拝啓 バフェットさん

「投資の神様」と称されてきたあなたは、95歳にしてついに第一線を退く決断を示しましたね。今年11月10日付の株主向け書簡で、「これからはバークシャーの年次報告書を書くことも、株主総会で長く語ることもありません」おっしゃいました。もっとも、その直後に“sort of(まあ、ある程度はですが)”と付け加えており、どこか含みを持たせるあたりは、いかにもあなたらしいユーモアが感じられました。

あなたは僕にとって個人的に忘れ難いご縁があります。1991年、僕がニューヨーク本社で勤務していたソロモン・ブラザーズ証券が経営危機に陥った際、あなたは暫定会長としてニューヨークへ来られ、実質的に会社を救い上げてくださいました。当時の僕は婚約したばかりで、会社が破綻していれば職を失うだけでなく、結婚そのものが危うくなっていたかもしれません。そう考えると、あのときのあなたの行動は、僕の人生にとっても極めて大きな意味を持つ出来事でした。

そんな恩を胸に、1995年にバークシャー・ハサウェイのB株が新規に発行されてソロモンが主幹事を務めた際には、日本の機関投資家に一株でも多く購入してもらおうと奔走したこともよく覚えています。

さらに時が流れ、2023年のバークシャー・ハサウェイの株主総会では、幸運にもあなたに直接質問する機会を得ました。そこで僕は、30年以上前のあの1991年の出来事を改めてお伝えしました。その時、あなたは暫定会長に就任すると、ソロモンの旧経営陣を一掃し、イギリス出身のデレック・モーン氏をCEOに据えました。実はこのモーン氏こそ、かつてソロモン東京支店長として新卒採用の最終判断を下し、僕を採ってくださった方でもあります。

その総会の場で、あなたはふとモーン氏の名前を挙げ、「モーン氏を立派に育ててくれたのは日本の皆さんでした。だから私は助かったのです」と、まるで功績を日本側に譲るような口調で語られました。そのあまりに謙虚で温かな言葉に、僕は胸を強く打たれました。そのうえあなたは、僕の話を聞きながら二度も「ありがとう」と言ってくださいました。それは、驚きとともに忘れ難い感謝の瞬間となりました。

のちに知ったところによれば、あの1991年こそ、あなたの人生で最も困難な時期のひとつだったそうですね。その極限の苦境の中で、会社を立て直し、多くの人々を救ったわけですから、僕にとってあなたはまさに「恩人」と呼ぶほかありません。

バフェットさん、長い間お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。

敬具

岡元ハッチ