2025年6月11日(水)21:30発表(日本時間)
米国 消費者物価指数(CPI)
【1】結果:前月比ベースでは総合・コアいずれも市場予想を下回り、前月から伸びが鈍化

5月の総合CPIは、市場予想通り前年同月比+2.4%となりました。前月の+2.3%からはやや伸びが加速しています。一方、前月比ベースでは+0.1%と市場予想と前回結果を下回りました。
また、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは、前年同月比2.8%上昇となり、市場予想を下回り、前回結果からは横ばいとなりました。前月比ベースでは+0.1%となり、市場予想と前回結果を下回りました。
【2】内容・注目点:航空運賃の下落等によりスーパーコアは前月比ベースで鈍化

生活必需品である食品のインフレは根強く、米国消費者の購買力低下が懸念
図表2に示されている通り、前月比ベースで内訳を見ると、食品は前月比+0.3%と、前月から伸びが加速しました。前年同月比でも+2.9%とやや高めであり、生活必需品である食品のインフレは根強く、米国消費者の購買力低下が懸念されます。
一方、鳥インフルエンザの影響でこれまで価格の急騰が続いていた卵は、前年同月比で+41.5%と依然として高い水準にありますが、前月比では-2.7%と、前月(-12.7%)から下落が続いており、今後は食品全体のインフレ鈍化も期待されます。
エネルギー価格は、WTI原油価格先物の動向と整合的
エネルギー価格は5月に前月比で-1.0%となり、前月の+0.7%から大きく低下しました。主な要因はガソリン価格の下落(-2.6%)であり、この動きは、5月初旬のWTI原油先物価格の下落後、比較的落ち着いた水準で推移していたことと整合的です(図表3参照)。ただし、原油先物価格は6月に入ってから水準を切り上げ、上昇基調にあるため、次回のCPIではエネルギー価格が総合指数を押し上げる要因となるかもしれません。

また前述のとおり、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアCPIは前月比+0.1%となり、前回の+0.2%から伸びが鈍化しました(図表1)。
コア財価格は弱含み
関税の影響が懸念されるコア財は前月比0.0%と横ばいで、前月の+0.1%から伸びが鈍化しました。中でも新車は前月比-0.3%と下落に転じ、中古車も-0.5%と、3ヶ月連続で価格が下落しています。中古車価格は、2024年末から2025年初にかけて、自動車関税の影響で中古車需要が高まるとの思惑から価格上昇が見られていましたが、その動きも一服した様子です。そのほか、全体としてコア財価格は弱含みの結果となりました。
住居費は緩やかに低下または横ばいで推移する可能性
次に、コアCPIの中でも大きな割合を占め、粘着性の強いインフレ要因として注目されてきた住居費は、前月比+0.3%と、前月と同水準の伸びとなりました。一方、前年同月比では+3.9%と、前月の+4.0%からやや低下しています。
家賃は契約期間の影響により価格が持続しやすい傾向にありますが、図表4に示された前年比の推移を見ると、緩やかではあるものの着実に低下傾向が進んでいることが確認できます。また、CPIの住居費に概ね1年先行するとされるジロー価格指数やS&Pケース・シラー住宅価格指数の動向を踏まえると、今後も住居費は緩やかに低下、あるいは横ばいで推移する可能性が高いと考えられます。

スーパーコア、前年同月比では前回からやや反発、前月比では前回から伸びが鈍化
一方、住居費は遅行性が強く、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を考えるうえでも取り扱いがやや難しい品目のため、FRBのパウエル議長はコアサービスから家賃を除いた「スーパーコア」に注目しています。そして、5月のスーパーコアは、前年同月比では+2.8%と前回からやや反発したものの、前月比では+0.06%と前回から大きく伸びが鈍化しています(図表5)。

スーパーコアの低下は、インフレ抑制の観点からはポジティブな材料といえます。ただし、今回の落ち込みが、これまで米国経済を支えてきたサービス需要の減速を示すものであれば、景気の先行きに対する懸念も生じます。
景気の重要な先行指標である航空運賃が下落
中でも、移動や旅行需要の低下(図表6参照)を反映して、航空運賃の下落が続いている点は気がかりです。航空需要の減少は人流の減少を意味し、旅先でのさまざまなサービス需要の縮小にもつながり得るため、景気の重要な先行指標ともいえます。今後、夏場にかけて航空需要の増加が見込まれますが、例年と比べてどの程度の強さとなるかに注目が集まります。

【3】所感:利下げを求める政権と様子見のFRBのスタンスの違いが今後の焦点か
5月のCPIは総合・コアともに前月比は市場予想を下回り、前年比では総合は横ばい、コアは下落しました。関税の影響が注目されていた中でも、物価の伸びは穏やかにとどまり、現時点では消費者物価に大きな影響は出ていないようです。
今回の結果を受けて、利下げを行いやすい環境が整い、米国経済や株式市場にとってはポジティブな材料と言えるでしょう。トランプ米大統領は、この結果を踏まえて、「FRBは政策金利を1%ポイント引き下げるべきだ」と自身のSNSで主張しています。関税発動後も物価指標は2%前後で推移し、労働市場からのインフレ圧力もそれほど強くは懸念されていないことから、政権側の主張には一定の説得力があります。特に、前述の航空需要の低下をはじめ、各所で需要減退の兆しが見られていることを踏まえると、利下げの遅れは景気後退を招く恐れもあります。
ただし、関税の本格的な影響が現れるのは夏場以降と見られており、物価への影響の全体像はまだ見通せません。そして、6月6日に発表された5月の米雇用統計では、米国の労働市場が依然として底堅さを示しており、FRBには利下げを急がずに様子を見るだけの猶予があると考えられます。このため、FRBは当面、慎重な姿勢を維持する可能性があります。
今後のマーケットでは、利下げを求める政権と、様子見の姿勢を続けるFRBとの間のスタンスの違いを巡る論争が一つの焦点となりそうです。6月17日~18日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)では、政策決定の内容だけでなく、こうしたスタンスに変化があるかどうかにも注目が集まります。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐