事実です。マーケットは一時的に揺れていますが、米国企業のファンダメンタルズ自体に懸念は見当たりません。現在はむしろ、2025年末から2026年にかけての買いの好機を提供してくれている局面だと捉えています。