日経平均は史上最高値の更新が続いています。心理的フシ目と思われた4万5000円もあっさりと更新するなど、相場の腰は依然として強いという印象です。そろそろ小休止かとも思いましたが、自民党総裁選の確定で停滞していた政治に変化の期待が高まったということでしょう。これからは株式市場に影響を与えるイベントが続きます。
今週(9月15日週)はFOMC(米連邦公開市場委員会)や日銀政策決定会合が開催されるため、金利政策の動向に注目が集まります。米金利についてはノーサプライズであれば材料出尽くし感が一旦拡がる可能性を考えておくべきでしょう。注目点はむしろ、その次の利下げに関してどういったコメントが出てくるかになると位置づけます。一方、日銀は新たな政治の枠組みが見えてくるまでは少し動き難くなったのではないかと想像します。
そして9月22日には自民党総裁選が告示となり、新総裁選出に向けての論戦が本格化するはずです。当然ながら、政治の変化への期待は株価押上げ要因です。潮目の変化への警戒感を怠ってはいけませんが、依然として「音楽が鳴っている間はダンスを楽しむ」べき状況は続いていると考えています。
環境省と経産省が推進する「人工光合成」
さて、今回は「人工光合成」をテーマに取り上げてみましょう。9月2日、環境省は「人工光合成の社会実装ロードマップ」を発表しました。2030年には一部技術の先行利用を始め、2040年には人工光合成によって生産された化学品を用いた最終製品の量産化を実現するというものです。このロードマップ通りに技術が進展するのかどうかはまだ不透明な部分が多いものの、現在世界的に深刻化している温室効果ガス(二酸化炭素)問題の緩和・解決に繋がるという期待は非常に大きなものがあるといえるでしょう。
経済産業省もNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を通じて人工光合成技術の研究を推進しており、これらは環境対策というだけでなく、世界にその技術を輸出できれば経済面でのポテンシャルもまた無視できません。環境・経済の両面において、この技術の確立・実装は国家プロジェクト的な色彩を帯びてきていると位置づけられるのです。
「光合成」=光エネルギーから有機物を合成
まずは人工光合成とは何かを整理しておきましょう。そもそも光合成とは「植物が太陽光と二酸化炭素から酸素を放出すること」と認識されがちですが、より正確には「葉緑体を持つ生物が光エネルギーから有機物質を合成すること」に他なりません。プロセスは、水を光エネルギー(と光触媒)によって水素と酸素に分解し、水素を二酸化炭素を合成させるという二段階の反応で構成され、酸素は副産物として放出されるという構造です(酸素を放出しない光合成も存在しています)。
植物の場合は光合成によって(生命に必要な)グルコースなどの炭水化物を合成するのが主ですが、これを人為的に行おうというのが「人工光合成」です。合成過程で二酸化炭素は有機物の原料にされるため、二酸化炭素量の抑制に繋がるというわけです。エネルギー源は光であることから環境負荷も限定的であり、合成される有機物にはさまざまな用途が期待できます。水の分解工程だけでも、二酸化炭素の発生なしに水素を製造できるというメリットがあります。間違いなく、非常に夢のある技術の一つと言えるでしょう。
研究は着実に進んでおり、2011年には日本で世界に先駆けて太陽エネルギーのみを使って水と二酸化炭素から有機物の合成に成功した他、現在は(実験室段階ですが)植物を上回る変換効率で有機物を合成することにも成功しています。実用化、量産化、実装化までにはまだ多くのブレイクスルーが必要なのでしょうが、少なくとも2030年の先行利用が視野に入るくらいまで現実性が増していることは確かなのです。当然、株式投資という観点においても、そういった状況が近づけば息の長いテーマとして注目されることになるのではないかと予想します。
「人工光合成」普及のために超えるべき3つのハードル
ただし、人工光合成の普及には3つのハードルを越える必要があります。
一つ目は当たり前ですが、前段で指摘した実用化、量産化、実装化に向けての技術的なブレイクスルーです。各種の新技術は臨界点を超えると一気に進化発展するものですが、人工光合成はかなり研究が進んではいるものの、まだその臨界点越えには至っていないように感じています。
二つ目は水の管理です。人工光合成を行ううえでは一定量の水を安定的に供給する必要があります。水の汚染度の管理や水による人工光合成機器の腐食対策も必至でしょう。
そして、三つ目は経済性です。実はこれが一番の難問かもしれません。技術的に植物を上回る変換効率を実現したとしても、採算が合わなければ事業持続性に欠けてしまいます。端的には、光エネルギーから直接有機物を合成するよりも、太陽光発電によって得た電力を使って工場で有機物を合成した方が安上がりなのであれば、やはり人工光合成を推進する経済合理性が成立しないということです。今後、人工光合成に関してのニュースが出てきた際は、この3点にぜひ、注目していただきたいところです。
現時点で注目しておきたい「人工光合成」関連銘柄
では、人工光合成にはどういった企業が関連しているのでしょうか。まず筆頭はトヨタ自動車(7203)でしょう。トヨタグループ共同出資による豊田中央研究所は、前述したとおり世界で初めて太陽エネルギー、水、二酸化炭素からの有機物合成に成功し、現在も高い変換効率研究の先頭を走っていることで知られています。富士フイルムホールディングス(4901)、三菱ケミカルグループ(4188)も高い関連特許競争力などで知られている他、TOTO(5332)、パナソニック ホールディングス(6752)、出光興産(5019)、NTT(9432)、日本製鉄(5401)も研究実績を有する企業として認識されています。
ただし、人工光合成はまだ臨界点を越えていない技術でもあるため、今後、新しい視点や技術で業界を一変させる企業が出現する可能性も十分あります。あくまで現時点でのリストとご理解いただき、新たなブレイクスルーを実現する企業の出現といったニュースにはぜひ関心をもって注目いただきたいと思います。
