「石破続投=円買い、退陣=円売り」となった理由

これまでのところ、為替市場は参院選後の石破総理続投表明に対して円買いで反応、そして7月23日に石破総理の退陣見通しが広がると最初は円売りでの反応となった(図表1参照)。これは為替市場が目先の円の売買において、日本の財政赤字拡大をテーマに位置付けている影響が大きいことを示しているのではないか。以下で具体的に検証してみる。

【図表1】「石破退陣」報道前後の米ドル/円の15分チャート(2025年7月23日)
出所:マネックストレーダーFX

7月20日の参院選で自公連立与党が過半数割れとなった結果に対し、為替相場は基本的に円高で反応した。これは、この過半数割れという結果にもかかわらず、石破総理が続投を決めたことへの反応の可能性が高かったのではないか。

参院選前後の米ドル/円は日本の長期金利との相関関係が高い状況が続いていた(図表2参照)。これは、「財政赤字拡大→債券価格下落(債券利回り上昇)→円売り」との連想が働いていたということと考えられた。野党勢力が強く訴える消費税減税などに伴う財政赤字拡大は、円売り材料と位置付けていたということだろう。そうした中での石破総理の続投は、とりあえず財政赤字拡大を懸念して売ってきた円を買い戻す材料になったということではないか。

【図表2】米ドル/円と日本の10年債利回り(2025年6月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これに対して7月23日、日米関税交渉での合意を受けて、石破総理が早期に退陣するとの見通しが広がると初期反応は円売りだった。これは、次期総理が自民党から選出される場合でも、少数与党だけに野党からの協力は不可欠と考えられ、その鍵になるのは消費税減税と考えられることから、財政赤字拡大への懸念が再燃するとの判断が働いたことが大きかったのではないか。

「日本の財政赤字拡大=円売り」ストーリーへの疑問

以上のように見ると、「日本の財政赤字拡大=円売り」の可能性が消えるシナリオの1つが石破続投だったが、そのシナリオがなくなったなら、この先は財政赤字拡大をにらみながら円売りが続くということになるだろうか。

この「日本の財政赤字拡大=円売り」いうストーリーは、基本的に日本からの資金流出が前提になるだろう。そうであれば、円だけ売られるのではなく、日本株も売られそうだが、これまでのところ日本株は参院選以前も底堅く、7月23日は日米関税交渉の合意報道を受けてむしろ大幅高となった(図表3参照)。日本株が大きく下がらないなら、財政赤字拡大を懸念した円売りも続くことにはならないのではないか。

【図表3】米ドル/円と日経平均(2025年6月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

トランプ政権の影響を強く受けそうな「ポスト石破」

もう1つ重要なのが、トランプ政権の通貨政策の影響だ。トランプ政権誕生以降の米ドル/円は、同政権の通貨政策の影響を強く受けてきたとみられる。その通貨政策の責任者であるベッセント米財務長官は、6月の財務省の為替報告書公表時のコメントで、「トランプ政権は米国の貿易不均衡拡大を助長するマクロ経済政策は容認しないことを貿易相手国に対して強く警告してきた」と述べていた。

この「米国の貿易不均衡拡大を助長するマクロ経済政策」とは、明らかに貿易相手国の大幅な通貨安やそれをもたらす不当な低金利という意味だろう。それを容認しないことを、「強く警告してきた」としていることからすると、円安容認には自ずと限度があるのではないか。

このトランプ政権の通貨政策は、次期自民党総裁選挙にも大きく影響する可能性がありそうだ。前回の総裁選で石破氏にわずかの差で負けた高市早苗氏は、故・安倍元総理の後継者を自認し、経済政策ではアベノミクスの継承を主張していた。ただこのアベノミクスこそ、大胆な金融緩和とそれに伴う円安容認が大きな柱だった。それはこれまで見てきたトランプ政権の通貨政策とは真っ向から対立するものだろう。

以上を踏まえると、高市氏が今回も自民党総裁選に立候補した場合も、アベノミクスの再現は封印せざるを得ないのではないか。もしくは、トランプ政権の通貨政策と対立する経済政策を高市氏が採用するなら、それは「高市新総裁」の可能性を低下させる要因になるかもしれない。次期自民党総裁も次期総理も、トランプ政権の影響を強く受ける可能性が高いのではないか。