先週(6月2日週)の動き:米雇用統計によりFRB利下げ観測後退で売り先行のNY金、円安傾向もありJPX金は最高値圏での滞留

先週(6月2日週)のニューヨーク金先物価格(MY金)は、週末6月9日の終値が3,346.60ドルとなり、週足で反発となった。週足では前週末比31.20ドル0.94%の反発となった。このところ週ごとに反発と反落を繰り返しているが、週末の終値まで3週連続で3,300ドル超となった。日々の終値ベースでは落ち着きが感じられるものの、1日の上下幅では平均的に60~70ドルの値動きが続いている。レンジは3,319.40~3,427.70ドルで週間の値幅は108.30ドルとなった。

米雇用は関税の向かい風の中で堅調維持

先週(6月2日週)は月初第1週ということで、米国関連で重要指標の発表が連日続いた。

注目指標として挙げた6月6日(金)の5月米雇用統計は、トランプ米政権が掲げる関税措置による混乱にもかかわらず労働市場が底堅く推移していることを示し、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを急がないとの見方が固まった。非農業部門の雇用者数は前月比13万9000人増えた。失業率は3ヶ月連続で4.2%となった。市場予想は13万人増、失業率は4.2%だった。一方、4月の雇用者数は当初の17万7000人増から14万7000人増に下方修正された。3月分も当初発表から6万5000人下方修正された。2ヶ月間で9万5000人という大幅な下方修正により、労働市場の勢いの衰えが浮き彫りとなった。ただし、関税の影響や政府部門での解雇などから、下振れを警戒していた市場では逆風の中で堅調との捉え方が優勢となった。

6月3日(火)に発表された4月の米雇用動態調査(JOLTS)で、求人件数が事前予想では前月比減少予想のところ19万1000件増の739万1000件となっていたことも、今なお堅調との見方をサポートした。FRBが利下げを急がない環境の持続はNY金には逆風となる。

米中関税協議に進展

一方、先週は米中関税協議にて前進が見られたこともNY金には売り要因となった。6月5日午前に米中首脳の電話会談が行われたとトランプ大統領が明らかにしたことは、中国側が首脳会談には距離を置いていると見られていたこともあり、一定のサプライズとなった。会談で明らかになったのは高官レベルの話し合いが再開されることだった。

米中間の摩擦が激化するとの極度に悲観的な見方は後退したものの、今後の進展は予断を許さない。実際に6月5日当日の米株市場は、プラス圏に浮上することなく終了した。なお、6日は週明け9日にベッセント米財務長官、ラドニック米商務長官、グリアUSTR(米貿易代表部)代表らがロンドンで中国代表団と協議を行うことが明らかになった。

米中の貿易交渉が進展するとの期待が、ここまでリスク回避で買われていたNY金の売りを促した。

史上最高値圏での滞留が続く国内金価格

こうした中で国内大阪取引所の金先物価格(JPX金)は週足で反発となった。為替市場で米ドル/円相場が週初の142円台から週末には一時145円に乗せるなど円安が進んだことも、国内金価格には押し上げ要因となった。

6月6日のJPX金の終値は1万5680円で週足は前週末比330円2.14%の反発となった。レンジは1万5264~1万5755円で上下幅は491円と前週の209円からは倍になったのは、やはり円安効果による押し上げによると言える。終値ベースでの史上最高値が4月22日の1万5779円なので、先週のレンジ上限は、この価格に近いことに意外感を持つ投資家も多いだろう。国内金価格の史上最高値圏での滞留が続いている。

NYシルバー、NYプラチナの上昇

一方、先週の市場で目立ったのが、NY金以外の貴金属の動きだった。NYシルバーが週初6月2日の終値で1トロイオンス34ドル台に乗せて注目されていたが、この週末にかけて36ドル台に乗せ、6月6日は36.139ドルと2012年2月以来の高値で終了した。

需給に影響する手掛かり材料が出たわけでなく、ゴールドに対するテクニカル主導の出遅れ修正の動きとみられる。同様に6月5日はNYプラチナも週末にかけて買われ、6月6日は一時1,182.7ドルまで買われ1,168.1ドルで終了した。こちらは2022年3月以来3年3ヶ月ぶりの高値となる。当時は前々週にロシアがウクライナに侵攻した直後で、米国を中心にいわゆる西側が対ロシア制裁を発表。ロシアの生産比率が高いパラジウムの需給がひっ迫するとの見方からNYパラジウムが最高値を更新する中で、NYプラチナもつれ高した。なおその際の高値は1,197.0ドルで1,200ドル台には乗せていない。

一時NY金の3分の1以下となるなど、価格差が拡大しているので、1,200ドル超に浮上しても意外感はないが、需給面で目立った買い手掛かりがないのも事実だ。

今週(6月9日週)の見通し:FOMC(連邦公開市場委員会)を前に6月11日(水)の5月米CPIに注目。NY金3,300ドル前半での滞留、JPX金1万5200~1万5800円を想定

来週6月17日(火)~18日(水)に予定されているFOMC(連邦公開市場委員会)を前にFRB高官は発言自粛期間(ブラックアウト)に入っている。FRBは関税発動によるインフレへの影響を注視しており、この点で今週(6月9日週)発表の物価指数が注目される。

特に6月11日(水)に発表される5月の米消費者物価指数(CPI)は、FOMCを前にインフレ動向や関税の影響を評価する上で重要な判断材料となりそうだ。5月は企業が輸入関税のコストを段階的に価格に転嫁し始めたとみられることから、CPIはやや加速したとみられている。基調的なインフレを見る(変動の大きい食品とエネルギーを除いた)コアCPIも5月は前月比0.3%上昇と、4ヶ月ぶりの大きい伸びが予想されている。仮にそうなれば4月の0.2%上昇から加速することになり、上振れるとNY金の買い手掛かりとなる。

一方、米中高官協議については、すぐに結果は出そうにないが懸案のレアアースについて中国側も米国向け輸出緩和に動きだしているとの報道もあり、この件で当面の波乱はなさそうだ。それよりウクライナ戦争にてロシア側が攻勢を強めているとされ、状況によっては地政学リスクに金市場の目が向けられる可能性が出ている。

こうした中で今週のNY金については3,300ドル前半での滞留相場を予想。JPX金は1万5200~1万5800円とレンジ上限では最高値接近の可能性がありそうだ。