時価総額227億ドル以上、一段とハードルが上がったS&P500新規採用

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄に採用されるには米国企業であることが前提で、それは米国内での売上高や固定資産、本社所在地などで判断されます。

このほかの要件には
◇過去4四半期の純損益の合計が黒字で、直近の四半期の純損益が黒字
◇グローバル産業分類標準(GICS)の分類に基づく産業バランスが適切
――などがあります。

また、時価総額の基準は2025年7月に「227億ドル以上」となり、それまでの「205億ドル以上」から一段とハードルが上がっています。

今回は2025年9月22日からS&P500に加わるアップラビン[APP]、ロビンフッド・マーケッツ[HOOD]、エムコア・グループ[EME]に加え、2025年7月に採用されたブロック[XYZ]、トレード・デスク[TTD]の5銘柄をご紹介します。

アップラビン[APP]、アプリ開発事業者の収益化を支援

2024年11月にはナスダック100に採用

アップラビン[APP]はアプリを開発する事業者に支援サービスを提供しています。2024年11月にナスダック100指数に採用されており、今回は満を持してS&P500の構成銘柄に組み込まれます。

株価は9月半ばまで連日のように上場来高値を更新しており、2022年12月につけた安値9.30ドルから3年足らずで60倍以上に急騰しています。

業績は好調で、2025年4-6月期の売上高は前年同期比77%増の12億5900万ドル、純利益は164%増の8億2000万ドルです。依然として急成長が続いています。

主力事業は広告ソリューションの提供

アップラビンの主力事業は広告ソリューションで、アプリ開発者などの広告主に支援ツールを提供し、手数料を受け取るビジネスモデルです。人工知能(AI)エンジンの「AXON」を使い、広告の掲出をユーザーの獲得やマネタイズ(収益化)に効率良くつなげられるところに競争力の源泉があります。

広告事業は「AppDiscovery」というプラットフォームを軸に展開しています。広告主のアプリをインストールしそうな潜在ユーザーを「AXON」でターゲットとして特定し、広告を配信します。こうした潜在ユーザーの一部が実際のユーザーになり、アプリで課金すれば収益化につながります。広告の費用対効果(ROAS)目標の設定とそれに伴うコスト調整といったソリューションも提供し、あくまで顧客目線で顧客の収益化を追い求めるのです。

「MAX」はアプリ開発者に向けたアプリ内広告のビディング(入札)プラットフォームです。こちらはアプリ開発者が得る広告収入を増やすための仕組みです。この方式では複数の広告プラットフォームに一斉に入札するので、最も高い料金に決まります。アプリ開発事業者は従来型の仕組みで逃していた需要を取り込み、収益化を有利に進めることができるのです。

さらに広告の効果を測定・分析するツール「Adjust」もあります。広告を見た潜在ユーザーの行動を分析し、広告効果を測定します。

アプリのユーザー獲得数を増やす対策の一環として、スパーク・ラブス(Spark Labs)を通じて広告コンテンツの制作も手掛けています。広告の中でアプリの疑似体験が可能な「プレイアブル広告」やインパクトの強い動画広告などを制作し、ユーザーの誘導につなげるのが狙いです。

CEOはイラン出身のアダム・フォローギ氏

アップラビンの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のアダム・フォローギ氏は1980年にイランで生まれました。イラン革命そして在テヘラン米国大使館人質事件が起きた年の翌年です。その年にはイラン・イラク戦争も始まっており、フォローギ氏一家はその後、戦火を逃れるため、米カリフォルニア州に移住しました。フォローギ氏はロサンゼルスで育ち、カリフォルニア大学を卒業した後、アップラビンを立ち上げています。

【図表1】アップラビン[APP]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表2】アップラビン[APP]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月18日時点)

ロビンフッド・マーケッツ[HOOD]、若者層の金融ニーズに対応へ

「ミーム株」ブームの担い手

ロビンフッド・マーケッツ[HOOD]は主に個人投資家が利用するネット証券です。株式やETFの取引で仲介手数料が無料だった点に加え、スマートフォンを通じて手軽に売買できることなどが若者から支持され、「ミーム株(はやり株)」ブームの担い手として注目を集めました。

ミーム株ブームの折にはコンプライス面で問題視されるケースもありましたが、現在では利便性の高いプラットフォームとして評価されています。業績も2021-23年は通期で赤字を計上しており、2024年12月期に初めて本格的な黒字に転換しています。

米国では主力事業として株式やETF、米国預託証券(ADR)の売買の仲介をはじめ、オプション取引、端株取引、自動積立投資、貸株取引、年金口座運用といったサービスを提供しています。さらに暗号資産(仮想通貨)取引サービスも強化しており、暗号資産の保管業務や出し入れの利便性が高い暗号資産ウォレットサービスも手掛けています。

若い世代から人気のネット証券会社

ロビンフッド・マーケッツの強みは何と言っても若い世代の利用が多い点です。使い勝手の良いアプリや無料の取引手数料などが若者を引きつけています。実際、2024年末の預かり資産に占める世代別の割合は、27歳以下のアルファ世代とZ世代が24%、28-43歳のミレニアル世代が50%、44-59歳のX世代が20%、60歳以上のベビーブーマー世代とその上の世代が6%です。

米国の家計資産の世代別比率はベビーブーマー世代以上が64%を占めており、X世代が20%で、ミレニアル世代以下はわずか16%です。ロビンフッド・マーケッツはこれから資産を築き上げてゆく世代が主要顧客で、先行きのポテンシャルは高いと言えそうです。

今後は若い世代の総合的な金融ニーズに対応してゆく方針です。さらに親世代からの資産相続もにらみ、銀行などを含めた包括的なプラットフォームへの転身を目指しているようです。

【図表3】ロビンフッド・マーケッツ[HOOD]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表4】ロビンフッド・マーケッツ[HOOD]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月18日時点)

エムコア・グループ[EME]、データセンターブームで恩恵

エムコア・グループ[EME]は米国のエンジニアリング会社です。建物の電気工事や機械工事、ビルの保守運用サービスなどを手掛けています。

2024年12月期決算で売上高が最も大きいのは機械工事部門で、売上高全体に占める割合は44%です。それに次ぐのが電気工事部門で売上比率は23%です。

両部門では電気・機械工事の設計、統合、据え付け、作動、運用、保守などを一貫して手掛けます。対象になるのは建物の電気系統全般、照明、火災警報、ネット回線、分散型アンテナシステム、ソーラーパネル、中央空調システム、防火システムなどです。

ビルの保守運用サービス部門(米国)の売上比率は21%です。主に建物の機械系統、電気系統、配管、防火システムなどの保守を担います。建物の全面的な増築や改装に加え、空調や照明といった部分的な刷新なども請け負います。

産業サービス部門は主に製油所や石油化学プラントを対象にエンジニアリングサービスを提供し、売上比率は9%です。

2024年12月期にはデータセンターの建設が活発化し、機械工事部門や電気工事部門の売上高を押し上げた要因になりました。こうした分野にも生成人工知能(AI)需要急増の恩恵が及んでいるようです。

【図表5】エムコア・グループ[EME]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表6】エムコア・グループ[EME]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月18日時点)

ブロック[XYZ]、モバイル決済サービスでペイパルと競合

ブロック[XYZ]はモバイル決済サービスを手掛けています。旧社名はスクエアで、2021年12月に現在の社名に変えていますが、主力ブランドは「スクエア」のままです。中核事業は商店向けの決済ソリューションサービス「スクエア」と決済アプリ「キャッシュアップ」の運営です。ともにペイパル・ホールディングス[PYPL](以下、ペイパル)と真正面からぶつかります。

「スクエア」では決済を中心に多様なサービスを商店に提供しており、業務の効率化を後押ししています。スクエア部門の2024年12月期の売上比率は32%、粗利益に占める割合は40%です。ペイパルがネット通販のオンライン決済、スクエアが対面のモバイル決済に強みを持ち、棲み分けを図っているとの分析もあります。

一方、キャッシュアップは売上比率が67%、粗利益に占める割合は59%です。顧客によるビットコインの売買も売上高に計上されています。また、デジタルウォレットとしては、個人間送金のアプリという土俵でペイパルの「ベンモ」としのぎを削っています。

【図表7】ブロック[XYZ]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表8】ブロック[XYZ]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月18日時点)

トレード・デスク[TTD]、デジタル広告のコスパ改善ツールを提供

トレード・デスク[TTD]はデジタル広告の費用対効果を高めるデマンド・サイド・プラットフォーム(DSP)を運営しています。広告代理店や広告主など広告を出稿する側にクラウドベースの総合的なプラットフォームを提供し、利用額に応じて手数料を受け取るというビジネスモデルです。

デジタル広告市場は拡大しており、将来的にも一段の成長が見込まれています。ただ、一方通行のマスメディアの存在感が低下する中、モバイルアプリやSNS、ストリーミング式の動画配信、ウェブサイトなど視聴者の分散が加速しており、広告主が大きな視聴者層にリーチするのも難しくなっています。

トレード・デスクの強みは、動画配信などインターネットに接続するコネクテッドTVの分野での豊富な実績と独立系という立ち位置です。アマゾン・ドットコム[AMZN]も自社外のメディアを含めたDSP事業を展開し、トレード・デスクの脅威になっていますが、アマゾンプライムビデオがあり、独立系とは言えません。

将来的な好材料としては、コネクテッドTVやデジタル分野での広告市場の継続的な拡大や規制強化に伴う競合の脱落などが挙げられます。また、既存のプラットフォームを活用した海外展開で事業を拡張することも視野に入れています。トレード・デスクは有望な海外市場として、英国、ドイツ、フランス、中国、日本、インド、オーストラリアを列挙しています。

【図表9】トレード・デスク[TTD]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表10】トレード・デスク[TTD]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月18日時点)